ブレイクのきっかけは、2020年2月にリリースされた後、TiKTokで瞬く間に拡散された「snow jam」。<Loadingで進まない毎日/上品が似合わないmy lady>というラインからはじまるミディアムチューン。ゆったりと波を作り出すようなトラック、お大事な人との心の交流、愛に満ちた日々を綴ったリリック、そして、心地よいグルーブ感と美しい叙情性を同時に感じさせるボーカルがひとつになったこの曲は、Spotifyのバイラルチャート――現在進行形のブレイク楽曲をいち早くキャッチできるチャートだ――で見事に1位を獲得。YouTubeのMV再生数も860万回(7/27日現在)を超えるなど、YOASOBIの「夜を駆ける」、瑛人の「香水」などと並び、今年前半の音楽シーンを象徴するヒットとなっている。

「snow jam」によって瞬く間に新世代音楽シーンのど真ん中に飛び出したRin音。彼が音楽に興味を持ったのは、YouTubeの動画で見たラップバトルだった。

その後、ラップバトルのムーブメントを作り出した『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日)、『BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権』(BSスカパー!)がスタートし、どっぷりラップの魅力にハマったRin音は、福岡で開催された「天神U20MC battle」に参加し、3度目の出場で優勝。当時はストロングスタイル(≒強面でケンカ腰のラップ)が主流で、日常の風景、そのなかで生まれる感情や近しい人々との交流を綴ったRin音の楽曲、そして、“歌”としての魅力を感じさせるフロウ/リリックは、それほど目立ったなかったという。しかし、ソングライティングの豊かさとボーカルの表現力によって徐々に存在感を強め、クラブ、ライブハウスを中心に活動を拡大。「snow jam」のヒットによって、全国的な注目度を得たというわけだ。誤解を恐れずに言えば、彼の音楽はもともと、ヒップホップ・シーンの枠に留まらない、優れたポップスとしての魅力を備えていたのだと思う。

「snow jam」の”THE HOME TAKE”( アーティストの自宅やプライベートスタジオから、一発撮りで届けるYouTubeコンテンツ。これまでにLiSAの「紅蓮華」、北村匠海(DISH//)の「猫」などが公開されている)も240万回再生を突破するなど、さらに知名度を高めているRin音。6月にリリースされた1stフルアルバム『swipe sheep』によって、アーティスト/ラッパーとしての評価はさらに確かなものになった。「snow jam」を含む本作のテーマは、“インターネットと睡眠”“四季”そして“日常”など。まるで日記(もしくは独り言のように)紡がれる彼の楽曲は、プライベートな雰囲気を色濃く残しながらも、この時代に生きるすべての人たち――スマートフォンを手放せず、SNSとリアルを行き来しながら、それでも四季の移ろいを感じ、関わる人たちの関係に一喜一憂している――の共感を呼び起こしている。

アルバムのなかから、個人的に印象に残ったトラックをいくつか紹介したい。

まずは「Sweet Melon feat. ICARUS」。以前からライブでも披露され、既にファンの間では大きな話題を集めているこの曲は、トロピカルハウスの香りが漂うトラック、メロウ&スィートな雰囲気のメロディがゆったりと広がるミディアムチューン。をはじめとする、うっとりするようなラインもたっぷり込められた、まるで映画のワンシーンのような魅力的なラブソングだ。ヒップホップのマナーを存分に感じさせながら、幅広い層のリスナーに届くポップスへと導くセンスは、まさに彼の真骨頂だろう。

「Naked Loving Summer」はダンスホールレゲエビートを取り入れたナンバー。心地よく跳ねる裏打ちのビート、夏の夜の空気を想起させるサウンド、どこか気だるさを感じさせるボーカルが溶け合い、心と体をゆっくりと揺らしてくれる。アルバム全体を通し、アッパーな曲はほとんどなく、スロウ〜ミディアムの楽曲が中心なのだが、ダンスミュージックとしても機能もしっかりと備わっているのだ。

「SNSを愛してる」も心に残る。虚実が混ざり合うSNSの世界をリリカルに描き、<SNSで適当に呟いた好きの言葉で愛が深まるって>というフレーズを響かせるこの曲は、現代の社会のなかにある虚しさを美しく際立たせている。リアルとファンタジーの境目を越えるような作風もまた、彼の大きな武器だ。

アルバム『swipe sheep』には、Rin音と同世代のラッパーであるクボタカイ、空音、ICARUS、さらに大阪出身の19歳のシンガーソングライターasmiなどが客演。“音楽原作キャラクターラッププロジェクト”ヒプノシスマイクの作品を手がけていることでも知られるmaeshima soshi、気鋭のビートメイカーShun Marunoなども参加し、新世代のクリエイターの才能がしっかりと活かされている。世界の音楽シーンの主流がヒップホップになって、10数年。ここ日本でもようやく、この国の風土の雰囲気に則した“ポップスとしてのヒップホップ”が生まれつつある。その中心にRin音がいるのは間違いないだろう。

文 / 森朋之







Rin音 ヒップホップ・シーンの枠に留まらない、優れたポップスとしての魅力。リアルとファンタジーの境目を越えるような作風も大きな武器。は、WHAT's IN? tokyoへ。
(WHAT's IN? tokyo)

掲載:M-ON! Press