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想像以上に安心感のあるコーナリング

text:Greg Macleman(グレッグ・マクレマン)
photo:James Mann(ジェームズ・マン)
translationKenji Nakajima(中嶋健治)

 
今回ご登場いただいたレイ・ルイスの1963年シボレー・コルベット C2には、3速MTのかわりにオプションのパワーグライドATがついている。ベースグレードとL75エンジンのモデルで選択できた装備だ。

1964年にはシンクロ付き4速MTが、すべてのC2で選べるようになっている。MTの感触は期待以上にしっかりしており、ゲートの手応えも良かった。ベースの254ps仕様でも驚くほどトルクは太く、変速が必要になる機会は少なかったが。

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シボレー・コルベット C2スティングレー(1963年1967年

初代コルベットを運転したことがある人なら、C2でも初めてのコーナリングには緊張するだろう。しかし実際にカーブへ侵入すれば、安心感のある操舵感だと気づく。ステアリングホイールの遊びは初代よりずっと少なく、重みも増している。

コルベット C2には、より現代的なボール・ナット構造が採用されていた。ステアリングホイールのアームは細長い穴が開けられ、ロックトゥロックは3.4回転。レシオもクイックになっている。

このシルバーのコルベットの最高出力は、300psほどある。変速に悩む必要はない。期待通り、スティングレーは直線で最高の走りを披露。V8エンジンは力強く、どこまでも加速させていく。

アクセルペダルを踏み倒せば、爆発するようにスタートダッシュ。ローギアのまま、回転数の上昇とともに90km/h近くまでスピードを乗せる。

ストレートだけではない。コーナリング性能と、高いグリップ力にも関心する。まとまりは良いものの、上品さは今ひとつではある。

C2と比べるとコンパクトなEタイプ

路面状態で突然キャンバー角が変化し、振動とノイズがシャシーから響いてくる。時折クルマが、ボディとシャシーで分かれていると感じるほど。リアタイヤが、わずかにブレるような感覚もある。

剛性の高いクーペボディなら、コンバーチブルよりパフォーマンスははるかに優れる。もっと自信を持って、リアタイヤへ力を込められるはずだ。

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ジャガーEタイプ S1 3.8/シボレー・コルベット C2スティングレー

前後の重量配分は48:52と優れ、挙動は予想しやすい。リアタイヤが絶えられなくなると、不安感なくスライドし始める。

コルベット C2は、1965年に4輪ともディスクブレーキを獲得する。しかし初期のドラムブレーキでも、1360kgを超えるスティングレーの車体を、力強く減速してくれた。

サンダー・マユガのジャガーEタイプへ乗り換えてみよう。ステアリングホイールはウッド。シートに座われば、前方には魚雷のように長いボンネットが伸びるが、そのコンパクトさを実感できる。

コルベットのように始動は簡単。アメリカンV8のサウンドへ応えるように、3.8Lの直列6気筒エンジンも素晴らしバリトンノイズを響かせる。

4速のモス製MTは、1速目にシンクロが備わらない。ゆっくりとした変速が求められる。慣れてくれば、操る不安も薄らいでいく。時間をかけて次のレシオを選ぶ。操作自体は楽しい。

シボレーのATも魅力的だったが、MTの操作がジャガーとの関わりを濃くし、運転へ惹き込まれる。パリッと乾いた排気音とトリプルSUキャブの吸気音が、カリフォルニアの空へ広がる。アクセルペダルを、思わず深く踏みたくなる。

軽量なシャシーに空力特性に優れるボディ

気持ちに任せて右足へ力を込めると、パワーは上昇カーブを描くように湧き立つ。コルベットC2のように、静止状態からの迅速さはないものの、まったく違う加速を楽しめる。スミス製のメーターが、その活発さを教えてくれる。

軽量なボディが力強い加速を助け、優れた空気抵抗が高速域での安定性を担保する。アクセルオフでエグゾーストはぐずり、5000rpmを超えて気持ちよく吹け上がる。これほど優れたエンジンには、なかなかお目にかかれない。

