ネット誹謗中傷を受けた際に、どのようにして迅速に被害回復できるようにするか。総務省の有識者会議「発信者情報開示の在り方に関する研究会」で議論が進んでいる。

総務省が7月に示した中間とりまとめ案では、発信者情報の開示対象を拡大することや新たな裁判手続きの創設、ログの保存期間などの論点があがっている。

誹謗中傷に悩む被害者にとっては現状の制度が負担となっている一方、手続きを簡素化しすぎると濫用の恐れや表現への萎縮効果があると指摘されている。

総務省11月に最終報告をとりまとめる予定だ。手続きの悪用を防ぎながら、発信者を特定しやすくする新たな裁判手続きとはどのようなものか。今後の議論のポイントやプラットフォーム事業者の社会的責任について、研究会の構成員を務める明治大学法学部の丸橋透教授に聞いた。

新たな裁判手続きに「期待」

――総務省の「発信者情報開示の在り方に関する研究会」で、新たな裁判手続きの議論が始まりました。

歓迎しているし、期待しています。今は、まず、SNS電子掲示板等、コンテンツ共有事業者への発信者情報の開示請求、次にアクセスプロバイダへの開示請求を経て、ようやく発信者に対する損害賠償等の法的請求が可能となる手続です。誹謗中傷の書き込みをした当事者が、問題となっている投稿から法的手続上、二段階先にしかいないのは不自然です。

二段階の手続きがあることでうまく発信者情報開示ができていなかったことがあるとすれば、裁判所が早く介入することで「通信ログ消去禁止の仮処分」のような無駄な手続きを飛ばすことができると思います。

――その一方で、中間とりまとめ前には、丸橋教授も含めた複数の構成員が新たな裁判手続の創設を既定のものとしないよう意見書を出しています。

新たな裁判手続の創設というのは、従来の発信者情報開示請求の実体的請求権としての性質を見直すという大きな議論です。先ほど歓迎していると言いましたが、内容は緻密に考えていく必要があります。

現行制度は、最終的には訴訟手続きによる発信者情報の開示の実現を想定しているわけですが、これは任意で開示させることが難しいという問題があるからです。

ただ、著作権侵害のデッドコピー(違法コピー)についてはプロバイダによる任意開示が進んでいます。これはなぜかというと、権利者側がきちんと証明することによって、プロバイダ側が安心して任意開示できているためです。

誹謗中傷関連でも、わずかながらですが、侮辱発言について限度を超えたものなど任意で開示できる局面はあります。

――裁判手続きを簡素化しすぎると弊害もあります。具体的にはどのような方法が考えられるのでしょうか。

SNSなどのコンテンツ共有事業者とアクセスプロバイダに対し、裁判所が一つの裁判手続き内で順番に指示をしていくイメージではないでしょうか。

まず、コンテンツ共有事業者に対して、アクセスプロバイダ側で特定できるのに足りる情報を出させる。それを基に、アクセスプロバイダに保全させ、発信者の特定作業を行わせる。その上で発信者と連絡が取れるのであれば、アクセスプロバイダが発信者に意見聴取することになると思います。

それは、コンテンツ共有事業者側がアクセスプロバイダに対し訴訟告知(民事訴訟法53条)し、訴訟に参加してもらうような構造を非訟手続で実現することになるのでしょう。

今は、アクセスプロバイダが何者であるかという情報すら通信の秘密にかかる可能性がある、という問題があるので、そこは解消しないといけません。発信者の権利を侵害しないように設計することは十分にできると思います。

プロバイダの任意開示をどう進めるか

――名誉毀損についても、プロバイダ責任制限法発信者情報開示関係ガイドラインを手厚くすることで任意開示が進められるのでしょうか。

はい、どういう時に任意で開示していいのか、このガイドラインでもう少し手厚く考え方を整理することはできると思います。裁判例もだんだん蓄積して来ており、この3、4年で判例データベースへの収録件数も急増しました。さらに判例分析をすることで、もう少しはっきりする部分もあるのではないでしょうか。

一方で、ただ、ガイドラインだけで乗り越えられる部分と乗り越えられない部分があります。アクセスプロバイダ側は、通信の秘密の侵害からの免責がないと、どうしても開示を躊躇してしまいます。過失により、裁判外で開示した場合には、通信の秘密の侵害に係る刑事責任を問われないことをガイドラインに明記した方が良いと思います。

実際、自分が実務をやっていた時に、特にこの部分を気にしていたわけではありませんが、権利侵害の明白性があると信じて開示した場合、通信の秘密の侵害罪に問われないとはっきりさせるだけでも前進するのではないでしょうか。

発信者の意見、どう反映する?

