コロナ禍で多くのイベント、芸術祭が中止されているが、過去3回の実施を通して「本当の意味で山形というまちが見えてくる」「みちのくへの入り口として、山形という土地、そこに暮らす人びと、そしてそこに生まれる文化がどんどんとひらかれていっている」「アーティストと学生と地域住民が一緒につくり、楽しむ芸術祭」というユニークさで注目と期待を集めている「山形ビエンナーレ2020」が開催を決めた。

 東北芸術工科大学による主催で2014年から始まった「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ」。これまでは山形県出身の絵本作家・荒井良二が芸術監督を務めていたが、新たに軽井沢病院総合診療科医長、信州大学社会基盤研究所特任准教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員でもある医師の稲葉俊郎を芸術監督に迎える。テーマは「山をひらく」(2014)、「山は語る」(2016)、「山のヨーナ」(2018)と続いたが、第4回を迎える今回は「山のかたち、いのちの形~全体性を取り戻す芸術祭~」を掲げた。これまでの芸術祭は山形市内を舞台にさまざまな作品を展示し、アートプロジェクトを実施してきたが、世界の状況が一変した環境の中、芸術祭の新しい可能性を示すべく、オンライン配信を中心にプログラムを展開していくことになった。多くのゲストアーティストとともに、芸術文化の存在意義、価値を山形から発信していく。

 トップに掲示したイメージビジュアルは、自然界と人間界をつなぎ新しい世界の在り方を見出そうとしている存在を、山伏の坂本大三郎をモデルに起用して表現したという。

■総合プロデューサー・中山ダイスケからのメッセージ

総合プロデューサー・中山ダイスケ東北芸術工科大学 学長

総合プロデューサー・中山ダイスケ東北芸術工科大学 学長

新型コロナウィルス流行による影響で、多くの文化イベントが中止となっていますが、私たちは「山形ビエンナーレ2020」を感染予防に配慮した「オンライン型」で実施することを決定いたしました。

本芸術祭は、第1回目の2014年に「山をひらく」と題し、震災以後の「みちのくへの入り口」を開くために始まりました。東北芸術工科大学が主催し、アーティストと学生と地域住民が一緒に作った小さなビエンナーレは、2018年まで3回開催されました。

4回目を迎える今年は、現役医師である稲葉俊郎氏を新芸術監督に迎え、新たなシリーズを始めます。「山のかたち、いのちの形」と題し、命をとりまく全体性をテーマにしたアート&カルチャーのミックスイベントは、前シリーズよりもさらに地域を舞台にして多くの学生や住民が参加する形での開催を準備しておりましたが、アーティストの移動や住民との接触が制限される状況であっても、社会全体が命や健康について感じ合っている今だからこそ、中止ではなく発信すべきであると判断しました。 オンライン開催となるため、これまでのように多くの観客のみなさまに初秋の美しい山形を訪れていただくことはできませんが、様々なwebコンテンツを通して山形やアート体験に接していただければ幸いです。

■芸術監督・稲葉俊郎からのメッセージ

芸術監督・稲葉俊郎(医師/軽井沢病院総合診療科医長)

芸術監督・稲葉俊郎(医師/軽井沢病院総合診療科医長)

わたしたちが生きる行為は生命の全体的な営みである。心・体・命・人生・自然。お互いが関係性を持ちながら部分と全体とが相互に影響しあっている。

自然界は常に変化のプロセスにいるからこそ、時にはわたしたちの心身も変化し、バランスは崩れる。心身と命のバランスを失いかけている時には、全体性を取り戻す場が必要だ。完璧で完全な場は存在しなくても、全体性が保たれている場は生み出すことができる。

2020年の新型コロナウイルス流行を契機に、社会は大きく変わる。もう元には戻れない。わたしたちはお互いの距離を大切にし、あらゆる生命との距離を大切にする社会へとシフトする。

色々な転換が起きる。量よりも質を大切にする。浅いつながりよりも、深いつながりを求める。「いのち」の根元を見つめなおし、「いのち」と結びついた社会を求める。わたしたちは、「生命力」や「共感力」といった「力」を必要とし、そうした「力」を分け合い、共有する場を共に創り上げていく。

このコロナ禍で、ドイツ政府が「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要だ」と唱えたが、「アートがわたしたちの生活を支える大切な社会基盤である」との考えは、まだ日本では定着していない。

