5月29日、通常国会で「年金制度改正法」が可決されました。

平均寿命の延びとともに、現役を引退してから年金で生活する期間も長くなっています。昨年は「老後資金2000万円」が話題になりましたが、平均寿命まで健康に生活できなければ、実際には2000万円あっても足りなくなるかもしれません。

今回の改正では、「人生100年時代」を見据えた見直しがされています。制度の変更点を押さえておくと、老後のライフスタイルや生活資金をどうするかの選択の幅も広がります。そこで、今回の年金制度改正でサラリーマンが押さえておきたい2つのポイントを紹介します。

ポイント1. 働いても年金は減らされず、年金額が毎年見直される

現行の制度では、60〜64歳の老齢厚生年金の受給者が就労して厚生年金に加入した場合、ボーナスも含めた報酬月額と、年金の基本月額の合計が基準額の28万円を超えると、年金額の全部または一部が停止されてしまいます。これを「在職老齢年金制度」と言います。なお、65〜69歳の場合は、基準額が47万円となっています。

今回の改正により、2022年(令和4年)4月からは60〜64歳の基準額が28万円から47万円に引き上げられ、65歳以降と同額になります。これまでは、年金が減額されることで60歳以降に働き続けることを断念したり、働く量を抑制する場合もあったようですが、基準額の引き上げで働き続けることがより促進されることになるでしょう。

また、現行制度では65歳以降に働きながら老齢厚生年金を受給している場合、退職等で厚生年金被保険者の資格を失うまでは、それまでに収めた保険料が年金額に反映されません。

これについても今回の改正で、2022年4月以降は年金額が毎年10月に改定されることになりました(在職定時改定)。つまり、毎年、老齢厚生年金の受給額が見直しされ、65歳以降も働く分だけ受給額が毎年上乗せされていくイメージです。これにより、働き続けるメリットを感じられ、老後の資金設計もしやすくなりそうです。

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ポイント2. 75歳までの繰下げ受給で84%増額に

年金の受取開始時期が75歳まで広げられたという変更点が、「75歳まで年金がもらえない」と勘違いされている場合もあるようです。しかし、あくまでも年金の受給開始を75歳まで繰下げられるということであって、年金の受給開始が75歳からになったわけではありません。

公的年金は原則として65歳から受給が始まりますが、現行制度では、希望すれば60歳から70歳の間で1カ月単位で自由に受け取り開始時期を選ぶことができます。

ただし、現行制度では65歳より前に年金の受給開始時期を繰上げると1年で6%(月0.5%)減額されるので、60歳から受取りを開始すると年金は30%減額されます。反対に、繰下げ制度を利用すると、年金額は年8.4%(月0.7%)増額され、70歳まで繰り下げると、年金は42%の増額になります。繰上げと繰下げのどちらを選択しても、減額、増額した年金額が生涯続くことになります。

2022年4月以降は、上述のように受取り開始時期の上限が70歳から75歳に引き上げになります。最長75歳まで年金の繰下げをすると、年金は84%増額することになるわけです。また、繰上げ受給の減額率も見直しされ、年6%の減額から4.8%に緩和されることになりました。よって、60歳から受給すると24%の減額に縮小されます。

「繰下げ受給」を利用している人は少ない

では、繰上げと繰下げ、どちらが得なのでしょうか。結論から言うと、平均的な死亡年齢まで生きるとしたら、何歳から年金受給を開始したとしても受け取る年金の合計額はさほど変わりません。

厚生労働省 年金局の資料によると、60歳から75歳までの間、どの時期に年金受給を開始したとしても、65歳から平均的な死亡年齢まで年金を受け取った場合の年金額とほぼ同額になるように計算されているようです。なお、現在試算に使われているデータは、平成27年完全生命表による年齢別死亡率で、この時点の65歳の平均余命21.8年となっています(男女平均)。

2017年度の繰上げ・繰下げ制度の利用状況を見てみると、繰上げを利用している人の割合は19.7%、繰下げを利用している人の割合はわずか1%強という結果です。繰上げする人の割合は年々減少していますが、もらうものは早めにもらっておこうと考える人が多いということなのでしょうか。

また、繰下げの利用が少ない理由として、老齢厚生年金の支給開始年齢が60歳から65歳へと段階的に引き上げられている途中ということが考えられます。この引き上げ完了時期は男性2025年度、女性が2030年度なので、それ以降は変わってくるかもしれません。

おわりに

人生100年時代においては、現役をリタイアしてからの長い時間をどう過ごすのかによって、必要な老後資金の金額はずいぶん変わってきます。年金をもらいながら働くことや、夫婦で年金をもらう時期を調整して年金額を増やす選択など、それぞれのライフスタイルに合わせて老後の生活を考えてみてもいいのではないでしょうか。

【参考資料】
年金制度改正法(令和2年法律第40号)が成立しました」(厚生労働省
繰下げ制度の柔軟化」(厚生労働省 年金局)