火葬場での収骨の方式には、大きく分けて2つの方法があります。東日本で一般的な「全収骨」と、西日本で多くみられる「部分収骨」です。

 全収骨の場合でも取り切れなかった遺骨の破片や、部分収骨のときに収骨しなかった部分など、残った遺骨の行く末は火葬場に任せることになります。火葬場で収骨されなかった、もしくは収骨し切れなかった遺骨片や火葬に伴う灰を「残骨灰(ざんこつばい)」と呼びますが、その処分方法が物議を醸しているとしばしば報道されています。

 報道の内容は「残骨灰の始末にあたり、その中に含まれる貴金属を自治体が売却して利益を得ている」というもので、紙面によってはまるで「火葬場や自治体が遺骨を売ってお金を得ている」という印象を与えるような書き方をしています。

埋没場所がなければ業者へ

 残骨灰の処理方法はさまざまで、火葬場の立地によって異なります。公営霊園などに併設の火葬場では、敷地内に残骨灰の埋没が可能な施設があり、単純に埋没して処理しているケースが多く見受けられます。一方、埋没場所がない火葬場では、残骨灰を処理業者に委託する形をとっています。

 処理業者は火葬場から処理の委託を受けると、まず、残骨灰を骨とそれ以外に分別します。残骨灰には、さまざまな副葬品により、ダイオキシン類や六価クロムなどの有害物質が含まれているため、有害なものを取り除く作業が必要です。

 その過程の一つとして、環境汚染の可能性のあるさまざまな金属(ひつぎを組み立てる際に使われるくぎ、副葬品由来のもの)などを分別しますが、その中に貴金属も含まれています。“換金可能”といわれるのは主に、歯の治療に使われる金銀パラジウム合金のことで、分かりやすくいうと「銀歯」です。

 もともと、残骨灰処理は処理費用から換金可能な貴金属代を引いて、料金が決まっていました。処理過程で環境保護のために金属を分別するので、処理費用からその分を引いてくれることは、処理を依頼する方にとってはありがたい話でした。

 かつては、処理費用からわずかに割引があった程度でしたが、近年の金銀パラジウム合金の高騰によって分別した貴金属代が上がり、処理料金を上回ってきたので、“一円入札”や結果として返金という形になったのです。

 昔から、お金を払って残骨灰の処理を委託してきたのが、含まれる金属の価格の高騰によって処理費用を超えてしまった――それだけの話であり、鉱物資源の需要と供給の問題です。つまり、予測し切れないことで、火葬場や自治体が遺骨を使ってお金もうけをしているかのような報道をする記事に問題があるのだと思います。

 では、安全な処理をされて分別された遺骨はどこに行くのでしょうか。結論から言ってしまえば、全国各地にある埋葬施設に納骨されて永代供養されており、各地で年1回、「供養祭」が行われています。

 埋葬場所は全国各地のお寺にあることが多く、有名なところでは、石川県輪島市にある総持寺祖院に、自然サイクル保全事業協同組合による「全国火葬場残骨灰諸精霊永代供養塔」が建立されており、「開山忌法要」の一環として全国から多数の関係者が集まり、丁寧な法要が営まれています。

 敷地内に残骨灰を埋没している火葬場においても、年に1回以上の慰霊祭が行われていて、収骨されなかった遺骨も丁寧に供養されています。

止まらない都市伝説

 残骨灰の処理については、悪意があるとしか思えない都市伝説がたくさんあります。

 1つ目は「火葬場で引き取った骨の残りは肥料の材料として引き取られ、使われている」というものです。農家からも、「そんな事実は全くなく、『人骨を肥料として使った』などと言われたら商品価値がなくなるので、リスクが高過ぎて使う理由が一切ない」と強く批判を浴びています。

 2つ目は「残った骨を粉にして、コンクリートブロックなどの材料にする」というもの。これも全くのデマで、農作物と同様に商品価値がなくなるどころか、最悪の場合には工事までやり直しになるのでメリットがなく、否定されています。最近、デマだと理解している人が増えてきたので、葬祭業に関わる人間としてホッと胸をなで下ろしているところです。

「死」にまつわることには、デマが多いです。新聞記事でもネットのデマでも、死体・遺骨・火葬といった話は非常に目を引きやすく、目立ちがちなので、デマや偏向報道が非常に多い分野なのです。

 同様の理由から、都市伝説などもつくりやすく、承認欲求を満たすために題材にされやすいのでしょうが、火葬場の職員さんや処理業者さん、供養に関わる寺院の皆さんなど、現場で働く人たちを思うといたたまれない気持ちになります。

 現場の人たちは、敬意を持って適切に遺骨を処理して供養しています。特に問題のないことを問題があるかのように報道したり、根も葉もないデマを吹聴したりされていることの方が問題だと思います。

「収骨されなかった遺骨にも敬意を持ち、適切に処理している」。こうした当たり前のことは目立たないかもしれませんが、繰り返し発信すべき、意味のある情報なのではないでしょうか。

佐藤葬祭社長 佐藤信顕

骨つぼに入り切らなかった「遺骨」は…?