「もう、性犯罪から離れたいんです」。2019年9月中旬、記者にこう語った石橋さん(仮名・40代)は、その数日後に強制わいせつ、迷惑防止条例違反の疑いで逮捕・起訴された。

東京地方裁判所は今年6月中旬、石橋さんに懲役3年6月(求刑5年)を言い渡した。

判決を受け、彼はなにを思うのか。6月下旬、記者は受刑者や出所者を支援するNPO「マザーハウス」理事長の五十嵐弘志さんとともに、石橋さんがいる東京拘置所に向かった。(編集部・吉田緑)

●これまでは「帰る場所」がなかった

石橋さんは今回の逮捕前にも、強制わいせつ、迷惑防止条例違反などの性犯罪を繰り返し、4回の服役経験がある。

2019年6月に出所後は、性依存症の治療を受けたり、「マザーハウス」で更生に向け、歩き出したところだった(「もう性犯罪から離れたいんです」4回服役した男性、本心打ち明けた後に再び逮捕)。

しかし、同じ年の8月、歩いていた3人の女性に対し、胸をつかむ、揉むなどしたとして、強制わいせつ、迷惑防止条例違反の疑いで逮捕・起訴されていた。

判決を受け、彼はなにを思うのか。石橋さんに会いに東京拘置所に足を運ぶのは今年の2月下旬ぶりだ(性犯罪で4回服役、再び逮捕の男性「自分でもわからない」「もうやめたい」拘置所で明かした苦悩)。

新型コロナウイルス感染防止のため、入口で検温と消毒をおこない、マスクをつけて面会室へと進む。アクリル板ごしに再会した石橋さんは、前回の面会時よりも表情がスッキリしてみえた。

石橋さんは「判決が出てホッとしました」と話し始めた。

「これまで、自分は(刑務所を出た後に)『帰る場所』がありませんでした。そのため、刑務所に行くために犯罪をしていた自分もいました。

これまでの裁判では、判決はどうでもいいと思い、裁判官の話も聞いていませんでした。自分の言いたいことを主張したこともありません。

公判で自分の言いたいことを言えたのは初めてでした。精一杯伝えた結果の判決なので、受け入れたいと思います」

また、逮捕後から現在に至るまで、石橋さんと手紙の文通をしているマザーハウスのボランティアスタッフなどもいるという。

「手紙が来るのは嬉しいものですね。面会に来てくれたり、手紙をくれたりする人はこれまで誰もいませんでしたから」と石橋さんは笑顔を見せた。

これまでは新型コロナウイルス感染拡大の影響で、裁判が延期になったり、面会が制限されたりしていた。先が見えない不安から解放されたことで、石橋さんは「ホッとした」のかもしれない。

刑務所で過ごす時間を「回復の3年間」に

東京地裁は「懲役5年」の求刑に対し、石橋さんに「懲役3年6月」の実刑判決を言い渡している。

判決文によると、石橋さんが医師等に自分の気持ちを打ち明けるなどして治療を受け続け、2度と同種犯行をしないと述べていること、情状証人として出廷した五十嵐さんがサポートすると証言したこと、病院での治療が期待できることなどの事情を考慮したとされる。

未決勾留日数150日が刑に算入されるため、石橋さんが刑務所で過ごす期間は約3年間だ。

刑務所内でも、対象者に「性犯罪再犯防止指導(R3)(再犯リスクなどから必要と判断された性犯罪受刑者が受講するプログラム。主にグループワーク形式でおこなう)」というプログラムをおこなっている。

しかし、石橋さんはR3以外に自分でできるプログラムがあればおこないたいという。

「自分を変えられるのは、自分しかいない。これから刑務所で過ごす3年間を『回復の3年間』にし、時間を大切にしてほしい」

五十嵐さんがこう話すと、石橋さんは深く頷いた。

●いつか「社会」に戻ってくる日のために

これから石橋さんはいずれかの刑務所に服役することになる。しかし、刑期を終えれば、再び社会に戻ってくる。

刑務所の出入りを繰り返してきた石橋さんだが、これまでと違うのは、出所後に受け入れてくれる人たちがいることだ。

五十嵐さんは「これからも彼とは関わり続けます。彼が社会に戻ってきたときには、再び受け入れる」と覚悟を語る。今後は専門家などとも話し合い、できることを考えていくという。

「石橋さんがこの裁判を通して、自分の言葉で言いたいことが言えたのは、強制わいせつを繰り返す自分を『助けてほしい』と叫んでいるように私は感じます。自分ではどうにもならない依存症から助けてほしいと、この裁判で彼は自分を変えようとしたと感じます。

今後、マザーハウスでは、受刑中の文通、面会を通して石橋さんが回復の道を歩めるようにサポートしていきたいです」(五十嵐さん)

しかし、被害者の傷や恐怖がなくなるわけではない。「被害にあうのではないか」と不安を抱く人もいるだろう。

再犯を防ぐため、そして新たな被害者を生まないために、いったい何ができるのか。石橋さんが社会で「生き直す」ために何が必要なのか。これからも模索は続く。

●公判での主張に裁判所「信用できない」

公判で初めて「言いたいことを言えた」と話した石橋さん。彼は何を語ったのか。

今年4月はじめに開かれた3回目の公判では「マザーハウス」の五十嵐さんや、石橋さんが通院していた病院で相談員(精神保健福祉士)を務める會田(あいだ)伸司さんが情状証人として出廷し、今後のサポートをおこなうことなどを語った(繰り返した性犯罪「なぜ事件を起こすのですか?」被告人の男性が法廷で語ったこと)。

ところが、被害者の女性2人(Aさん・Bさん)と石橋さんの話は食い違っており、石橋さんの行為は強制わいせつ罪における「暴行」にあたるか否かが争われていた。

公判で、石橋さんは「強制わいせつにならないようにしたので、胸を揉んではいない」「胸を揉んだか揉んでいないかは重要ではないと思ったので、警察の取り調べでは『揉んだ』と言った」などと話し、強制わいせつ罪における「暴行」にあたる行為はしていないと主張した。

しかし、判決文によると、Aさんは後ろから近づいてきた石橋さんに両肩を両手で掴まれて引き寄せられ、左胸を左手で2回ほど強く揉まれたと供述。Bさんも背後から抱きつかれ、両胸を両手で2回揉まれたという。

裁判所は、被害者の話は一貫していて「十分信用できる」のに対し、石橋さんの主張は「強制わいせつにならないように考えたという被告人が、行為態様について重要ではないと考えたというのは不合理」であり、「供述は信用できない」とした。

そして、石橋さんの行為は被害者2人の意思に反して「性的自由を侵害するものであり、かつ、その反抗を著しく困難にする程度のものである」とし、強制わいせつ罪における「暴行」にあたると示した。

性犯罪を繰り返し、5度目の服役へ 加害男性「判決が出てホッとしました」胸の内を語る