山形ビエンナーレは、現役の医師が芸術監督を務める芸術祭として、わたしたちが固有の健康を回復する未来の養生所になることを目指す。「いのち」に対して開かれ、「いのち」というフィロソフィーを共有する芸術祭でもある。

わたしたちの「いのち」は、森羅万象に開かれている。わたしたちひとりひとりは、一対一で宇宙に対峙している。この過酷な自然環境の中で、どんな絶望の中でもどんなに困難な状況でも希望を持って生きていくことを、多くの先人たちが繰り返してきた。それこそが人類の歴史だ。どんなにくじけそうなときでも、文化や芸術の力によっていのちに火が灯され、心身が目覚め、いのちの力が呼びさまされて蘇生する。

「芸術」と「祭り」の本質を損なわないようにしながら、現代でどのようにして芸術祭は開催できるのだろうか。直接的にも間接的にも文化や芸術に携わる人たちが、「アーティスト(アート)は必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要なのだ」という問いへの返答として、共に悩み、共に考え、共に心を動かし、共に表現することこそが、新しい時代の芽生えとなる。そうした問いへの返答を、未来へと投げかける芸術祭である。

『山形ビエンナーレ2020』の内容は ?  

 『山形ビエンナーレ2020』の公式webサイトをプラットフォームに、オンラインによるコンテンツ配信と各種メディアミックスによって開催される。稲葉芸術監督や東北芸術工科大学の教員陣がキュレーターとなり、アート&デザイン、音楽、食、工芸、歴史などさまざまなジャンルのオリジナルコンテンツを展開していくという。会期中の週末(金・土・日・祝日)には、LIVE配信を行うほか、オンデマンドで視聴できるコンテンツや、陶器など作家作品が購入できるオンラインショップも設置される。発信スタジオは、東北芸術工科大学キャンパス内および山形市内に置かれる。

【プログラム概要】
 ※プログラム内容は変更する場合があります。

① いのちの学校

アート、音楽、パフォーマンス、食、ボディワーク、レクチャーなどのプログラムをオンラインで開催。出演者と参加者が同列となり「いのち」の在り方を共有し、身体の全体性、こころの全体性を取り戻す場を創造する。(オンデマンド配信、LIVE配信、ネット販売)

​■担当キュレーター:稲葉俊郎、岩井天志
■参加アーティスト(予定):青葉市子(音楽家)、Akiko(ジャズシンガー)、池田早紀(アーユルヴェーダ カウンセラー&セラピスト)、稲葉俊郎(医師、山形ビエンナーレ芸術監督)、岩崎航(詩人)、上野雄次(花道家)、内田輝(音楽家)、OLAibi(音楽家)、勝見淳平(培養発酵宙造研究所 所長)、後藤誠二(パーソナルコーチ)、木村泰子(大阪市立大空小学校初代校長)、GOMA(ディジュリドゥアーティスト/画家)、鈴木ヒラク(アーティスト)、瀬藤康嗣(サウンドアーティスト)、鶴田真由(女優)、Le duo N'imPorte Quoi(ミュージシャン)、遠野未来(建築家)、中山晃子(アーティスト)、成瀬正憲(山伏/採集者)、藤田陽介(アーティスト)、プリミ恥部(宇宙LOVEアーティスト)、マヒトゥ・ザ・ピーポー、ミカエル・シュプランガー(AI研究者)、三原寛子(料理家/南風食堂)、村岡ケンイチ(似顔絵セラピー代表/イラストレーター)、yasuhide ono(アクセサリー作家/うつしき代表)、山川冬樹(美術家/ホーメイ歌手)、yuko morii(オーナメント)

② 土と人
地球を想い、人と人が繋がり、健やかな生き方がうまれるフィールドをつくっていくコミュニティ。山形県を中心とした有機農家、伝承野菜農家の活動を紹介するとともに、マクロビオティック、菜食のお店、『いのちのテーブル』などが出店(出展)するオーガニックマーケットを会期中に開催予定。(オンデマンド配信、ネット販売)

■担当キュレーター:岩井天志、稲葉俊郎
■協力:山形県農林水産部農業技術環境課、山形県有機農業者推進協議会

③ 現代山形考~藻が湖伝説

山形県村山地方に伝わる「藻が湖伝説」を軸にタウンミーティング型の地域研究をスタートさせ、新たな郷土史を編集し刊行。フィールドワークを重ねたアーティストたちの制作プロセスや作品をメディアミックスで発信する。(オンデマンド配信、LIVE 配信) 

