どのタクシードライバーにも得意な場所、不得意な場所があるが、都内を運転する以上、やはり避けては通れない場所が、銀座と歌舞伎町。行きたくなくとも必ずつれていかれる、都内でも一番といっていいほどの稼ぎ場所だが、そんな街に尻込みするドライバーがいるのも事実である。

◆稼げる場所の意外な落とし穴

 銀座は激戦区ではあるが、客単価もよく稼ぎ場であるのになぜ尻込みするのか?と思うかもしれない。ご存知の方もいるかもしれないが、夜の銀座にはタクシーにしかないルールがある。それが、銀座の“乗禁”地区。

 乗禁とは何? といえば乗車禁止の略である。

 平日(月~金)の22時25時(1時)までの間、銀座5丁目~8丁目では指定乗り場以外では乗客を乗せることはできないというルールである。たとえ乗り場以外で乗客の申し入れを断っても乗車拒否にはならない。

 たまに乗車拒否されたと文句を言う客もいるが、万が一乗せたら大変だ。タクシーセンターという東京のタクシー業界を統括する協会団体が違反者がいないかと常に目を光らせている。

 よく乗禁時間に銀座までの乗客を降ろすと銀座のルールを知ってか知らずか(乗り場まで行くのや並ぶのが面倒臭いという確信犯的な人もいる)同時に乗客が滑り込むように入ってくる事があるが、ここでドアを閉めたらアウト! 乗客を乗せたとみなされタクシーセンターの係員が一斉に駆け寄り囲まれて御用となる。

 側から見れば、その光景は摘発を受けた犯罪者そのものだ。乗禁違反を起こしたらペナルティーが課せられ、違反点数がたまると個人だけではなく、会社自体が乗禁時の銀座での営業ができなくなる。そういうこともあり、新人にはイの一番に銀座のルールを徹底的に叩き込む。また万が一違反を犯し、同僚に後ろ指刺される思いをしたくないドライバーは尻込みをしてしまう。

◆やはり尻込みする“眠らない街”

 そして、もう一つ尻込みする場所は新宿である。ドライバー同士のなかでは、「ヒマで乗せられなくなったら新宿に行け!」と言われるくらい新宿には必ず人がいる。そのなかでも歌舞伎町と新宿2丁目は24時間一切眠らない街である。

 乗り逃げや当たり屋などトラブル発生多発箇所といえば歌舞伎町。区役所通り、明治通りを突っ切るようなかたちで、よりディープな歌舞伎町へと導く花道通り。そんな危険を顧みないドライバーたちのタクシーで渋滞は激しい。

 間違って入り込んでしまったら、一方通行と相まってしばらくは抜けられない。変な輩を乗せたくないと慌てて回送にするタクシーもちらほらいる。トラブルゴメンだというドライバーたちには回避したい場所だ。

 新宿2丁目と言えば、これまた言わずと知れた日本一トランスジェンダーの街。ある日、若い男を乗せた時の話。普通、乗客は後部座席に乗るのがドライバーと乗客の暗黙の了解であるが、その咄嗟のことで男性は迷いなく助手席のドアを開け乗ってきた。断ることも出来ず、その男性とドライブするかたちとなった。目的地までの間、男の視線を感じ、それを無視しつづけながら運転した。短い距離で結局何もなかったが、正直ビビった。

 あるドライバーは、見るからにわかる中年男性に無線で呼ばれ、「迎車で来たものです」と言ったら、ドスの聞いた声で「ゲイ車だと!」と凄まれたらしい。こんな経験をしたら、その土地すべての人がそういう人と決めつけたり、思い込んだりしてしまいその場所に行けなくなるのも仕方のないことたが…。そう、タクシードライバーは思い込みの激しい人種である。

◆橋の入る地名は間違いやすい

 行き先を聞いての思い込みや勘違いというのもよくある話である。たとえば、葛飾区やその周辺の区を流しているとビックリする行き先を言う乗客に遭遇することが多々ある。

 その行き先とは「鎌倉」。何故、葛飾区近辺で鎌倉行きが多いのか? 鎌倉と葛飾区が友好都市なのか? それとも姉妹都市なのか? と考えを巡らせていたが、別に考えるほどのものではなかった。神奈川県の「鎌倉」ではなく、ただ葛飾区に「鎌倉」という地名があるだけの話。初めてこの地で「鎌倉」行きの乗客を乗せたドライバーは興奮しながらナビを入力し、取らぬ狸のなんとかやらだったであろう。

 このように、勘違いや聞き間違い、思い込みをしてしまう地名は他にもある。

シリーズでいうと

赤羽橋(東京都港区)と赤羽(東京都北区)
江戸川橋(東京都文京区)と江戸川(東京都江戸川区)
平塚橋(東京都品川区)と平塚(神奈川県平塚市)


 平塚橋と平塚を聞き間違えたら大変だ。

聞き間違えだと

竹橋・タケバシ(東京都千代田区)と竹芝・タケシバ(東京都港区)
千束・センゾク(東京都台東区)と千石・センゴク(東京都文京区)


 思い込みでいえば、上記の千束には洗足(東京都目黒区)、千石には千石(東京都江東区)に読み名が同じのもある。このように、寝ていた乗客が起きた時に「ここどこ?」と笑い話にならないこともよくある話だ。

 こんな強者のドライバーもいた。

 銀座の松屋と行き先を告げた乗客に対して、銀座に松屋はないと言い張ったらしい。そして、乗客に「吉野家の間違えではないですか?」と真顔で言って乗客に怒られたらしい。確かに銀座周辺には、牛丼屋チェーン店の松屋はない。松屋の斜め向かいに吉野家はある。ややこしい話であるが、決してネタではない。

 銀座の松屋といえば、ほとんどの人は百貨店の松屋をイメージするが、このドライバーはよほど腹を空かせていたのだろう。

二階堂運人】
物流ライターライター業の傍らタクシードライバーとして東京23区内を走り回り、さまざまな人との出会いの中から、世の中の動向や世間のつぶやきなど情報収集し発信する。また、最大手宅配会社に長年宅配ドライバーとして勤務した経験とネットワークを活かし、大手経済誌のWEB版などで宅配関連の記事も執筆する。タクシー・宅配業界の現場視点から、「物」・「人」・「運ぶ」・「届ける」をそれぞれハード(荷物・人)だけではなく、ソフト(心と気持ち)の面を中心に記事を執筆中。ブログ「吾は巷のインタビュアー!」