精子の泳ぎ方に関する研究

精子の泳ぎ方が考えていたのと違うことが判明 image by:polymaths-lab / youtube

 尻尾を左右に振りながらおたまじゃくしのように健気に泳ぐ。それが今まで考えられてきた精子のイメージで定説となっていた。

 ところが、最新の3Dモデルによれば、じつは精子はコルク抜きのように回転しながら泳いでいるのだそうだ。これは340年来の常識をくつがえす発見だ。

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精子の泳ぎ方に関するこれまでの定説

 精子についての一番古い記録は、「微生物学の父」と呼ばれるオランダ人科学者アントニ・ファン・レーウェンフックによるものだ。

 彼は1677年に自作の顕微鏡で自分の精液を覗き込んだ。そのとき彼が記した「アニマルクル(微小動物)」こそ、後に「精子」として知られるようになるものだ。

 ファン・レーウェンフックアニマルクルには丸い頭部があり、尻尾を左右に振って液体の中を進むと考えた。こうして先に述べた私たちの精子のイメージが、彼の観察以来、今にいたるまで世の中に定着してきた。

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頭部を尻尾とは逆方向に振り、らせん状に動く


 ブリストル大学(イギリス)とメキシコ国立自治大学(メキシコ)の研究グループは、顕微鏡の中の精子が移動するときに、頭の部分が”瞬く(またたく)”ことに気がついたという。回転していることを示すサインだった。

 そこで具体的に精子が液体の中をどのように泳いでいるのかモデル化してみることにした。

 そのために液体の中の精子を、さまざまな角度から毎秒5万5000フレームで3Dスキャン。さらに圧電素子で圧力・加速・力を検出し、1メートル100万分の1以下という極小の動きを計測。こうして集められたデータを数理モデルで可視化したのだ。


Spinners, not swimmers: how sperm fooled scientists for 350 years

 研究グループの予測は、精子がクルクルと回転しながら移動しているというものだった。ところが、実際には精子は尻尾を振っていたのだ。一方向にだけ。

 実は精子は対称的な作りをしておらず、尻尾はもともと片方に曲がっている。主執筆者のHermes Gadelha氏によれば、精子はこうした非対称性から対称性を作り出して泳いでいるのだという。

 自分自身の軸と中心点を中心に尻尾を一方向に回転させるのだ。だが、これだけではクルクルと同じところを回ってしまうだけで、前進することができない。そこで精子は頭部を尻尾とは逆方向に振り、コルク抜きのようならせん状の動きをする。

 Gadelha氏は、それを片腕だけで泳ぐ人にたとえている。

 片腕だけで泳げば、人の体は自然に円を描くように動く。まっすぐ進むためには、逆方向に回転することで、片腕であることによる非対称性を相殺しなければならないからだ。

 精子もこれと同じで、回転して非対称性を均一にならしている。しかし、顕微鏡で精子を真上から観察してみれば、まるで尻尾を左右に振っているように見えるだろう。


Human sperm rotates like a spinning top in 3D

生物に普遍的な構造か?

 人間の精子以外にもこのように泳ぐ生物はいる。たとえばマウスラットの精子がそうだし、緑藻綱のクラミドモナスもそうだ。こうした仲間は、非対称的な形状で非対称的な動きをする。

 Gadelha氏は、このことはさまざまな種で共通する普遍的な構造を示している可能性があると指摘する。ただし、それがもっとも効率的な泳ぎであるかどうかは分からないともいう。

 生物は最適化するよう進化してきたと考えられがちだが、そこにはさまざまな要因が絡んでいる。精子にしてみれば、ただ泳いで卵子を探せばいいわけではなく、化学的な手がかりを見つけねばならないし、さまざまな粘性にも対応できなければならない。

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image by:Polymaths-lab.com

不妊治療のヒントにも


 Gadelha氏によると、精子が泳ぐ方法について理解することは、不妊の治療に役立つかもしれないという。世界ではおよそ5000万組の夫婦が不妊であるとされている。そして不妊の2、3割が男性側の生物学的な要因によるものだ。

 精子が回転するという新しい知見が不妊治療にどのように役立つのか? 「それは次の章の出来事です」と同氏はコメントしている。

この研究は、『Science Advances』(7月31日付)に掲載された。

Human sperm uses asymmetric and anisotropic flagellar controls to regulate swimming symmetry and cell steering | Science Advances
https://advances.sciencemag.org/content/6/31/eaba5168.abstract
References:inverse / smithsonianmag/ written by hiroching / edited by parumo 全文をカラパイアで読む:
http://karapaia.com/archives/52293443.html
 

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