■担当キュレーター:三瀬夏之介、宮本晶朗
■参加アーティスト(予定):アイハラケンジ(アートディレクター・デザイナー)、青野文昭(美術家)、青山夢(東北芸術工科大学大学院生)、秋山さやか(美術家)、浅野友理子(画家)、阿部麻衣子(アシスタントキュレーター)、アメフラシ(コレクティブ)、井戸博章(彫刻家/保存修復家)、石倉敏明(芸術人類学/神話学)、尾花賢一(美術家)、岡崎裕美子(歌人)、岡村桂三郎(日本画家)、狩野宏明(画家)、金子朋樹(日本画家)、草彅裕(写真家)、ゲッコーパレード(演劇)、現代風神雷神考(コレクティブ)、後藤拓郎(画家)、是恒さくら(美術家)、ナオヤ(イラストレーター)、永岡大輔(美術家)、中村ケンゴ(日本画家)、ハタユキコ(画家)、深井聡一郎(彫刻家)、番場三雄(日本画家)、水野健一郎(アーティスト)、三瀬夏之介(日本画家)、森岡督行(森岡書店店主)、吉賀伸(彫刻家)

④ 『10年の器・10年の菓子』東北芸術工科大学工芸コース×乃し梅本舗佐藤屋10周年企画

東北芸術工科大学芸術学部美術科工芸コースと乃し梅本舗佐藤屋は、2011年度より学生たちの器に新しい和菓子を創作する共同プロジェクト(授業)を実施。今年で10周年の節目に、この授業を受講し、その後プロとして活動を始めた卒業生を集めwebでの展示、トーク、販売を行う。またアーティストによる作品紹介番組「ビエンナーレショップチャンネル」をLIVE配信。(オンデマンド配信、LIVE配信) 

■担当キュレーター:深井聡一郎
■参加アーティスト(予定):佐藤慎太郎(乃し梅本舗佐藤屋)、中崎透(美術家)、東北芸術工科大学 芸術学部 美術科 工芸コース卒業生

⑤ 山の上の陶器市ウェブ版

前回ビエンナーレでも好評だった「山の上の陶器市」が今回はオンライン上で開催。参加作家との対話から作品の購入までをオンラインで行う。(オンデマンド配信、双方向LIVE配信、ネット販売)

■担当キュレーター:深井聡一郎
■参加アーティスト:現在調整中

⑥ まちとひと

山形駅前大手門通りすずらん商店街を舞台に、市民・アーティスト・デザイナーの三者で、多様性や調和、学びや営みをテーマに、新しい「街と人のかたち」を多角的に検証する。(オンデマンド配信、LIVE配信、ネット販売)

■担当キュレーター:青山ひろゆき、アイハラケンジ、安達大悟
■参加アーティスト(予定):青山ひろゆき(画家)、大山顕(写真家)、大脇理智(芸術家)、金子朋樹(画家)×土澤修次郎(木工職人)、木原正徳(画家)、鴻崎正武(画家)、小林伸好(漆作家)、佐々木理一(陶芸家)、澤口俊輔(美術家)、末永敏明(画家)、杉の下意匠室(デザイン事務所)、ハレの養生(渋谷七奈・福田美里・前田明日美・増子博子)、土澤潮(デザイナー)、長沢明(画家)、中村桂子(版画家)、萩原尚季(デザイナー)、藤田寿人(デザイナー)、細川貴司(画家)、保田井智之(彫刻家)、松村泰三(美術科)、村上滋郎(美術家)、室井公美子(美術家)、屋代敏博(写真家)、柳田哲雄(テキスタイル作家)、佐藤裕吾(デザイナー)、吉田勝信(デザイナー)、吉野敏充(デザイナー)、若月公平(版画家)

⑦ PINK PROJECT 2020 言葉を採集する

コロナ禍で人類にとって新たなる時代が訪れ、「STAY HOME」の中、それぞれが自分を見つめ、これからどう生きていくか考えるきっかけとなった。新たな時代に向き合う市民から、山形市にある施設「山形まなび館」の1階を拠点にインタビューを行い、採集した言葉を保管して展示する。地域の人たちとともに新しい視点で地域の現状や未来を語り合う場を創出し、一連の活動プロセスにより大きく変貌する市街地の風景の変化を目の当たりにすることで、自ら主体的に街に変化をもたらす。言葉の収集のプロセスとアートを通して山形の意識を変えていく。(展示、オンデマンド配信)

■担当キュレーター:原高史
■参加アーティスト:原高史(現代美術家・コミュニケーションデザイン)

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