冒頭の写真をご覧ください。週末に私が撮影したものです。

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 新型コロナウイルス感染症の広がりで様々な制限がかかってから、皆さんいろいろな新生活習慣を工夫されていると思います。

 私の場合は近くの野山を散策するのを新しい日課にしました。

 前日まで大したことのなかったアジサイがいきなり満開になったり、鳥の歌、虫たちの営みなど、本当に心慰めてくれます。

 最近の楽しみは「キノコ」探しで、上の写真は昨日見つけた、直径が30センチはあろうかという巨大なマッシュルーム、詳しくないので名前は分かりません。

 ご存じの読者がおありでしたら、ぜひ教えていただきたいと思います。さて、このキノコに学んで、本来あるべきウイルス対策、2020年代のグローバル・スタンダードについて、ご説明してみたいと思います。

 上の写真のキノコは、言ってみれば単立の「巨大クラスター」、台東区中野区で発見された病院丸ごと感染といった状況に似ています。

ウイルス突然変異は人体の中で発生

 今回のコロナウイルス、中国の武漢市で発生したものと、欧州で蔓延したものとは、祖先は同じだけれど、実は分家同士に当たる、親戚筋のウイルスであるることが知られています。

 より詳細な解説はウイルスを扱う専門家にお譲りするとして、ここでは「中国株」と「欧州株」は親戚ではあるけれど、突然変異した別のものであり、感染力や発病した場合の症状などに違いがあると考えられていることのみ、確認しておきましょう。

 例えばの話、突然変異前は呼吸器の症状が主要だったけれど、変異後は感染力が強まり、かつ下痢の症状も出る・・・といった具合で、ウイルスは常に進化している。

 ここから先が、多くの上品な解説に出てこない部分で、大学の教養学部で学生たちを相手に話していて強調すべきと思った点です。

 つまり、「突然変異」というのは、空気中で起こるわけではないのです。必ず人体の中で起きる。

 ある一人の患者の一つの臓器のある細胞で最初の突然変異が起き、それが性質の強いものであった場合、爆発的に増えて行く。

 コロナに関しては韓国ソウルの繁華街「梨泰院」エリアの誰か一人の患者の中で、突然変異が起きたことで感染力が強まってしまったことなどが、確認されています。

 こうした突然変異の起きる確率は一般的には小さい。小さいけれど、ある割合で発生する。

 そうなると、ウイルスがたくさんいたほうが、突然変異が現実に起きる可能性が出てくるわけで、仮に発症などしなくても「ウイルスをたくさん飼っている」という状態そのものを、回避しなければなりません。

 仮に低い確率でも、有限の率でリスクが発生するなら、母数を絞る対策を取らなければ、どこかで爆発する可能性を拭い去ることはできません。

 その観点から「感染源地域」の封鎖という「スマート防疫」の考え方をご説明しましょう。

見えないウイルスをゾーンで叩け!

 東京都下の某所に「となりのトトロ」やら「まっくろくろすけ」やらが出没する森があります。

 40年来私が散策するそのエリアがどこであるかは「三密」対策も含め、伏せておきましょう。

 先ほどの巨大キノコもそこに生えていたものですが、次の写真を見てください。何か目立つものがありますか?

 特段どうということのない雑木林の下草と枯れ落ち葉ですが、実はよく見てみると・・・

 そこいらじゅう、一面にキノコが生えている。びっくりします。このような状況はどうやって生まれるのか?

 キノコは胞子が増えていきますから、このエリア一体に胞子がバラまかれたことは間違いありません。ただ、すべての胞子が発芽して、めでたく傘まで開くことができるとは限らない。

 仮にこのエリアで、キノコが生えないように対策するなら、どうしたらいいでしょうか?

 すでに発芽したキノコを、一つひとつ退治していけばいいか?

 そうではありません。すでに、未発芽のものも含めて、エリア全体に散らばった胞子すべてに対策を立てねば「駆除」はできない。

 ゴキブリやシロアリ退治でも同じでしょう。成虫を一匹二匹敲いたからといって根絶には至らない。

 うちの大学の名誉教授で臨床医でもある児玉龍彦さんが参院の特別参考人に呼ばれ「エピセンター」という言葉を使用し、経済再生担当大臣である西村康稔氏に見事に通じていない様子でしたので、それをキノコで説明いたしましょう。

 児玉さんは別段親しくはありませんが、9年前に私が編集した「低線量被曝のモラル」で一章に登場していただき、その頃も国会に招致されて涙ぐむ演説が話題になりました。存じ上げない方ではありません。

 また、その主張されるところは実に的を射ており、補足したいと思います。

 左の写真は「トトロの森」の、とある、およそ人の入り込まない奥の奥の遊歩道で、道のど真ん中にキノコが茂っています。よく見ると近くの木の根が地面に出ており、そこからたくましく生えている。

 単立クラスターというのは、この左のキノコの状態、つまり単立コロニーに似たものと考えていいと思います。

 どこのカラオケで5人出た、あそこのフィットネスで8人陽性といったカタマリが左の状態に似ている。

 これに対して児玉さんが参院で述べた「エピセンター」は、未発症者も含め、ウイルスキャリアが多数、高密度で存在し、そこから新たなウイルス突然変異が起きてしまうような地域(エリア)全体を指す言葉で、単立のクラスターとは全く意味が違う。