――丸橋教授は、2006年から17年までニフティの法務部長を務めていましたが、発信者情報開示請求の実務で気をつけていたことはありますか

請求者側が筋悪なものは、だいたい肌感覚で分かります。例えば、ブラック企業オーナー企業が、内部告発に関して発信者情報開示請求をすることは一定数あります。

そうしたケースでは、発信者側に意見があることが多いので、それをきちんと吸い上げ裁判をしていましたが、主張立証活動に発信者の意見が反映されるには手続法上の限界があります。

まず、発信者の意見について、裁判所が信じてくれません。つまり立証したことにならない、という問題です。

ニフティとしては、インハウス弁護士による電話録取をして、「酷い仕打ちを受けた」経緯など意見書をそのままでは出せない部分をカバーしていました。しかし、法廷では発信者の名前を伏せますから、裁判所から「本人がいったかどうかわからないではないか」と指摘されます。

また、「これは証拠になる」というものがあっても、出すと発信者が特定できてしまうものもあります。例えば「偽装請負で、従業員であるかのように指図を受けて仕事をしていた」という発言に対し、証拠として請負契約書を出すと、作業場所などが書かれているため本人が特定されてしまうのです。

発信者側が代理人弁護士をつけ、代理人が意見を取りまとめて出してくれる場合もありましたが、名前を秘密にしたまま証拠を審査するイン・カメラ制度がないため、うまく工夫しながらなるべく発信者の意見を伝えなければなりません。

ラットフォーム事業者の社会的責任

――誹謗中傷を巡っては、プラットフォーム事業者に対応を求める声もあります。個人の投稿内容について、プラットフォーム事業者はどこまで社会的責任を負うと考えますか。

今のアメリカは、トランプ大統領が自身のツイートに関する表現の自由を声高にとなえ、ツイッターがそれに抵抗するという図式になっています。政府が表現の自由に介入するのは問題ですが、トランプ大統領の言い分は、表面的なロジックとしては当たっている部分もあります。

SNS事業者が個人の表現に対して介入することは、従来型のメディアとしての役割を果たすということになります。なんのために、プロバイダ責任制限法を作り、ユーザーの責任で行う情報発信について、最終的にはユーザーに責任を取ってもらう方法で法律を組み立てているのか。間に入っているプロバイダに責任を取らせる仕組みではありません。そこの大前提が崩れてしまいます。

もちろん、国民や議会が、プロバイダに責任を取らせようということになれば、それはプロバイダ責任制限法も捨てるという話につながると思います。

そうすると、個人による情報発信とマスメディアの編集作業が入った情報発信の間の仕組みについて、価値がないという判断を我々国民がするのか、ということが問われてきます。

――不適切な内容の投稿について、プラットフォームの仕様で解決できるものでしょうか。

確かに、プラットフォーム事業者だからできることはたくさんあります。例えば、プラットフォーム事業者各社はたくさんの投稿を処理するのにAIを用いた自動検知機能を活用して、スクリーニングをしています。ただ、それはそれで、良い面と悪い面があります。

各社が総務省のプラットフォーム研究会で発表した誹謗中傷等への対策状況を見ると、ユーザーから指摘される前に削除しているものもあります。

発信者が自分の信ずるところを発信し、自分で発言の責任もちゃんと取るつもりだったが、そもそも日の目をみないーー。これは、新聞やテレビの読者や視聴者参加コーナーに採用されず、伝わらなかったというのと同じなわけです。

会社として、ユーザーと一体となって世の中に対して積極的に意見を出していくというのは、まさにメディアですよね。全てのユーザーの発言を自分ごととして扱うとするのは、それはそれで構わないと思います。

