緊急事態宣言解除後も、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、企業の中にはオフィスへの出社率を一定割合以内に抑えるなど在宅勤務を継続する動きがあります。このことはサラリーマンの働き方を大きく変えましたが、筆者はもう一つの大きな変化に着目しました。

マスクで素顔の半分が見えない

 それは、ある人がマスクを着用しないで接する相手と、マスクを着用して接する相手とで、大きな違いが生じたということです。素顔で接する人と素顔で接しない人の区分ともいえます。家庭内でマスクを着用することは基本的にないと思いますので、多くの場合、マスクを着用するか着用しないかは、相手が家族か家族以外かの区分になります。

 外国では、髪や顔をベールで隠すというイスラム教徒の女性の例がありますが、家族以外に対して素顔の半分を見せないという状況が続くのは、わが国では初めてのことでしょう。

 このように申し上げると、「いったい何が問題なのか」「問題があったとしても感染防止のために必要なことではないか」という声が聞こえてきますが、私はマスク着用の是非を問いたいわけではありません。

 家族以外の人に対してマスクを着用し、素顔の半分を見せないということは、コミュニケーション手段が限られる事態に突入しているということです。しかも、マスク着用が知らず知らずのうちに常態化しているため、コミュニケーション手段が限定されていることに気付きづらいことが問題なのです。

 例えば、マスク着用で「声が聞こえづらい」「語尾が分かりにくい」「表情が伝わりにくい」「感情が伝わりにくい」…こういう状況が日常茶飯事となっています。新型コロナウイルスの国内感染が初めて確認されてから6カ月以上経過していますが、「家族以外との対話が形式的になった」「感情の交流が乏しくなった」と思うことはないでしょうか。

 家族以外の人との握手や、肩をたたくといったスキンシップがほとんどなくなっていることも拍車をかけていると思います。オフィスに出社しているメンバー同士の会話も極力、メールで行うというルールを設けている会社もあります。コミュニケーション機会が格段に減っていると言わざるを得ません。

 しかし、私たちの社会的活動は継続しているため、機会が限れていようとも、素顔で接することができなくても、家族以外といえども、コミュニケーションの低下を極小化する必要があるのです。

アイコンタクトとうなずき

 そのためには、家族以外の人とのコミュニケーションの際、リモート会議システムを活用する方法はもちろん有効ですが、筆者はこのような状況においてこそ、アイコンタクトとうなずきのスキルの活用をおすすめします。

 家族以外に対してマスクを着用し、顔の上半分しか露出していなくても、アイコンタクトスキルは使えます。むしろ、顔の下半分が隠れている分、アイコンタクトのスキルがよいにせよ悪いにせよ強調されます。このスキルを使わない手はありませんし、使わなければ、コミュニケーションができないといっても過言ではありません。

 具体的には、相手を見つめ過ぎない、つまり、アイコンタクトの秒数を短めにすることがおすすめです。私が対面やリモートで実施しているビジネス実践力向上プログラムの参加者に聞くと、アイコンタクトの長さが2秒から3秒だと相手を引き込みやすいと答える人が最も多いのです。

 しかし、2秒から3秒でアイコンタクトを外そうと思っても、自分が話しているフレーズの長さとアイコンタクトの長さがかみ合わないことが多いため、ちぐはぐになってしまいます。そこで、句読点アイコンタクトを外すことを覚えると結果的に、2、3秒で外すことができるようになり、話にリズムが出てきます。

 アイコンタクトを外す際は、上に外すと「何か思い出しながら話しているようだ」、斜め上に外すと「時間か窓の外が気になっているのか気もそぞろだ」、斜め下に外すと「自信がなさそうだ」と誤解を受けがちになります。そこで、うなずくように下の方向にアイコンタクトを外すと、聞き手をうまく引き込むことができるようになります。

 マスクを着用していても、うなずくことはできます。マスク着用で顔の下半分のコミュニケーション手段が使えないからこそ、アイコンタクトとうなずきのスキルを発揮して相手を引き込み、家族以外の人とのコミュニケーションレベルの低下を抑えることを心掛けましょう。

モチベーションファクター代表取締役 山口博

マスクをする生活が日常に