(舛添 要一:国際政治学者)

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 全国で、新型コロナウイルス感染者がまた急増している。

 7月22日には795人、23日には981人と、過去最多を更新した。地域別に22・23日の感染者を見ると、東京都が238・366人、神奈川県が68・53人、埼玉県が62・64人、千葉県が40・33人と首都圏が多いが、大阪府でも121・104人、兵庫県は30・35人、京都府は19人・19人、滋賀県は11・17人、愛知県は64・97人、福岡県は61・66人と増えている。

 さらに24日を見れば、全国での新規感染者は771人と前日に比べて少し減少したものの、まだまだ高い水準。しかも、東京は260人と4日連続の200人超え、大阪に至っては149人と過去最多を記録してしまった。

 ここまで、感染者が増えると、これは、もう第二波と呼んだほうがよい。なぜ、こうなったのか、どこに問題があるのか。

中国・韓国は検査体制拡充で封じ込めに成功しているのに、なぜ日本はできないのか

 お隣の中国では、6月11日に北京市豊台区の「新発地」食品卸市場で新型コロナウイルスの感染が発生し、6月21日までに236人の感染者が確認された。中国政府は、1日数十万件のPCR検査を、人海戦術とITでの接触者割り出しで徹底し、周辺地区を封鎖してウイルスの根絶を図った。全体で1000万件以上の検査を実施した結果、このオペレーションは成功し、7月4日には収束宣言を出している。北京の人口の半分を検査したということである。東京で言えば、1400万人の人口の700万人を検査したことになる。

 新型コロナウイルス震源地である武漢市では、5月14日から6月1日までの期間に、990万人を対象にPCR検査を実施したが、これは市の人口の9割に当たる。2900の検査場で、5万人の医療関係者、20万人のボランティアが参加して行われたが、300人の無症状の感染者が判明した。

 中国では、皆に義務化されているスマホアプリによって、行動履歴が当局に完全に把握される監視社会となっている。まさにジョージ・オーウェルの『1984』の世界であり、この点は人権の観点から真似るわけにはいかないが、迅速、大量にPCR検査を実施する点は参考になる。PCR検査体制の強化は、「専制国家だから可能で、民主国家の日本では不可能だ」というのは間違っている。

 韓国でも、6月末に首都圏や光州で集団感染が広まったが、徹底したPCR検査で収束させつつある。韓国は、中国のような独裁国家ではなく、自由な民主主義国家である。

 日本では、安倍首相が約束した1日2万件というレベルにもまだ達していない。小池都知事は、1日1万件に増やすと豪語したが、いつ実現するのか。中国、台湾、韓国がウイルス封じ込めに成功している現在、感染が拡大している日本が、アジアのエピセンター(震源地)となりつつある。

 7月24日は、新型コロナウイルス感染というパンデミックがなければ、東京オリンピックの開会式の日であった。しかし、今の東京の感染拡大を見る世界の目は冷ややかのものになりつつある。早急にこの第二波を抑えなければ、1年後の五輪開催への世界の期待は縮んでしまうであろう。

 IOCバッハ会長は、NHKのインタビューで、「オリンピック開催の条件は参加者全員の安全が確保されていることだ」と述べている。そのためにも、第二波を迅速に収束させねばならない。

保険適用で検査がしにくいカラクリ

 日本では、なぜPCR検査が諸外国のように迅速かつ大規模に進まないのか。感染者の数でニューヨーク州を抜いて全米トップとなったカリフォルニア州のアメリカ人の友人に尋ねると、電話一本で直ぐに検査を受けて、翌日には結果が分かったという。

 日本では、保健所の体制が貧弱であることなど様々な問題があるが、根本的な問題は、厚労省の規制、そして国立感染症研究所(感染研)の情報独占体制である。民間でも、大学病院やラボなどで、検査する能力があるところは多々ある。しかし、これを活用できないような規制があるのである。

 それは保険適用というカラクリを使うことである。濃厚接触者などが保健所の指示でPCR検査を行えば、本人に費用負担は生じない。もし、自費で検査を受ければ、2〜4万円の負担となるが、保険適用ができれば、個人の負担は軽減される。

 医師が必要と認めたときには、検査の保険適用を3月6日から実施することを厚労省は許可している。ところが、医療機関でも保険によるPCR検査は、感染研の積極的疫学調査の業務委託という形になっているのである。そこで、都道府県と医療機関の契約が必要になるのであり、その契約のために1カ月もの期間が浪費されることになる。

