こんにちは! 週刊少年ジャンプ(以下「ジャンプ」)時評『月曜の朝を待ちわびて。』第7回です。今回は最近完結したばかりの、あのスポーツマンガの話題を中心にお届けします。

文 / おしこまん

◆『ハイキュー!!』堂々完結

2020年5月の『鬼滅の刃』から続いた連載作品の完結ラッシュ。最後を飾ったのは、古舘春一によるバレーボールマンガハイキュー!!』です。アニメ化や舞台化、現実の春高バレー(春の高校バレー 全日本バレーボール高等学校選手権大会)とコラボするなど、マンガファンだけでなく現役のプロ選手にも支持された、2010年代ジャンプを支えた王道青春スポーツマンガです。2012年から約8年半にわたり連載され、2020年7月20日発売のジャンプ2020年33・34合併号掲載の第402話「挑戦者たち」で完結を迎えました。

マンガを構成するすべての要素が圧倒的な作品

小学生時代にたまたま見た春高バレーテレビ中継で、“小さな巨人”と呼ばれる選手のプレーに魅せられた日向翔陽ひなた・しょうよう)。“小さな巨人”の在籍していた烏野高校に入学した日向が、中学時代に公式戦で惨敗した影山飛雄(かげやま・とびお)とバレー部で再会するところから物語は動き出します。



ハイキュー!!』について語るとき、どこから始めるかいつも迷ってしまいます。読者の期待を常に超えてくる物語構成、一癖も二癖もある魅力的なキャラクター、作画の説得力、コマ割り・カメラアングル・描き文字などによる演出……マンガを構成するすべての要素が凄まじいレベルでまとまった、圧倒的なクオリティーの作品です。

◆すべては「終章」のために……?

烏野高校バレーボール部も全国優勝を目指しています。県大会でのライバルたちとの激戦・接戦の果てについに春高バレーへの切符をつかんだ彼ら。都合よく勝ち進めるような作品でないことはそこまでの過程を追いかけていれば自明でしたから、このまま優勝できるのかどうかは想像もできませんでした(どんな結末であろうと納得のいくように描いてくれるだろうという信頼はありましたが)。とにかく、高校スポーツを題材としたマンガの例に漏れず、『ハイキュー!!』も烏野高校の戦いを描き続けて、それをやりきった時に完結するのだろうと思っていました。

そんな風に考えていたものですから、「春高バレー4回戦・鴎台高校との試合中に日向が発熱で途中退場、烏野高校はベスト8で敗退。舞台はそれから数年後のブラジル、そこにはウーバーイーツのような格好で配達作業をしている日向の後ろ姿が……!」という予想外すぎる怒涛の展開には、率直に言って最初は混乱しました。あんなにアツかった高校時代をスキップして、これからこの物語はどこに向かっていくのだろう? と。

しかし、そうして始まった「終章」が回を重ねるごとにおもしろくなり、いつの間にか、むしろすべてはこの終章のための仕込みだったのでは、とさえ思うまでになりました。

負けは 今の力の認識であっても 弱さの証明ではない
君たちの 何も ここで終わらない
これからも 何だってできる!!!

これは、烏野高校バレー部顧問・武田先生が、鴎台高校に敗れた後のミーティングで生徒たちに伝えた言葉です。完結した今、改めて読み返してみると、終章のテーマはまさにこれだったと感じます。ちゃんと終章が始まる前に、今後の展開を示してくれていたのです。さすがとしか言いようがありません。

◆これまでスポーツマンガが描かなかったもの

終章では、ビーチバレーを通じて自身に足りない技術を磨くため単身ブラジルに渡った日向を皮切りに、これまでに活躍してきたキャラクターの卒業後の様子が次々と描かれていきました。



日向や影山をはじめとした実力者たちがその戦いの舞台をプロリーグオリンピックなどに移して活躍する一方で、卒業後には別の道に進んでいるキャラも多くいました。誰もその選択に後悔がない様子で、すっかり「少年」ではなくなった筆者は胸が熱くなりました。

マンガ史に残る傑作です

長い人生の中で部活動が占める割合はごくわずかで、大多数はそれ以外です。だからこそ、その一瞬の輝きを描いた数多の名作スポーツマンガわたしたちは魅了されてきました。しかし、筆者が年齢を重ねたからでしょうか、卒業後、彼ら・彼女らはどんな風に生きていくんだろう、とも考えるようになりました。

もちろん、「その後」を描かないことが悪いというわけではありません。読者のみなさんのご想像にお任せします、というのも正しい方法ですし、描き方によっては「最後の試合で終わった方がよかった」という評価になってしまうこともあり得るでしょう。しかし、『ハイキュー!!』は、物語の序盤から張り巡らせた伏線を丁寧に回収し続け、「その後」の様子をきっちりと描き切ることに成功しました。マンガ史に残る傑作と言っても、決して過言ではないでしょう。

まだまだ『ハイキュー!!』の魅力を語り尽くせてはいませんが、それは別の機会や他の誰かに「つなぐ」ことにしましょう。原作は完結しましたが、アニメ第4期『ハイキュー!! TO THE TOP』の第2クール10月より放送開始、秋には舞台版の新作公演、仙台・東京での原画展、ガイドブックや画集の発売など、まだまだ楽しみなトピックは続きます。



コロナ禍を経てのマンガ表現

ハイキュー!!最終話が掲載されたのと同じジャンプ2020年33・34合併号に、ひさしぶりに『こちら葛飾区亀有公園前派出所』が掲載されました(オリンピックの年だけに目覚める設定の名物キャラクター日暮熟睡男ひぐらし・ねるお)のもとを両津勘吉たちが訪れるという内容でした)。さすがの安定感で楽しく読みましたが、作中のキャラクターマスクをしていたのも印象的でした。

前回取り上げた『アクタージュ act-age』舞台化インタビューの中で、原作のマツキタツヤ氏がコロナ禍での創作について、以下のように語っています。

僕も基本的には一人の作業なので、いつも使っている喫茶店が使えない程度で済んでいます。
ただ週刊連載で書いていると、登場人物がマスクをしていないとか、始業式を迎えている事に違和感は出てきますね。
現実のほうが本来の形とズレていく中で、書いている物がファンタジー化してくるような感覚というか、そういう違和感が発生するレベルにまでなってきているなあという実感はあります。
舞台アクタージュ act-age銀河鉄道の夜~」オーディションより引用

おそらく今、マツキ氏と同様に、この状況を創作にどう反映すべきか(あるいはしないか)世界中の作家が頭を悩ませていると思います。『こち亀』はギャグマンガであるからこそ実現できた面も大きいと思いますが、マスクをつけていることの説明すらなく軽々とやってのけていたのは爽快ですらありました。

to be continued

本連載では、過去に何度か、新型コロナウイルス感染拡大を受けてジャンプ作品がどのように変化していくか注目していきたいと書きました。まさかその先鞭を切るのが『こち亀』だとは、想像もしていませんでした。過酷さを増していく現実への抵抗手段として「笑い」の有効性を再認識しました。今のジャンプに多いギャグコメディーマンガも、そういう役割を担っているのかもしれません。

今回の『こち亀』の最後には、「to be continued 2021」と記されています。1ヶ月後の社会がどうなっているかもわからないような現在ですが、今後も変わらずにジャンプとその周辺を観測し続けていきます。それではまた次回!

ハイキュー!!』はマンガ史に残るスポーツマンガだ! ジャンプ「完結ラッシュ」の最後を飾った傑作を総括は、WHAT's IN? tokyoへ。
(WHAT's IN? tokyo)

掲載:M-ON! Press