(ちなみにエピセンターという言葉は地球物理、地震学でいう「震央」の意で、明らかに別の原義を持つ比喩ですので、物理出身の私としてはあまり使いたくないのですが・・・)

 新型コロナウイルスは感染力は強いけれど必ずしも発病率や致死率は高くない。だから見過ごされやすく、気がついたときには至るところウイルスだらけになっている。

 これは「羽蟻が出たら要注意」というシロアリの害とよく似ていると思います。

 一匹二匹では大したことはない。ところが知らぬ間に増えて大黒柱に巣くってしまうと、気づいたときには家は倒壊してしまう。

 エリア全体に、いまだ発芽前の胞子、つまり未発症のウイルスがバラまかれた「エリア」がエピセンターと呼ばれているものです。

 もっとはっきり書けば、韓国ソウルの「梨泰院」、あるいは「新宿」「池袋」より広域には「東京」とか「大阪」がエピセンター化している。

 そこで「未発芽」のウイルスが至る所に増殖して突然変異を起こし「東京型」「大阪型」など、独自の症状を持つ「新株」にウイルスを進化させている<確率変動の場>が生まれているリスクを、最も恐れるべきなのです。

 特定のクラスターさえ封じ込めてしまえばどうにかなる地域で、経済の全面封鎖などしてしまったら、無為に日本社会は衰退し正味の国難を迎えてしまう。

 だからといって、エリア全体に「未発芽」のウイルスが莫大に存在する「感染源集積地域」を「見たところ、大したことないから、自由にGOTOキャンペーン」とお出入り自由にしてしまうと、取返しのつかないことになってしまう。

 一貫してこの連載で指摘していることそのものですが、国会で専門家参考人が証言する方が、それは説得力があるでしょう。

 その先の対案については、本論は続稿以降に譲りますが、本質的なポイントであるゲノムのマッピングや「スマート防疫」のアウトラインのみ、ここでは触れておきたいと思います。

克服のカギは「スマート防疫」

 日本は、また東京は、圧倒的に検査数が少ない。少なすぎます。

 その背景には、3月時点まで「東京オリンピック」開催が念頭にあり、様々な「政治的判断」が下されたことが一つ。

 それから、医療崩壊を恐れ、確保された病床数以上に陽性者数を出さないような手心を各地保健所などが加えた、自粛なのか忖度なのか、ともかく「ファクトに対して不誠実な疫学調査」が一つ。

 これらの事実が、あまりにも手痛すぎました。「発症しなければ、いくらコロナが増えても大丈夫」という本音が、権限をもちリテラシーを欠く人たちの脳裏にある限り、国難は去りません。

「コロナ大したことない説」に至っては、あまりにも言語道断で言及する意味もない。

「東京」「新宿」「池袋」といったエリアだけでも、メッシュの目が粗すぎるのです。

 まず、ほとんど全人口を対象とする規模の「抗体検査」で、未発症の人口を含めて「真の蔓延」がどの程度であるかをきちんと把握すること。

 当たり外れのあPCRですが、これは遺伝子を扱う検査で、検体からゲノムをチェックするところまで徹底して初めて、21世紀グローバル標準のAIビッグデータ解析を駆使する「スマート検疫」となります。

 より正確に記すなら、そうして初めて「堅牢なスマート・シティにおけるデータ駆動型パンデミック封じ込め」の入り口に近づくわけです。

 ドライブスルー検査などで徹底したデータテイクを実施、梨泰院でのゲノム突然変異なども突き止めている韓国の防疫を想起してみてください。

 新宿、池袋、あるいは他の地域といった詳細な推移分布を検査母数と陽性率として示すのが、東京都が取るべき「最低限」のデータ・マナーでしょう。

 ただ急ピッチで検査数を増やし、途中をブラックボックスにしたまま「4000人を超えた、身構える」「286人も出た、大変だ」云々、東京全体をブラックボックスに不安を煽るような発表はいかがなものでしょうか。

 一方、これまたプロセスも試算も何もないように見受けますが、疫学も経済対策も素人なら、わずかな人数で相談してGOTOキャンペーンへの大転換。

 国交省寝耳に水ながら、いち早く「保証は一切しません」だけが報道に流れるといった「根拠に基づかない政治(Evidence-based-less Policy)」では、そもそも話の出発点にもつけません。

 もっときめ細かく、また感染経路よりよほど本質的な「ウイルスのゲノム型」分布、そのマッピングと仮想伝染経路推測のAIビッグデータ解析などを駆使する2020年代の対策が、グローバル標準のスタートラインです。

 日本では2020年の今年時点でも、病院、医院から保健所に手書きのファクスで症例報告を送っているという。

 すでに大半の途上国ですら確立している公衆予防衛生ICTネットワークがこの日本では稼働していないという馬脚が現れています。

 根本的に取り組みを改めないと、遅れた分だけ被害は確実に拡大するでしょう。読者のリクエストが多ければ、より踏み込んだ各論もご紹介しようと思います。

(つづく)

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  恐れていた感染第2波、正体は感染力を増したG系統

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