(安田 峰俊:ルポライター

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 衆議院議員山尾志桜里の名前から、あなたは何を連想するだろうか。東大法学部から検察官を経て、2009年衆院選民主党から立候補して初当選し、現在で3期目。法曹出身者ならではのシャープな憲法観を持ち、かつては民進党の幹事長候補にも名が挙がった期待の若手女性代議士・・・であるいっぽう、週刊誌で報じられたスキャンダル疑惑によって悪い意味で世間に名を知られてしまった、不運な人でもある。

 だが、そんな山尾が現在、意外な分野で精彩を放っている。それは香港問題だ。

 昨年(2019年)以来、反政府デモが続いてきた香港では、今年6月30日夜に抗議活動を大幅に制限する国家安全維持法(国安法)が施行された。そこで7月12日、都内では在日香港人らによる抗議デモがおこなわれたのだが、なんと出発前の集会では山尾からの応援メッセージが読み上げられた。また、山尾が呼びかけ人の一人になる形で、香港問題に対処する議連の結成準備が進められ、7月29日に設立総会が開かれる。

 これまで日本では、リベラル陣営は中国の人権問題に対してほぼ無関心を貫く例が多かった。そうしたなかで、今回の彼女の動きはかなり異色に見える。真意を聞いた。

中国批判ができない自民党

──先日、代々木でおこなわれた「ウイグル×香港 連帯デモ」を取材した際、自民党長尾敬議員の他に山尾さんが応援メッセージを寄せておられて驚いたんですよ。

 ウイグル問題は伝統的に、保守派の・・・というか、最右派勢力の『頑張れ日本! 全国行動委員会』なんかのナワバリです。共催した香港側の主催団体も、日本に複数ある香港デモ支援組織のなかでは右寄りにみられやすい「Stand with HK@JPN」でした。まさか、ゴリゴリの保守派陣営に転向されたわけではないですよね?

山尾 いえいえ、もちろん違います(笑)

──それでは、香港問題に関心を持たれたのはどういう理由なんですか?

山尾 昨年秋以降のデモ隊に対する香港警察の暴力のエスカレートを見てからですね。特にデモ隊の若者に対して、警察官が至近距離から実弾を発砲した動画には衝撃を受けました。日本と同じように、自由と民主主義と法の支配が存在すると思われた香港で、公衆の面前でああいうことが起きるのは衝撃的だったんです。

 私は法曹出身者なので、人権と法の支配については関心が深いこともありますし・・・。自分の本業である日本の国会議員の立場から、できることはなんだろうと思ったんです。そこで、所属していた法務委員会で森まさこ法務大臣に「この動画を見ましたか」と質問をおこない、香港問題に対してどう対処していくかも質問した。そうしましたら、複数の若手の自民党議員からも共産党の議員からも共感の声をいただいて。

──国民民主党の山尾さんの質問に、自民党の若手と共産党から援護射撃が出たわけですか。これは面白いですね。

山尾 そうなんです。与党は本来、保守派の立場から香港問題にモノを言えるはずなんですが、自民党内の(親中派とされる二階幹事長などへの)忖度があって声を上げられない。いっぽうで、野党にしても本来はリベラリストとして声をあげるべき問題であるはずなのに、中国への遠慮があるのか、やはり沈黙している。

 与野党ともに、本来は声を上げるべき理由があるのに、香港問題については政党や支援団体のしがらみで物を言えない状況があるわけです。

リベラルが中国を批判しないのは「不思議」

──そもそも不思議ですよね。中国って、覇権主義的かつ国家主義的で軍拡と原発建設に大賛成、かつ国民監視社会でマイノリティ(=ウイグル族などの少数民族)を弾圧している・・・という国家なので、普段から「アベ政権」を批判している日本のリベラルが中国を批判しないのはすごく謎です。これはなぜだと思われますか?

山尾 いや、ほんと、なんでなんでしょう・・・? 人類の普遍的価値観として人権を重視するならば、当然、香港問題もウイグル問題も、強い関心を持って然るべきはずです。もちろん、中国の問題だけではなく、アメリカによるアブグレイ刑務所における捕虜虐待問題みたいな話も含めてなのですが。リベラリストを自認する人間がああいう問題を目にすれば、「なにか行動しなきゃ」という思いが湧き上がるのが普通だと思うのに、これまでそれがなかったのが本当に不思議です。

 もちろん、中国との友好関係のパイプになっていく役割は重要です。でも、相手の指摘すべき問題を指摘できなくてはならないでしょう。特にリベラルの側こそ、そうした中国に耳の痛いことも言える役割を果たしていくべきだと思うんですよね。

──確かにそうですね。

山尾 でも、「みんなで渡れば恐くない」って言うじゃないですか。私は割としがらみの少ない立場にいるので、日本が香港問題に対応していく呼びかけについても、まずは私が声を上げてみようかと。そういうことなんです。

対中政策に関する議員連盟、超党派で準備中

──いま話題になっている香港市民の保護を目指していく議連も、そこから生まれるわけですね。正確にはどういう名称にされるんですか?

