長谷川博己が、園子温監督の最新作『地獄でなぜ悪い』で自称映画監督の男を演じ、新境地を開拓した。

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 文学座を中心に舞台俳優として頭角を現した長谷川だが、『セカンドバージン』『鈴木先生』『家政婦のミタ』など大きな反響を呼んだ連続ドラマで立て続けに主演し、人気を不動のものに。その一方で、映画出演は『地獄でなぜ悪い』が3本め。しかもそのうちの2本は主演した連ドラの続編で、意外なことに映画独自の企画は今回が初めてだ。もっとも、特に理由があったわけではなく、「流れですね。舞台を見ていただいた人にテレビドラマに出してもらい、そのテレビドラマが映画になって、その映画を見た人がまた映画で使ってくれたみたいな感じです。自分から映画に出演したいと思っていても、その通りにいかないのが役者の仕事ですから」と、謙虚に語る。

 大の映画好きで以前から園監督のファンだったというだけに、「『紀子の食卓』を見た時から、園監督とはいつか一緒に仕事をしてみたいなと思っていました。最初にお会いした時には、映画っぽい感じの雰囲気の人だなという印象でしたね」と、本作へのオファーも嬉しかったようだ。

 最近の園作品は、各国の映画祭で次々と受賞。『愛のむきだし』『冷たい熱帯魚』『恋の罪』『ヒミズ』『希望の国』などシリアスな内容が続いたが、『地獄でなぜ悪い』はこれらの作品とは明らかに異なるテイスト

 何としても女優にしたい娘ミツコ(二階堂ふみ)主演の映画を撮ろうとする暴力団の組長武藤(國村隼)が、行きずりの男(星野源)と逃亡中の娘を奪還。1本も長編映画を撮ったことがない自称映画監督の平田(長谷川)ら自主映画グループのファックボンバーズと共に、武藤は、組員たちをスタッフに起用して映画を製作することに。平田の発案でミツコにベタ惚れのヤクザ池上(堤真一)が率いる対立組織への殴りこみを映画として撮影することになり、壮絶なアクションバトルが繰り広げられる大団円に突入…という予測不可能な内容。

 「映画を作ろうという情熱が、この映画そのものだと思いました」と長谷川も語るように、なんとも憎めない人たちが映画製作をめぐって繰り広げる大騒ぎを見ていると、いつしか心が熱くなってくる。

 古今東西の名作へのリスペクトを感じさせるシーンも次々と登場。「ここはサミュエル・フラーなのかなとか、『蒲田行進曲』も出てくるし。(ジョン・ウー監督の『ハードボイルド/新・男たちの挽歌』で殺し屋を演じた)國村さんがジャンプしながら拳銃を撃つシーンでは笑いました」と、こちらの見どころも尽きない。

 更に、デジタル化が進む映画界における35mmフィルムへのこだわりも、あちらこちらに顔を出す。「やはりフィルムは好きですね。フィルムのサウンドも好きですし、ザラッとした質感がすごく見ていてホッとするというか。この映画は35mmに対するオマージュではないかと感じましたが、そういった話を園監督とした時、『フィルムが残ることは100%無い』と断言されていたのがすごく印象的でした。過ぎ去った過去にずっと執着していては駄目だし、かといってそれを忘れてもいけない。この作品ではどうしょうもないくだらないこともやっていたけれど、そんなことも考えながらやった映画でもありましたね(笑)」と、長谷川自身のフィルムへの愛も込められている。

 そんな映画愛溢れる作品に集まったのは、いかにも映画らしい顔ぶれの役者たち。現場でも、役者同士、様々な話題で盛り上がったとか。「國村さんが『ブラック・レイン』に出た時のリドリー・スコットの演出の話などが印象に残っていますね。堤さんとは、2人で対面するシーンで台詞のタイミングが上手く合わなくて、『難しいですね』と言ったら堤さんも『難しいね、芝居は』(笑)」と、先輩たちとのコミュニケーションを深めた一方、「星野さんはあのような面白い演技をされますが、すごく細かいところまで監督の意思を確認していて、全て計算の上でやっている感じでしたね。二階堂さんは何と言ったらいいのか、肝が座っている感じ(笑)。タランティーノの憧れだったパム・グリアのような日本のミューズを演じているのがすごく良かったですね。安い靴屋で色っぽく話をしている姿も、バッチリはまっていましたし」と、若手の演技にも大いに触発された様子だ。

 最近見たお気に入りの映画を聞くと、何と『ランボー 最後の戦場』の名前が。「本当にすごかった。あれを劇場で見なかった自分を恥じました。監督としてのスタローンのすごさに初めて圧倒されましたね。とにかくリアルに作っているし、ずっと息もつかせぬまま見られた素晴らしい作品です(笑)。何で公開時に見なかったのかなぁ…」と意外な作品の話も延々と続く。そんな映画愛溢れる長谷川に改めて『地獄でなぜ悪い』の魅力を聞くと、「何も考えずに気楽に見ることが出来る映画です。絶対に入場料だけの価値はありますから、見て損はないですよ。見れば、笑って泣けて飽きずに2時間見楽しめます。高校生も、友達同士で見に行ってキャーキャーワーワー言ってもらえば良いですね」。憧れの監督とタッグを組んだ初のオリジナル作品に、しっかりと太鼓判を押した。(取材・文・写真:平井景)

 映画『地獄でなぜ悪い』は9月28日より全国ロードショー

『地獄でなぜ悪い』長谷川博己インタビュー