窪田正孝主演、二階堂ふみがヒロインを務める連続テレビ小説「エール」(毎週月~土曜朝8:00-8:15ほか、NHK総合ほか)は現在、再放送中。7月28日放送の第26回では、自分勝手な裕一(窪田)に弟の浩二(佐久本宝)が激怒するシーンが描かれた。今後、第11週まで浩二とのわだかまりは続いていく。その浩二が第6週で口にした素直な思いに今回の再放送であらためて触れ、胸が締め付けられる。(以下、第11週までのネタバレがあります)

【写真を見る】浩二(佐久本宝)に「嫌いだ」と言われ落ち込む裕一。窓にもたれた横顔が美しい…

■ 「もっと俺にも関心持ってよ!」

同ドラマは、「栄冠は君に輝く~全国高等学校野球大会の歌~」など数々の名曲を生み出してきた昭和の音楽史を代表する作曲家・古関裕而氏と、妻で歌手としても活躍した金子(きんこ)氏をモデルに、音楽と共に生きた夫婦の物語。

世界的な音楽コンクールで2位となった裕一は、多額の賞金とイギリス留学の資格を手にした。一方、浩二は望んで実家を継いだものの、養子先でもまだ音楽の道をあきらめない兄の生き方に憤りを感じていた。

そんな中、持ち上がった裕一と音(二階堂)の結婚話。浩二の怒りは頂点に達した。

兄さんさ、自分がどれだけ恵まれてるか分かってる?」「まわりの愛を当たり前だと思うなよ!もっと感謝しろよ…」。浩二は涙ながらに裕一をなじり、「これまでずっと我慢してきたけど…俺、兄さんが嫌いだ…」「気づいてよ!もっと俺にも関心持ってよ」と絞り出した。

■ 父・三郎が兄弟の関係を大きく変えていく

裕一・浩二兄弟の間に横たわる溝はこの後、さらに深まっていく。

故郷を捨て上京した裕一は長らく故郷と距離を置き、音楽家として開花。だが同じ頃、家業・喜多一は潰れ、浩二は役所勤めを始めていた。父・三郎(唐沢寿明)が重い病気を患っていることも、裕一には伏せられた。

家族にとって空白の時間が何年も流れた後、「船頭可愛や」のヒットを経て第11週「家族のうた」で、裕一の福島凱旋が描かれた。

時が経っていても裕一に対する浩二の怒りはすさまじく、「いっつも自分の感情ばっかで動きやがって。兄さんはな…もうとっくに家族じゃねえんだよ」と取り付く島もない。

そんな浩二の心を溶かしたのは、三郎だった。三郎は死の間際、「店継いでくれた時は、腹の底から嬉しかった」と、おそらく初めて浩二に素直な感謝の思いを打ち明け、「俺が死んだら、喪主はおめえだ。喜多一を継いだやつがこの家の主だ」と言い聞かせた。

長い間、浩二は「父に愛され、認められたい」という思いを抱えながらも、素直になれず生きてきた。そしてとうとう自分を認める父の言葉にふれ、救われた。裕一と浩二はその後、父の死をきっかけに、ようやく新たな関係性を築き始めた。

■ 今だからわかる浩二の心の叫び

紆余曲折を経た古山兄弟だが、そうした展開も知った上で改めて第26回を見て驚くのは、十何年もかけてこじらせた浩二の負の感情の源が、この時すでにハッキリ声に出して語られていたのだということ。

父の愛を欲しているからこそ、兄に「まわりの愛を当たり前だと思うなよ!もっと感謝しろよ…」と言わずにいられなかった浩二。「気づいてよ!もっと俺にも関心持ってよ」の言葉は、兄だけでなく父にも向けられているとわかるし、「父さん、俺、家立て直そうと思ってんだ。わかってる?もっとわかってよ!」の言葉にも、愛情を求める響きがこもる。

今後、再放送では裕一と故郷との決別が描かれ、つらいシーンが続く。個人の夢よりも家業に重きを置くべきとされていた時代、「これだ!」と思う道を見つけてしまった人生の“負の側面”も、あらためてもう一度じっくり味わっていきたい。(文=ザテレビジョンドラマ部)(ザテレビジョン

「エール」第26回場面写真 (C)NHK