豪雨で河川に流れ出た流木やがれきは自然になくなるわけではありません。各地の港には、船舶にとって危険物となりうる漂流物を回収するための専用船が常備され、「令和2年7月豪雨」でも大奮闘しています。

7月豪雨 海もとんでもないことになっていた!

2020年7月の豪雨(「令和2年7月豪雨」)は、九州 球磨川の氾濫をはじめ、全国の山間地域を中心に大きな被害をもたらしました。こうした災害ではよく、多数の流木が河川に浮いている様子が報道されますが、それら最終的に行きつく海の現場では、おびただしい量の漂流物の処理に追われています。

球磨川河口の八代海や、中部地方の河川が流れつく伊勢湾などでは、豪雨の最中より1週間から9日間で、昨年度の1年分に相当する量の漂流物が処理されています。これらは航行する船舶に影響を与えるだけでなく、状況によっては生け簀や筏などの養殖産業、さらには海水浴場などの観光業にも波及するため、早い段階で除去する必要があり、国土交通省が処理にあたっています。

その作業を担う専用船といえるのが「海洋環境整備船」です。「海面清掃船」や単に「清掃船」とも呼ばれ、その名のとおり海面に漂う様々な漂流物を回収し、海洋環境の維持向上に従事する、いわば「海のゴミ収集車」というべき存在です。

国土交通省の海洋環境整備船はすべて双胴船型であり、双胴間部と呼ばれる船の真ん中の部分にスキッパ―(回収装置)やコンテナなどを配置し、これらでゴミなどの漂流物をキャッチする構造になっています。

流木などの長尺物は、スキッパ―ではなくクレーンで回収し、甲板の上でチェーンソーなどを使ってコンテナに入る大きさに切断します。

また船によっては、油回収機能や環境モニタリング機能も有しています。なかには船首に放水銃を備えるタイプもありますが、これはゴミ詰まりの解消や、高粘度浮遊油の粉砕、浮遊油の油吸引口への集約などに用いるものです。これらの機能は国土交通省が保有する大型の清掃船ならではの機能といえるでしょう。

実は小型船ばかり 大きくできないワケ

海洋環境整備船は、基本的に港の周辺や湾内、内海で作業するため、基本的には排水量200トン以下の小型船ばかりです。逆に船体が必要以上に大きいと、小回りが利かず作業しにくくなるため、むしろ漂流物の回収だけ行う清掃船は、港や運河、河口などで作業するために排水量15t以下の小さなものもあります。

国土交通省が保有する海洋環境整備船は、2020年4月現在で12隻あり、東京湾や伊勢湾、瀬戸内海有明海および八代海などに配備されています。また海洋環境整備船を含む清掃船は国のほか、民間所有、港湾を管理する地方自治体の保有など様々な形態があり、国や自治体から運航を民間(社団法人含む)に委託する形も採られています。

前出のとおり海洋環境整備船は「令和2年7月豪雨」に際しても、九州の八代海や有明海中部地方の伊勢湾などで奮闘しています。遠方の港に配置されている海洋環境整備船も、応援のため当該港湾に派遣されており、船舶の安全と、漁業や観光業の被害拡大防止のために活動を続けています。

港湾の漂流物処理を担う海洋環境整備船の例。四国地方整備局の「美讃(びさん)」(画像:国土交通省)。