(北村 淳:軍事社会学者)

JBpressですべての写真や図表を見る

 米インド太平洋軍司令官のフィリップデービッドソン海軍大将は、米軍がグアム島にイージス・アショア(地上設置式弾道ミサイル防衛システム)を配備することを公表した。日本列島上に2セット配備することにしていたイージス・アショアの調達を突然中止した日本政府の決定を受けての対応ということになる。

アメリカに好都合な日本のBMD強化

 中国軍北朝鮮軍弾道ミサイル戦力の飛躍的な強化に伴い、日本や韓国のみならずアメリカの軍事戦略にとっても、日本や韓国、そして日本海、東シナ海から西太平洋にかけての海域における「弾道ミサイル防衛(BMD)」態勢の強化は、重要性を著しく増してきている。

 日本政府は基本的に軍事力の増強には消極的であるが、BMD戦力の強化に関しては比較的積極的であった。その状況はアメリカ側にとって幸いであったといえよう。

 日本防衛当局は、防空戦闘艦としての海自イージス駆逐艦を改修してBMD能力を付加させたり、BMD能力を持ったイージス艦を追加建造したり、在日米軍航空基地をはじめとする重要施設を防御する十分な数のPAC-3を調達してきている(沖縄には多数の空自PAC-3が配備されている)。それに加えて、24時間365日途切れなくBMD態勢を継続できるイージス・アショアを2セット調達して、日本列島の大半を防御する方向性で動いていた。

 このように、日本がBMDに巨額な予算を投入しBMD戦力を強化すると、アメリカにとっても好都合な状況が生まれる。

 たとえば、米軍が北朝鮮や中国によるハワイグアムに対する弾道ミサイル攻撃に備えるためには、日本周辺海域に米海軍イージスBMD駆逐艦を、合わせて3~4隻は展開させなければならない。そして、在日米軍基地やXバンドレーダーサイト(青森県車力、京都府経ヶ岬)などは、PAC-3によって防衛態勢を固める必要がある。このほか、グアムハワイにはTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)やイージス・アショア、それにPAC-3などを配備することになる。

 しかし、海自が多数のイージスBMD艦を運用すれば、米海軍が日本周辺海域に展開させねばならないイージスBMD艦の負担が軽減される。また、自衛隊が多数のPAC-3を保有すれば、それらによって在日米軍航空関連施設(そのほとんどが自衛隊と共用あるいは自衛隊施設と近接している)やXバンドレーダーサイトの防御態勢を強化することができる(米軍の強力なレーダーで得た情報は日本自身のBMDにも必要不可欠である)。

 それらに加えて、日本列島の大半をカバーする形で2セットイージス・アショアを日本が設置すれば、在日米軍施設の安全性が高まるとともに、米海軍イージスBMD艦の負担がさらに軽減されることになる。

 日本がBMD戦力を強化することは、このような純粋な軍事的理由に加えて、アメリカ防衛産業とアメリカ政府の懐を潤すことにもなる。艦載イージスBMDシステムにせよ、PAC-3にせよ、イージス・アショアにせよ、いずれも日本はアメリカから(アメリカ政府の言い値で)購入し、かつソフトウェア使用料などを支払い続けなければならない。また、この種の兵器取引に関してはアメリカ政府に少なからぬ手数料を支払わなければならないからだ。

BMDから少しでも手を引きたい米海軍

 これまでもデービッドソン司令官を含むアメリカ海軍首脳の中からは、日本周辺でのBMD態勢を強化するためにアメリカ海軍第7艦隊イージスBMD艦(巡洋艦駆逐艦)数隻を日本海や東シナ海に展開させておかなければならない状況に対して、「そもそもBMDは海軍戦闘艦艇にとっての本務ではない」といった声が上がっていた。

 まして昨今は、トランプ政権の対中超強硬姿勢への転換に伴って、南シナ海での米中軍事衝突の可能性が高まっている。そのなかで、中国海軍に対して劣勢に陥りつつあるアメリカ太平洋艦隊としては、1隻でも多くの巡洋艦駆逐艦を「伝統的な本務である水上戦や対潜水艦戦」に投入できる態勢を維持しておく必要に迫られている。

 なぜならばアメリカ太平洋艦隊は、南シナ海や東シナ海において、強大な海軍力(水上戦闘艦艇、潜水艦、攻撃原潜)、航空戦力(空軍、海軍航空隊)、それに接近阻止戦力(多種多様の対艦ミサイルや防空ミサイル)を擁してアメリカ海軍の撃破を目論んでいる中国軍を相手に、軍事的優勢を確保しなければならないからだ。

 このような状況下で、同盟国である日本が、アメリカ海軍としても期待していたイージス・アショアの配備をキャンセルすることになった。アメリカ海軍としては、少しでも多くの軍艦を中国海軍との対決に投入できる態勢をとるために、グアム島にイージス・アショアを配備して、日本周辺海域での駆逐艦によるBMD態勢を解除する必要が生じてしまったのだ。

アメリカが直面している選択

 とはいっても、日本に2セットイージス・アショアが設置されれば、より多くの第7艦隊巡洋艦駆逐艦BMD任務から解き放つことができるだけでなく、海上自衛隊イージス駆逐艦BMDに貼り付けにする必要がなくなる。その結果、日米共同で強力な水上戦闘艦隊を編成して南シナ海での対中牽制作戦を頻繁に実施することが可能となる。

 このような理由により、アメリカ側としては、以下のどちらかを選ばなければならない状況となった。

(1)日本政府が、急変する東アジア軍事情勢を再認識することによってイージス・アショア配備の復活に舵を切ることを期待する。

(2)もはや日本政府には大局的に軍事同盟を考察する能力なしと判断して、日本抜きで中国と軍事的に対峙する戦略に切り替える。

 アメリカが「期待か、失望か」という選択に直面していることを、日本政府や国会は認識すべきである。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  米政治学者「日本の地上イージス中止は理解できる」

[関連記事]

中国潜水艦、日本近海で活動活発化の狙い

国民を弾道ミサイルから守る気がなかった日本政府

グアム海軍基地のあるアプラ湾に入港する空母ニミッツ(2020年6月24日、出所:米海軍)