 つまり、アメリカのように、医師と患者が必要と判断すれば簡単に検査できる体制がまだできていない。要するに、民間で行った検査のデータも全て感染研が独占しなければ気が済まないのである。前身が大日本帝国陸軍の機関だっただけに、情報独占こそ権力の源泉であることを知っている組織であり、情報隠蔽体質が染みついている。

 しかも、以上のような保険適用方針の説明も、すべて厚労省の「通知」で行われる。厚労省健康局結核感染症課長の名の通知行政では、国会のコントロールも効かない。私も厚労大臣を経験したが、課長レベルの通知を一つ一つ点検しているわけではない。トップの大臣すら知らないまま、官僚が国の大きな方針を決めているのである。つまり、このような通知は法治国家の根幹にも関わるのであるが、単なる技術的助言という位置づけであり、役人の恣意的な運用の隠れ蓑になっている。

 感染症法では、第3章(12条〜16条)「感染症法に関する情報の収集及び公表」の規定によって、感染症の疑似症患者などに「行政検査」をし、濃厚接触者などに「積極的疫学調査」をすることになっている。対象者の検査費用は公費負担となる。

 最近の感染者増を見ると、相変わらず院内感染が多いが、医師や看護師などがPCR検査を受けようとすると、感染症法上の規定がないため、自己負担となってしまう。

 さらには、保健所や地方衛生研究所だけではなく、大学の医学部、民間医療機関、民間検査機関による検査を可能にし、公費負担にするような法的な裏付けが必要である。そして、検査の結果は感染研に独占させるのではなく、広くデータベースとして活用できる体制にすべきである。

 GoToキャンペーンを実施する前に、PCR検査の公的負担対象を拡大したほうが、はるかに国民のためになるのではないか。

感染症法は改正の必要がある

 また、感染症法19条、20条、46条の規定により、感染症患者は指定医療機関に強制的に入院させることになっている。つまり、法律上は、入院以外の選択肢がないのである。今、新型コロナウイルス感染の軽症者や無症状者については、ホテルなどの宿泊施設や自宅などに隔離しているが、感染症法にはこれを裏付ける規定はない。

 指定医療機関が満杯になり、医師の判断で一般の医療機関に入院した患者に対する公費負担や医療機関に対する支援措置を行う法的な枠組みが必要である。

 PCR検査の問題一つをとってみても、今の感染症法には不備が多いことが分かる。とくに、今回の新型コロナウイルスは、これまでにない特色を持つ。無症状者から感染する、潜伏期間が長いなどであり、保健所の処理能力、検査体制、医療資源などを超える数の感染者が発生してきた。

 これは、保健所を中心とする検査、入院隔離を基本とする今の感染症法が想定する事態を遙かに超えており、感染症法を抜本的に改正し、新しい制度の構築が必要である。そうでなければ、PCR検査すら十分にできず、市中感染が拡大してしまうであろう。

国会を早期に開き、法的整備を急げ

 私は厚労大臣として、2009年の新型インフルエンザ対応に当たったが、そのときには感染症法を最大限に活用して、早期に感染の収束に持ち込むことができた。しかし、感染症法には盛り込まれていない点について、都道府県知事や医療関係者から様々な要望が寄せられた。

 2009年夏の総選挙自民党は下野し、民主党政権に交代したが、私が厚労大臣のときの経験から課題としてきた新型インフルエンザ特措法が2012年5月に公布された。

 ポイントの第一は、知事は、感染症蔓延のときに医療機関に協力を要請できるが、協力した医療機関への補償ができるようにしたことである。知事の要請に対して、正当な理由がないのに医療関係者が応じないときには、指示に切り替えることができる。

 第二は、知事の権限強化である。外出自粛、休校、イベントの制限などについて、それを住民に要請する根拠法がなかった点を改めたのである。災害対策基本法と同様な権限を付与する法律となっている。

 この法律は、周知のように、今回、新型コロナウイルス感染症を追加するとともに、緊急事態宣言を可能にする改正が加えられた。そして、次の改正の課題として今議論されているのは、自粛要請などに罰則付きの強制力を持たせ、その場合の補償を明記することである。

 新型コロナウイルスの感染が収束後、新型インフルエンザ特措法と感染症法を一つにまとめた新感染症法を作るべきである。「離れ」を継ぎ足すのではなく、「母屋」を建て直さないと、異常気象に伴い、今後も次々と襲ってくる新たな感染症に対応できないからである。

 そして、新型インフルエンザ特措法の担当が西村経済再生大臣、感染症法担当が加藤厚労大臣という不思議な二頭体制も解消し、厚労大臣に権限を集中する正常な形となる。

 法律を作るのは国会議員である。国会を早期に開いて、この危機的状況に対して、国権の最高機関として対応せねばならない。

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