山尾 「対中政策に関する議員連盟」(JPAC)です。2020年6月4日に、「対中政策に関する列国議会連盟」(IPAC)という国際議員連盟が成立しているのですが、それにならって。IPACとも連携してやっていきたいと考えています。

──今のところどのくらいの参加者が?

山尾 まだわかりませんが、超党派で活動します。呼びかけ人は、自民党の中谷元さん(元防衛相)のほか、山田宏さん、長島昭久さん、藤末健三さん、有村治子さん。国民民主党の私、立憲民主党の桜井周さん、維新の串田誠一さん、希望の井上一徳さん。

──各政党がズラッと並びましたが、自民党が5人で最多ですね。「超党派」とはいえやはり、自民党主導の形でいくわけですか。

山尾 いえ、あくまで超党派の議連を目指していきます。これまで何回かおこなってきた香港関連のイベントに出席されていた議員の方を、個別で誘っているんです。国民民主、自民、立憲民主、共産、維新と、イベントに参加してくださった議員は各政党におられるので、特にひとつの政党が主導する形にはならない予定です。

 香港の問題は、保守でもリベラルでも向き合うべき部分がある問題です。従来の与野党の二項対立を脱却して、与野党で一緒にやれることは実行していく先例になったらいいなと。ただ、与党でも公明党の議員の方は、おそらくいまのところは来られていないのですよね。

──公明党1972年の日中国交回復以前から、伝統的に「日中友好」に非常に熱心な政党です。腰は重いでしょう。

山尾 もちろん、公明党の方も参加してくださると嬉しいですよ。超党派ですから。

日本版の人権制裁法で中国に抗議

──対中政策議連は、具体的にはどういった活動を予定されていますか?

山尾 現時点で構想していることは、大きく3点あります。まずひとつが、とにかく喫緊の問題としてのライフボート政策の提言です。たとえば、帰国すると迫害を受ける可能性がある在日香港人の方が滞在延長できるようにする。

 また、香港から日本に逃れる人たちの受け入れ態勢づくりもありますね。たとえば、現在のコロナ禍のなかであっても検査と隔離を条件に、香港人の日本入国の制限を緩めるですとか、あるいは就労ビザや留学ビザの取得要件を緩和するですとか。

──たしかに香港国家安全法が施行された現在の状態ですと、日本でデモに参加したりSNSに実名で書き込んでいる在日香港人も、理屈の上では逮捕の対象になり得ますからね。2つ目はいかがですか。

山尾 はい。2つ目は、日本が中国政府・香港政府とそれぞれ結んでいる捜査共助について。「捜査共助」とは、犯罪捜査をお互いに協力し合う協定です。日本は中国・香港ともに犯罪者の引き渡し条約こそ結んでいませんが、捜査共助の協定は結んでいるんです。

 もちろん、政治犯罪や、日本では犯罪にならない行為については捜査共助を拒否することは可能です。しかし、やはり念のため「香港国安法容疑での捜査共助は拒否する」という明確な意思表明をするべきと考えています。

 また、政治犯に対して意図的に他の容疑がかけられるケースもありますよね。なので、本来は捜査共助の協定の範囲内とみなされる「犯罪」行為であっても、別件捜査ではないか日本政府は拒否事由該当性を慎重に検討しますと。日本が国家としてそういう声明を出すことが大事だと思うので、議連として政府に対して求めていきたいと考えます。

──3つ目はどうなりますか。

山尾 日本版のマグニツキー法(人権制裁法)を作ることです。世界のどの国であれ、深刻な人権侵害が起きたときは国会主導で調査・公表・制裁・救済をしていくという枠組みですね。これはアメリカではじまって、カナダイギリスでも成立しています。オーストラリアやEUでも検討されていますね。アメリカの香港人権法やウイグル人権法も、このマグニツキー法がベースになっているんです。

「吉野家炎上チーム」を受け入れていいのか

──全世界の人権侵害を対象にしたうえで、今回は香港の件について中国に制裁を科す方向ですね。香港やウイグルチベットあたりの人権問題は、日本ではもともと「反中国」的な文脈や排外主義的な文脈に落とし込まれやすいのですが、それとは別のアプローチでいくわけですか。

