先日、2021年に実物大のフリーダムガンダム(機動戦士ガンダムSEED)立像が中国・上海市の商業施設「ららぽーと上海金橋」に設置・展示されることが発表され話題となった。

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実際、SNSにあがっていた日本のアニメファンの声を見てみると「上海に猛烈に行きたい」「嬉しい…夢か現実か」といった喜びの声のほかに、「なんで上海にフリーダムなの?」「やるならフリーダムよりストライクの方にしてほしかった」といった機体の選定に対する疑問の声もあった。そこで、ガンダムの生みの親・富野由悠季著「映像の原則」(キネマ旬報ムック)など、日本書籍の翻訳に携わっている台湾人翻訳家・林子傑氏に、中国人にとっての「機動戦士ガンダム」観や、フリーダムガンダムの人気の理由について聞いた。

■中国の経済発展とリンクした「ガンダムSEED」は、中国のガンダムファンにとってファースガンダム

――実物大フリーダムガンダムは現地でも話題になっていますか?

「アニメファンの界隈は大騒ぎでした。Weibo(中国のSNSサービス)では『魔都(注:日本のアニメマンガにちなんで上海を揶揄する呼び方)がうらやましい』『日本文化輸出の成功例がまた一つ増えた』『上海がガンダムの聖地になるのね。将来東京に行かなくても最高なものが見られる』といった好意的な声が多かったです。けれど、現地や一般層はファンほどの大きい反応がありませんでした。とはいえ、2021年の『ららぽーと上海金橋』開業に合わせて相当インパクトのある展示になりますので、本格的に話題になるのはその時になると思います」

――中国における「機動戦士ガンダム」の人気、立ち位置を教えてください。

「『機動戦士ガンダム』は、中国ではもっとも人気のある日本アニメの一つで、シリーズの歴史の長さや設定・ストーリーの深さで、ロボットアニメというカテゴリーに留まらず、SFアニメとしても代表的な作品と評されています」

――数あるガンダム作品の中からフリーダムガンダムが選ばれた理由というのは?

「もともと、フリーダムガンダムが登場するアニメ『機動戦士ガンダムSEED』は日本で屈指の人気を誇るシリーズ作品であり、いわゆる「宇宙世紀もの」以外の「アナザーガンダム」の代表格です。日本に設置されたファーストガンダム、ユニコーンガンダムに続いて、このチョイスは妥当だと思います」

――機動戦士ガンダムSEEDは中国のアニメファンにとってどんな作品ですか?

「中国でもガンダムシリーズは有名ですが、その中で『機動戦士ガンダムSEED』は、インターネットの普及により日本とのタイムラグを大幅無くしたこと、ファンがぐっとコンテンツにアクセスしやくなったこと、そしてファンの活動が一気に盛んになったことにより爆発的な人気と認知度を獲得していました。その立ち位置は、さしずめ『中国のファーストガンダム』といった所でしょうか」

――ガンダムSEEDが中国の方に支持されている理由は?

「前述したように、ちょうど中国の経済発展やインターネットの普及などの要因と重なっていたのが大きかったんです。作品論でいうと、美麗なキャラクターデザイン、分かりやすいメカニックデザインおよび鮮明なストーリー展開が、大きな支持を集めた一番の理由でしょう」

■日中が抱えるアニメ海賊版問題の解決策は?「利益を守りたい」企業心理を利用

――日中のガンダムファンに特徴の違いはありますか?

「アニメーションやプラモデルといったコンテンツは嗜好品の一種類ですので、経済発展と切っても切れない関係があります。そのため、中国のガンダムファンといえば圧倒的に『80後、90後』(1980年代、1990年代生まれ)が多く、平均年齢も日本より全般的に若いです」

――80後、90後の方は2000年代、海賊版を通じて作品に触れることが多かったと聞いています。現在、中国において海賊版は改善されているのでしょうか?

「近年、YoukuやBilibiliなど正規大手配信プラットフォームが次々と立ち上げられましたが、どの配信も利便性や即時性を最重要視しており、ユーザビリティはかなり向上しています。そのため、わざわざ海賊版を見るメリットはほぼ無くなりました。現在、違法動画はまったく無くなったとは言い切れないものの、十年前に比べて大幅に改善されています。バンダイや中国当局の取り締まりもすでに違法プラモに重点を置いていると思います」

――日本も同様に海賊版への啓発活動が盛んに行われています。中国における海賊版に対する権利意識、リテラシーの変化は?

「中国に限らないですが、現在活躍している海外正規動画配信サイトのなかでは、もともと海賊版を垂れ流した非法サイトも多いです。彼らにコンテンツの正式な配信権といった権利を与えれば、彼らは自分が獲得した正規な権利と利益のために、能動的に非法サイトを潰してくれます」

――なるほど、「利益を守りたい」企業の心理を逆手にとったわけですね。

「日本のファンの中では、このやり方について納得できない人は未だに多いですが、戦略として極めて有効です。また、海賊版を視聴することは作者に対するリスペクトが欠けている行為だと思って、自制したりやめさせたりするファンも増えています。そのへんは、中国の著作権に対する全般的な意識が徐々に高まっている証だと考えています」

――今後、実物大フリーダムガンダム立像によって、日中のガンダムファンの交流も増えると思います。そうした文化交流もまた、作品に対する理解やリスペクトを深める良い機会になりそうですね。

「今まで『ガンダムの聖地』といえば、実物大立像が立っていた東京のお台場や、ガンプラを生産している静岡のバンダイホビーセンターでした。今後は上海が、中国や日本のみならず、世界各国からのファンが集まる『第三の聖地』となったら嬉しいですね。実物大フリーダムガンダムの設置は、ガンダムが世界のコンテンツとして愛されるための、大きな前進だと思っています」

【左】2021年、中国・上海市の「ららぽーと上海金橋」に設置される「フリーダムガンダム」立像 【中】お台場に設置された「ユニコーンガンダム」立像【右】2009年に設置された「RX-78ガンダム」立像/(C)創通・サンライズ