アパートの施工不良問題で経営再建中の賃貸住宅大手「レオパレス21」が、7月22日の定時株主総会を無事に終えた。株主総会では一部のオーナーから怒号が飛ぶ場面もあったものの、大株主である村上世彰氏からの緊急動議もなく、会社側の議案はすべて可決された。

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 株主総会を乗り切ったとはいえ、問題は山積している。2020年3月期決算で連結最終損失は802億円で2期連続の赤字を計上し、債務超過の危機に直面しているのだ。

 株主総会ではほとんど触れられなかったが、大手家電量販店のヤマダ電機が支援に乗り出すと報じられて話題になった。果たして、本当にヤマダ電機はレオパレス救世主に名乗りを上げるのか。

週刊文春が報じたヤマダ買収説

 苦境のレオパレスヤマダ電機が救いの手を差し出すと報じたのは、“文春砲”で名高い週刊文春だ。6月25日号で「債務超過寸前のレオパレス21 救世主は『ヤマダ電機』メリットはあるのか?」との記事を掲載している。

 記事ではレオパレスの苦境を解説し、「脱家電販売」を掲げて住宅事業も手掛けるヤマダ電機救世主になる可能性を指摘、両社が手を組むことで相乗効果が生まれると解説している。

 今年10月に持ち株会社化するヤマダ電機が、数年前から住宅事業に力を注いでいるのは事実だ。ヤマダ電機がレオパレスを買収すれば、不動産業界再編の起爆剤になるのも間違いない。

 ただ記事の中で、ヤマダ電機がレオパレス救世主の最有力候補と指摘したのは「金融機関幹部」。当事者ではない。一方、名指しされたヤマダ電機は、週刊文春に対して「コメントはございません」と回答している。こちらは肯定も否定もしていないのだ。

 そこで改めて“当事者”であるヤマダ電機の幹部に聞くと、意外なことに「現時点でレオパレス買収はまったく考えてない」と完全否定するのだ。

 が、火のないところに煙は立たない。何より、報じたのは天下の週刊文春なのだから・・・。

ヤマダに旨み少ないレオパレスとの提携

 幹部は「銀行は様々な提案を持ち込んでくる」と前置きした上で、「レオパレスとの業務提携を検討したことはあるが、それは10年も前の話だ」と苦笑した。10年前、ヤマダ電機がレオパレスと業務提携を検討したのはなぜか。

 レオパレスは、2010年3月期の連結決算で創業以来最大となる790億円の赤字を計上した。大赤字の原因は、リーマンショックの影響による入居者の激減だった。

 先の幹部が続ける。

「山田昇会長は、当時から経営の多角化を掲げていた。新しい収益の柱に見据えたのは住宅不動産事業。当時、業務提携先の1つにレオパレスを検討したのは大赤字を出しただけでなく、会社がゴタゴタしていたこともあり“与しやすい相手”と考えたからだ」

 レオパレスのゴタゴタとは、創業者である深山祐介氏の不祥事だ。レオパレスが多額の赤字を抱える中、深山氏による47億円の私的流用が発覚。その責任を取る形で2006年に社長を辞任、自らが創業した会社を去っていた。

 カリスマ経営者の不在と、創業以来の大赤字。当時のレオパレスの経営は盤石ではなく、業務提携が実現すればヤマダ電機が主導権を握れる可能性が高いとの計算だったという。

 結局、ヤマダ電機とレオパレスの業務提携は幻で終わり、現在、両社の間ではレオパレスの居住者向けポイントサービスを行っているだけだ。

 ヤマダ電機が本格的に住宅事業に乗り出したのは2012年。日立グループの住宅設備機器メーカー「ハウステックホールディングス」の全株式を取得してからだった。

 その後も、ヤマダ電機は住宅関連企業の買収を繰り返している。しかし、現在のところ住宅事業は脱家電販売の柱になるどころか、皮肉にもヤマダ電機グループの収益を押し下げる“元凶”になっている。

 先の幹部と同じく、ヤマダ電機グループ企業の役員もレオパレスの買収を否定した。その理由に挙げたのが、昨年買収した大塚家具だ。

 その役員が解説する。

「うちが力を入れているのは、アパートではなく一戸建て。それは大塚家具の買収でも示している。大塚家具は高級家具が主力で、アパートには必ずしもマッチしない。大塚家具とレオパレスを傘下に収めても、それほど相乗効果を望めないでしょう」

 レオパレス救世主ヤマダ電機の名が出たのはなぜか。

「うちは今年3月に注文住宅メーカーの『レオハウス』を買収した。それを意図的に『レオパレス』と変換して、ほくそ笑んでいる人がいるのではないか」(同)

 では、ヤマダ電機がレオパレスを買収する可能性は本当にゼロなのか? 役員は、苦笑しながらこう続けた。

大塚家具再建に苦戦中で、レオパレスを買収する資金的な余裕はない。また、レオパレスの施工不良問題がいつ決着するのかも見通しが立たず、投資リスクが高すぎる。まあ、最終的には山田会長の判断に委ねられるのだが・・・」

 レオパレスの経営回復には一刻も早くアパートの改修工事を進め、入居率を上げるのが現実的な方法に違いない。

単独で救済に乗り出す企業の出現は期待薄

 レオパレスのHPを見ると、「明らかな不備棟数」1万3621棟のうち「改修工事完了」はわずか1015棟にすぎない(2020年6月末時点)。当初、全棟の工事完了時期を今年6月末としていたが、新型コロナウイルスの影響と退職者の増加で現在はその見通しも立たない状況だ。

 一方、入居率も芳しくない。今年6月の入居率は79.43%と、危険水域といわれる80%を割り込んだ。入居率が80%を割り込むと家賃収入がオーナーへ支払う金額を上回る“逆ざや”に転落する恐れがある。

 さらに、レオパレスには別の不安要素がある。株主総会でも一部のオーナーが指摘したが、銀行が沈み行く泥船から逃げ出しているのだ。

 りそな銀行三井住友銀行は2人の取締役を退任させただけでなく、取引額も縮小している。事実上、レオパレスを支えるのはみずほ銀行だけとなった。

 四面楚歌が続くレオパレスに生き残りの策はあるのか。不動産業界に詳しい、あるアナリストは「今のレオパレスには先の見えないリスクが多すぎて、単独で救済に名乗りを上げる企業が現れる可能性は極めて低い」と分析する。

 アナリストが導き出した生き残り策は2つ。

「ひとつは、ファンドへの支援要請です。今のレオパレスの状況を考えると、最低でも1000億円規模で支援してくれるファンドになる。そうなると海外のファンドが有力です。

 もうひとつは、債務超過に陥る前に、民事再生の手続きを開始すること。民事再生なら、会社に残った社員たちの手で再建できる可能性が残る。しかし、上場廃止が前提なので、現経営陣は株主やオーナーから厳しく追及されますがね」

 株主総会で「V字回復策」を明らかにできなかった、レオパレスの宮尾文也社長。今後、アナリストが提案する2つの策を選ぶのか。それとも極めて可能性の低いヤマダ電機の山田会長の“鶴の一声”に期待するのか。いずれにせよ、レオパレスが歩むことになるのは茨の道だけだ。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  レオパレスにヤマダによる買収観測、好手か悪手か

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レオパレス21本社(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)