山尾 そうです。実は昨年の秋ごろから、香港人権法を作れないかと準備をおこなっていたのですが、普遍的な価値を考えると、「香港人権法」「ウイグル人権法」のように特定の地域や民族をクローズアップするより、あくまでもグローバルな人権法でいったほうがいいと。

 世界のどこで起きている問題であれ、深刻な人権侵害は許さないという日本の姿勢を示せるものにしたほうがいいと考えています。「特定の国家への不当な内政干渉だ」といった主張にどう反論するかが重要なんです。

──ライフボートの問題も聞かせてください。今回の国安法は明らかな悪法で、香港を逃れたい人を受け入れる態勢づくりが必要です。ただ、デモの過程では、公共機関や吉野家など「親中国的」とされた日系企業(フランチャイズですが)の店舗を意図的に破壊して回る集団もいました。こうした人たちほど摘発リスクは高いはずですが、いっぽうで彼らの多くは、おそらく平均的な在日香港人の留学生や社会人よりも学歴やスキルが低い若者たちです。日本は彼らの亡命を引き受けるべきだと考えますか?

山尾 そこは判断が難しいですよね。ただ、あの運動の最前線にいる人たちは、運動を離れた場においても、一市民として暴力的な性質を持つ人たちなのかという話です。また、大部分のデモ参加者はそもそも、そういう活動はおこなっていないですよね。

──そうですね。また、香港の非常にドメスティックな層は国外に出ないですし、あえて出たとしても言葉の壁がより低い台湾あたりを選びそうな気はします。

立憲・国民合併で香港問題はどうなるか

──香港と直接関係がない話も聞かせてください。山尾さんは立ち位置的には旧民主党の右派に近い印象ですし、立憲民主党よりも国民民主党におられるほうがしっくりきます(注:山尾議員は2017年9月に民進党が事実上解党してから無所属、同年12月立憲民主党入党を経て、今年3月に立憲を離党して国民民主党に移っている)。

 山尾さんの立憲からの離党は、コロナ対策に関連した新型インフルエンザ等対策特別措置法改正案の決議にあたって党の方針に造反されたことが一因でしたから、当時は一波乱があったかと想像します。ところが現在、立憲と国民の再合併がほぼ確実な情勢になりました。この件はどう考えられますか。

山尾 この問題については、私はなにを話しても火種になりかねないので、かなり慎重にならないといけません。ただ、まとまるために政策をつくっていくのではなく、政策を実現するために党としてまとまっていく、という原則を揺るがしてはいけないとは思います。

 いま、国民民主党玉木雄一郎代表が言っているのは、まずコロナ禍で家計を支え切るため期間限定の消費減税と積極給付。そのうえで、税と社会保障の問題や、再分配の問題、資本主義のあり方を抜本的に再検討すること。憲法については、統治構造を見直して三権分立の歪みを正していく、データ基本権などAI時代の観点から人権保障を捉え直すというように立憲主義の観点から前向きな憲法議論をしていくことです。私もこの2点に共感しています。

 こうした本質的な部分で、(立憲民主党と)いっしょにできるならば、できるとよいなと思っています。・・・というお答えでよいでしょうか?

──複雑な立場をお察しします(笑)

山尾 うーん(笑)。ご心配をありがとうございます

日本のためにやっている

──本来の話題に戻りましょうか。香港の国安法や中国国内の少数民族問題に懸念を持つ者としては、日本の政界から「日中友好」と「反中国」の教条的な文脈以外で、中国の人権事情に関心を持つ流れが生まれてきたのは、非常に注目するべき変化だと思います。

山尾 今回の香港問題にどう向き合うかは、日本外交の分岐点だと思うんですよ。西側の自由民主主義諸国が中国への視点を(警戒的なものに)変えつつある現在、もちろんすべてそれらに付和雷同する必要はないのですが、かといって意思なき八方美人的な姿勢では乗り切れない局面に来ていると考えます。

──香港問題とコロナ問題で、世界の分断は進んでいますからね。

山尾 香港の問題について、国際的に連帯して民主派勢力をサポートする動きが出ているなかで、どうやって日本が存在感を示して具体的な行動をみせていくか。これは日本の外交にとって、国益にかなうからこそやるべきだと思っています。

 私の議連結成の動きに対して、香港のみなさんから感謝のお手紙をもらったり、在日香港人の方から感謝されたりもするのですが、実は彼らだけのためにやっているわけじゃないんです。私は本当は日本のためにやっているんだと思っていますよ。

※   ※   ※

「対中政策に関する議員連盟」は、7月29日に設立総会が開かれる。コロナの流行と国安法の施行によって、香港の街頭でのデモがほぼ停止された現在、香港デモをめぐる問題は日本を含めた世界を舞台にした第2ラウンドに移行した感がある。

(文中敬称略)

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