現代ジェット戦闘機におけるF-15の地位は誰しも認めるところでしょうが、実はF-16もそれに比肩しうる結果を残してきました。そして両機は比べれば比べるほど、F-16がなぜ世界中に売れまくるのか、納得の理由が見えてきます。

現代ジェット戦闘機「最強」の称号は…?

実戦で最も際立つ結果を残した現代ジェット戦闘機といえば、F-15イーグル」です。F-15は1979(昭和54)年に最初の撃墜を記録して以降、現在に至るまで100機以上を撃墜し、なおかつ空中戦で撃墜された機数はゼロという、100対0のキルレシオ(撃墜、被撃墜比)を達成しています。これまで一度も負けたことがない圧倒的な戦歴から、F-15は(少なくともF-22F-35が登場するまでは)強い戦闘機の代表格として知られています。

しかしF-15は高性能と引き換えに、あまりに高価すぎるという欠点がありました。開発国であるアメリカ空軍さえ十分な数を揃えることが困難であり、F-15はとっておきの切り札としつつ、同時に数的な主力を担う安価な戦闘機が必要となりました。こうした経緯から、安価で軽量なF-16ファイティングファルコン」が開発されます。

F-16F-15のエンジンは同一のものです。したがってエンジン1基を備えるF-16のエンジンパワーは、2基を備えるF-15の半分しかありません。F-16は劣化F-15であるという認識は古くからあり、F-16の開発計画名「LCF」は「ローコストファイター(低価格戦闘機)」の頭文字ではなく「ローケイパビリティファイター(低性能戦闘機)」である、などと陰口を叩かれたことさえありました。

ところがF-16は実戦へ投入されると、安さだけが取り柄の低性能機ではないことがすぐに証明されました。1982(昭和57)年、イスラエル空軍へ供与されたF-16は「ベッカー高原上空戦」において、たった1週間で44機のシリア空軍機を撃墜し損害ゼロという圧倒的な戦果を挙げます。これは同航空戦におけるF-15の40機撃墜損害ゼロを上回る戦果であり、F-15に比肩しうる強い戦闘機であることを実証します。

F-16がF-15に匹敵するというのも納得なその戦歴

F-16による最新の撃墜記録は2020年3月3日で、トルコ空軍機がAIM-120アムラーム空対空ミサイルを使用し、45kmという長距離からシリア空軍機を一方的に撃墜しました。これまで約40年に渡るF-16の撃墜戦果は、推定80機に及びます。

一方で損害はというと、地対空ミサイルなどによるものを除く、空中戦で撃墜されたものはわずか2機であると推測されます。

最初の被撃墜は、1980年代を通じ発生したアフガニスタン戦争におけるパキスタン空軍とソ連空軍の戦いでした。1987(昭和62)年4月29日パキスタン空軍F-16が僚機のF-16に対しAIM-9サイドワインダー空対空ミサイルを誤射、これを撃墜してしまいます。なおパキスタン空軍のF-16はソ連空軍機10機を撃墜、ソ連空軍機に撃墜されたF-16はありませんでした。

2機目の被撃墜は1996(平成8)年10月8日でした。トルコ空軍F-16ギリシア領空を侵犯、ギリシア空軍ミラージュ2000が発射したマジック2空対空ミサイルによって撃墜されます。

トルコギリシア領土問題を抱えており、両空軍のあいだでは戦闘機同士のドッグファイトが頻繁に勃発しています。とはいえ戦時ではないため、通常はどちらが勝利しても相手を「ロックオン」し追い返すにとどまっており、以降、2020年7月現在に至るまで撃墜は1件も発生していません。ミラージュ2000によるF-16撃墜は恐らく平時の偶発的ドッグファイトにおいて、ギリシア空軍機が誤射してしまった結果であると考えられます。

F-15と同じくらい強くて安い=F-16最強か

以上のようにF-16のキルレシオは実に80対2に達し、撃墜された事例も事故であることを考慮すると、100対0のF-15にほぼ比肩しうる実績を残したといえます。

F-16の強さの秘訣は、意図的に安定性を落とし機動性を高める「静安定緩和」など、新技術を惜しみなく投じた点にありました。F-15は強い戦闘機ですが、その設計思想は極めて保守的であり、どちらかというと「高性能なF-4」といえる古い部類の飛行機です。両機は同じエンジンを搭載した兄弟でありながら、実に対照的であり、弟分のF-16はエンジンパワーのハンデを技術で克服しました。

F-15と同等の高性能機でありながら、F-15より安価なF-16が売れない筈はなく、2020年現在までに29か国が導入し、生産数は約4588機を数えるに至ります。いまなお政治的な事情からF-35を導入できない国にとっては魅力的な選択肢であり、2019年には最新の近代化改修型であるF-16Vを台湾が66機、発注するなど、F-16の時代はまだまだ当分、続くことになるでしょう。

F-16の最新型、F-16Vブロック70/72。軽量かつ安価な機体でありながら高い発展性と大搭載量、多用途性を実現している(画像:ロッキード・マーチン)。