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ジャガーEタイプ S1 3.8(1961年1968年

ジャガーEタイプはパワーバンドが広い。パロス・ベルデスの丘に広がるカーブの続く道を、たくましいトルクで舐めていく。1963年同様、ジャガーEタイプを自分のものにするには、大金が必要なこともうなずける。

C2コルベットの方には、いつくかの現代的な改良が加えられている。シャープなラック・アンド・ピニオンのステアリングラックに、ケルシー・ヘイズ製サーボでブーストされる、ディスクブレーキ

しかしシボレーが夢見るような能力を、ジャガーが秘めていることは、乗ればすぐにわかる。引き締められたサスペンションに強固なシャシー。ほぼ完璧なバランスを持つ、パッケージが備わっている。

強い日差しと、少なくなるガソリン。このEタイプが筆者のものではないという現実を気にしなければ、永遠に乗っていたいと思わせる。

ジャン&ディーンがデッドマンズ・カーブで歌った、サンセット・ブールバードのストリートレースは過去のもの。しかしコルベットもEタイプも、過ぎゆく時間を耐え、いまも走りは健在だった。

米英のアイコンと呼べるスポーツカー

ロサンゼルスのダウンタウンを流すなら、コルベットの方が良い。でも、よりお金を積んで、380psのフューエル・インジェクションに4速MTのC2を選びたい。今回の2台なら、Eタイプの方が有利だ。

軽いボディは、少ないパワーを補う。0-97km/h加速では0.5秒の差で、スティングレーを引き離せる。そのまま加速を続ければ、EタイプはC2より40km/h速い最高速度に届く。

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ジャガーEタイプ S1 3.8/シボレー・コルベット C2スティングレー

直線速度だけではない。ジャガーはこれまでの自動車において、最も美しい姿をまとった1台でもある。ル・マンレーサーのDタイプとの結びつきは明らかで、走行性能の高さは、見た目を裏切らない。

スティングレーは、キレの良いサーベルというよりも、大きなハンマー。スタイリングも、両車の性格を表すようだ。往年のレシプロ戦闘機P-51マスタングスピットファイアの違いのようでもある。

筆者にとって、ジャガーEタイプ S1の息を呑むようなスタイリングと、素晴らしい直列6気筒エンジン、スポーティなハンドリングという魅力は圧倒的。一方で、V8エンジンが奏でるサウンドを身体で楽しめる、コンバーチブルのシボレー・コルベット C2スティングレーも負けない色気がある。

シンプルで費用対効果に優れるシボレーと、モータースポーツ譲りの高価なジャガーは、別のアプローチを取ったといえる。しかし、どちらも着地点は近い位置にあった。今日まで生き残る、アイコンと呼べるスポーツカーが誕生したのだった。

コルベット C2とEタイプのスペック

シボレー・コルベット C2スティングレー(1963年〜1967年)のスペック

価格:新車時 4040ポンド/現在 7万5000ポンド(990万円)以下
生産台数:11万7964台
全長:4450mm
全幅:1765mm
全高:1264mm
最高速度:199km/h
0-97km/h加速:7.5秒
燃費:5.2km/L
CO2排出量:−
乾燥重量:1383kg
パワートレインV型8気筒5356cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:304ps/5000rpm
最大トルク:49.6kg-m/3200rpm
ギアボックス:2速オートマティック

ジャガーEタイプ S1 3.8(1961年〜1968年)のスペック

価格:新車時 5580ポンド/現在 14万ポンド(1848万円)以下
生産台数:1万7375台
全長:4445mm
全幅:1660mm
全高:1190mm
最高速度:239km/h
0-97km/h加速:6.9秒
燃費:6.3km/L
CO2排出量:−
乾燥重量:1202kg
パワートレイン:直列6気筒3781cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:268ps/5500rpm
最大トルク:35.8kg-m/4000rpm
ギアボックス:4速マニュアル

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ジャガーEタイプ S1 3.8(1961年1968年

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