子供の眼には非常に立派な人間に映る「教師」。しかし、年齢を重ね、実際に教師になった人の話を聞けば、彼らも職場の待遇や人間関係に悩む一人の人間であることに気がつきます。

教師 教育
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 今回はそんな悩める新人教師のエピソードを紹介します。

 大橋耕平さん(仮名・25歳)は都内の公立中学校に勤務する赴任3年目の国語教師。中学3年生のクラスの担任を受け持ちながら、サッカー部の顧問にもなるなど日々精力的に業務に勤しんでいます。

配属初日に受けた驚きの助言

 そんな彼も、1年目の頃は職場に根付いた年功序列に辟易していたそうで……。

「とにかく若手がやることなすことすべてにケチをつけるんです。特に私の上司である副校長Aさんは、年配者や女性にはひたすら甘い。彼女らの仕事のミスも笑ってすましてしまうくせに、こと若手の男性教師が相手となると細かいミスも必ず指摘してきます。しかも、それが若手のためになると本気で思っているんです。

 そんな上司がいる職場ですから、出勤初日に先輩教師に『早く異動したほうがいいよ』と言われたときにはびっくりしちゃいました。でも、今なら納得できますね」

 まさかの赴任初日に先輩から異動を勧められ、不安になった大橋さん。先輩の予想は的中し、充分な指導もないまま中学1年生クラスの担任を受け持つことになります。

3か月で副校長にささやかな反抗

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 直属の上司である副校長は本来、必死で業務を覚える大橋さんを支える立場です。しかし、副校長の態度はあまりに納得できないものでした。

「1年間の授業計画を作成し副校長にチェックしてもらおうとしたのですが、『そこに置いといて』と眼を合わせようもしないんです。私が話しかけても無視してきますし。何度もそんなことが続くうちに段々と反抗心が芽生えてきて。

 入職して3か月くらい経ったある日、作成したある書類をいつものようにチェックしてもらおうとしたのですが、相変わらず見もしないので、丸めて副校長のデスクのペン立てに挿しておいたんです。後でしこたま怒られましたがいい気味でしたね

通知表を巡って激化する2人の対立

 入職してから1年が経とうとするころ、副校長と大橋さんの対立がいよいよ決定的なものとなる出来事が起こります。大橋さんが受け持っているクラスの生徒たちに通知表を渡す3月にそれは起こりました。

通知表には生徒の日頃の生活態度に対し、担任から一言コメントを送る欄があります。実はこうしたコメントは生徒それぞれの事情を鑑み、直接的な表現を控えマイルドなものにするよう文章表現チェックが行われているんです。

 例えば、落ち着きの無い生徒に対しては、『落ち着きがない』と書かず『活発な』と言い換えたりします。正直、モンスターペアレント対策の一環ですね。このチェックを私は上司の副校長に依頼していたんです」

 初めての業務に苦戦しながらも何とかクラスの生徒全員分のコメントをつくりあげた大橋さん。副校長に添削を依頼します。ある程度の修正は覚悟していたそうですが、添削の結果は想定外のものでした。

新人教師がしたまさかの意趣返し

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「私のコメントほぼすべてに赤字で修正を入れられていました。ですが、そのほとんどは異常に細かな指摘で、先輩の女性教師が同じ表現を使っていてもまったく指摘していない内容でした。しかも、わざわざ私の席にまできて、『文章表現の本を読んで勉強しろ』と参考書籍まで勧めてきて。それで完全に頭にきましたね」

 露骨過ぎる差別に大橋さんは怒り心頭。副校長への復讐を誓います。業務後、その足で書店に向かった大橋さん。副校長オススメの書籍を購入し、早速コメントの修正を行います。

 ほんのわずかに自分の表現を残し、通知表コメントのほぼすべてを参考書籍通りに変更しておいたそうです。これで文句はないだろうと再びチェックを依頼しましたが、返ってきたのはまたまた赤字だらけの添削でした……。

「今度は私自身の表現には手つかずで、参考図書どおりに直した箇所だけキレイに赤字で修正が入っていました。怒りよりもまず、副校長の無能さに思わず呆れてしまいましたね」

かえって周囲の評判が高まった

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「もうさすがにうんざりしたので、自分が通知表に使用した文章表現が書かれているページを、エビデンスとして1枚1枚コピーし、添削結果と一緒に副校長のデスクに置いておきました。なにか言われても突っぱねてやろうと思ったのですが、結局なにも言ってきませんでしたね」

 どうやら大橋さんの副校長への下剋上が、教員中に知れ渡り、「新人ながら意見の通せる人間」と評判になったようです。

「とはいえ、年功序列の職場環境そのものを是正できたとは言い難く、後輩育成をすることで環境を変えていこうとしています。若いから、経験がないからといって声を上げないのではなく、おかしいことはおかしい、そうはっきり言うべきですね」

 なかなか新卒でそこまで言うことは難しいかもしれませんが、ときには勇気を振り絞ってみても悪くはないですね。

― 特集・新入社員がおどろいた「入社後ギャップ」 ―

<取材・文/山田星人>

【山田星人】