2020年7月24日(金)13時、5カ月ぶりに新国立劇場のオペラパレスの舞台が開いた。上演演目は新国立劇場バレエの新作『竜宮 りゅうぐう~亀の姫と季(とき)の庭~』(以下『竜宮』)。バレエ団が夏に上演する「こどものためのバレエ劇場」の新作で、テーマは誰もが知るおとぎ話浦島太郎』だ。振付をはじめ演出・美術・衣裳デザインを振り付けるのは国内外で活躍するダンサー森山開次カラフルな衣裳に舞台美術、さらに童心に帰るような遊び心いっぱいの、そして日本の四季を描き出しながら「季(とき)」をテーマとした物語が展開される。「こどものためのバレエ」とはいえ、大人も存分に楽しめる舞台だ。この舞台上演に対し、劇場側では可能な限りの新型コロナウィルス感染予防、拡散防止への対応策を徹底して実施している。(文章中敬称略)

 

■5カ月ぶりの舞台再開。ダンサーたちも待ち望んだ公演

2月末の『マノン』が千秋楽を迎えることなく中断され、それから5カ月間の劇場の閉鎖。ようやくオペラパレスの幕が開くこの日を、バレエ団のダンサー達やスタッフ、劇場関係者、ファンもまた、待ち望んでいたことだろう。

取材した舞台は7月23日ゲネプロ。インタビューの折に森山が「(ダンサー達は)舞台に立てる喜び、向かうべき目標を見つけ、モチベーションも高まってきている」と語っていたように、舞台からはまず伝わってきたのは「踊れる喜び」だ。

物語の冒頭、羽織袴に山高帽、顔は歌舞伎の隈取メイクを思わせる時の案内人(貝川鐵夫)が登場。飄々とした個性溢れる存在感そのままに物語のナビゲーター役を務める。続いて最初に登場する踊りは、波の群舞。波たちの、寄せては返す動きが舞台上に海中の水のうねりや、浜辺の波うち際で飛ぶ水しぶきを描き出す。舞台は歌舞伎を思わせる松や月、雲、山のセットや差し金付きのや蝶々に、照明・映像技術もふんだんに駆使した色鮮やかな世界が広がり、そこで心優しき青年・浦島太郎(井澤駿)が亀の姫(米沢唯)と出会い、物語が展開していく。

浦島太郎(井澤駿)と亀の姫(米沢唯) 撮影:鹿摩隆司

浦島太郎(井澤駿)と亀の姫(米沢唯) 撮影:鹿摩隆司

1幕の見どころは愉快でユニークな魚たちが登場する竜宮城の大宴会。キャスト表で発表されている「イカす3兄弟」「タイ女将」「サメ用心棒」らのほかにもマンボウクラゲ、アジやタコなど、ユニークな"海の仲間たち"が次々と登場し、森山的遊び心がいかんなく発揮されている。童謡「浦島太郎」のメロディが見え隠れする音楽にも耳を傾けていただきたい。

イカす3兄弟の踊るイカタンゴ 撮影:西原朋未

イカす3兄弟の踊るイカタンゴ 撮影:西原朋未

あでやかな竜宮城。太郎にお酌をするのはサザエとウニ 撮影:西原朋未

あでやかな竜宮城。太郎にお酌をするのはサザエとウニ 撮影:西原朋未

 

2幕、「季(とき)の庭」で表現される日本の四季の踊りは色彩も美しく、またそれぞれの季節を表現するモチーフの選択も実に面白い。「織姫と彦星」「竜田姫」、あるいは1幕でも「兎と亀」など、日本に伝わるおとぎ話の登場人物が現れるほか、歌舞伎や能の要素も盛り込まれながら、ストーリーはクライマックスへ――。千年、万年の時の巡りを感じさせる物語に仕上がっている。

地上に帰る太郎に、亀の姫は玉手箱を渡す 撮影:鹿摩隆司

地上に帰る太郎に、亀の姫は玉手箱を渡す 撮影:鹿摩隆司

撮影:西原朋未

撮影:西原朋未

 

■可能な限りのコロナ対策を行う劇場。観客もぜひ協力を

今回の公演は、劇場側では先にも述べたように、可能な限りの新型コロナウィルス感染予防、拡散防止への対応策を行っている。

スタッフはマスクやフェイスガードを着用し、来場者にもマスク着用をよびかける。入場はテープを張って導線をつくり、来場者の検温用の赤外線サーモグラフィを設置しチェックを行う。ホワイエは飲食の販売は行わず、休憩の席も向かい合わないように並べ替えられ、マスクの着用と大声での歓談を控えるよう呼び掛けている。座席によって入場時間の分散を呼び掛けるほか、終演後の退出も座席ごとに出るようアナウンスで促すなど、混雑の緩和も図る。

ダンサーの入り待ち・出待ち、プレゼントの受け渡しも禁止。さらに万が一新型コロナウィルスが発生した場合の対処として来場者カードの記載を義務付け、来場者カードは事前にダウンロードできるよう配布するほか、閉鎖したクローク部分で記載できるようにしている。その際の筆記用具も一つひとつ消毒し、使用前・使用後と分けるなど、考えうる限りの気配りを行っているのも伺えた。

ブラボーの掛け声も禁止だが、初日の舞台はスタンディングオベーションとともに心からの拍手に包まれた。再び開いた劇場で今後、継続的に舞台が行われるかどうかは劇場側ばかりでなく、観客の協力も重大な要素のひとつだ。ぜひダンサー、劇場、観客一体となって、舞台の再出発をともに築き上げていきたい。『竜宮』公演は7月31日まで。

取材・文=西原朋未