しかし、前もった削除が増えれば、被害者救済と個人の表現の自由に配慮するこれまでのプロバイダ責任制限法はなんだったのか、ということになります。

また、アーキテクチャによる言論空間の支配という問題もあります。プラットフォーム事業者が表現内容に直接関わる仕様を決めていいのか。最近は、リツイートの仕様から著作者人格権侵害が認められた裁判例、そして、ツイッター内部の検索機能を重く見るRT判決も出ています。

検索事業者について、「忘れられる権利」を巡るグーグル最高裁決定(平成29年1月31日)は、「現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たして」おり、安易に検索結果の削除をしてはいけないとしています。

ただ、そんなに大層なものなのか、個人的には疑問に感じています。例えばサジェスト機能のように、情報発信の信頼性をゆがませてしまうようなものもある。あれはユーザーの利便性のために出しているもので、それを「インターネットの表現の基盤」というのは変だと思います。

検索事業者にせよプロバイダにせよ、加工せずできることがどこまでなのか、法制度としての限界を探るのが健全だと思います。例えば、ヘイトスピーチ児童ポルノの削除については、だいぶ相場観がはっきりしてきています。もちろん、規約による対応でできることは原則としてやって良いと思います。

――諸外国では、違法コンテンツに対し、プラットフォーム事業者に厳しい対応措置を求める法律も規定されています。

ニュースポータルコメント欄に関する欧州人権裁判所の裁判例があります。エストニアのデルファイというニュースポータルで、攻撃的で罵倒するようなコメントに対して、サイト側の責任を認める判決です。

ニュースポータルなんだから、たとえテキストスクリーニングしていたとしても、それだけでプロバイダのような扱いにはならない。ニュースポータルとして責任を取ってねという内容です。

たとえば、ヤフーニュースコメント欄は、機械学習による対策をおこなっていますが、それは当たり前です。なぜなら、ニュースメディアだからです。ユーザー投稿を許している以上、最終的にメディア側が責任を取らなければいけない内容であり、それをユーザーだけの責任であるかのような言い方をするのはおかしいです。

一方、ニュースメディアとは言えないプラットフォームについては、ドイツが違法な投稿の削除を大規模事業者側に義務づけているなど、ヨーロッパコンテンツコントロールする方向性にあります。ただ、フランスの憲法裁判所は、プロバイダヘイトスピーチ等の24時間以内の削除義務を課すのは違憲との判決を出しています。

では、日本はどの辺りを目指すのか。ヘイトスピーチ規制の一環として、故意に削除しないプロバイダに罰則を課して実効性を担保するというのは、実態がひどくなれば、議論の遡上に載せてはいけないほどではないと思います。

今後の議論のポイント

――研究会は「中間とりまとめ案」に対するパブリックコメントを受け、年内に最終報告がまとめられる予定です。今後の議論のポイントはどのような点ですか。

ログイン情報は今後考え方の整理をし、法令改正も必要かもしれません。新しい裁判手続きについては、発信者の意見は今まで以上に反映しやすくするという方向性だと思います。すでに定型化している任意での発信者情報開示は、より広くおこなえるよう目指すべきだと思います。

日本では匿名表現の自由があり、現在は、完全な匿名ではないけれども半分匿名状態で自由な情報発信がなされています。

プロ責法の考え方はその価値を認めた上で、被害が出るものについてどの程度通信の秘密を犠牲にして救済するか。それの均衡点が、権利侵害の明白性との位置づけです。ですから、権利侵害の明白性を取っ払うという議論は、ありえないと思います。

プロフィール】丸橋透(まるはし・とおる)。明治大学法学部教授。京都大学法学部卒、コーネル大学ロースクール修了。ニューヨーク弁護士富士通法務第一部長、ニフティ法務部長などを経て、2018年4月から現職。研究分野は情報法、サイバー法。共著に『インターネットの法律問題-理論と実務-』(新日本法規出版)、『ITビジネス法入門—デジタルネットワーク社会の法と制度』(夏井高人監修・TAC出版)など。

ネットの誹謗中傷、「迅速な被害回復」と「匿名表現の自由」をどう両立すべきか 丸橋透教授に聞く