6月末、JR東日本のICカードSuicaの情報(ビッグデータ)が販売されるも、個人情報が売買されることへの非難が集中し、販売中止に至った事件。騒動の原因については、姉妹サイトビジネスジャーナルでも、すでに報じている(記事参照)。

 これまでにない強力なマーケティングツールとして期待だけが独り歩きしているビッグデータ。そもそも、現状ではどのような使い方をされているのか?

 ビッグデータは、住所・氏名・性別・電話番号などがわかる個人情報とは異なる。Suicaを例に挙げれば、改札を通過した駅の名前や日時や、Suicaで買い物した店、本人の性別や年齢は把握することはできるが、個々人の名前や住所まではひも付けされていない。

 つまり、ぼんやりとはわかるが、個人までを特定することはできないのだ。にもかかわらず、ビッグデータの利用は「新たなビジネスチャンス」として期待される半面で「個人情報が漏れるのではないか」というネガティブな気持ちを多くの人に抱かせている。

 その理由は、なんといってもビッグデータを利用して消費者に提供されるサービスが、なんとなく気持ち悪いからにほかならない。

 問題になったJR東日本では、すでにビッグデータを利用して顧客のニーズに合致した商品を開発したり、サービスの「改善」を行っている。例えば、駅構内で見かける最新型のタッチパネル式の自販機で飲み物を買おうとすると、おすすめ商品が表示されるのを見たことはないだろうか。この自販機センサーによって自動的に購入者の年齢層と性別を判断、それに気温や時間帯なども計算して、おすすめの商品を表示するというもの。これを導入したのがJR東日本の駅構内の自販機を扱うJR東日本ウォータビジネスだ。同社が、このサービスリリースするにあたって利用したのが、ビッグデータなのだ。

 ビッグデータを利用して、客によって提供するサービスを変える。そのサービスに熱心なのが、コンビニエンスストアだ。コンビニでは、ビッグデータを解析して、特定の年齢層の客には特定の商品のクーポンを渡す。売れ筋ではないが、特定の客層にはリピートされているので、仕入れを継続するなどの使い方をしているのである。

 要はビッグデータの利用とは、従来では時間も人手もかかる市場調査を、データを使って簡略かつ正確に行っているものと考えてよい。しかし、客の側に立てば「自分がどこかでした買い物の記録を勝手に利用されている」という気分は拭えない。「これがオススメですよ」と自販機が表示したり、見知らぬ店員にクーポンを渡されても、うれしくなるよりは「なんで俺のこと知ってるんだよ」と思う人も多いはずだ。膨大なデータを解析して、顧客のニーズに合ったものをとはいっても、実態は最大公約数のものを提供しているにすぎない。要は、余計なお世話なのである。ビッグデータを利用して、その日の株式市場の動向予測を提供しているサービスなどが象徴的だが、あくまで「おそらく、こうですよね? こうなりますよ」と曖昧な答えを示しているにすぎないのだ。

 結局、ビッグデータがもてはやされる背景は、誰もが自分や前の世代から受け継がれてきたカンや経験に基づく判断を避けようとしていることがある。ありていにいえば、誰もが「データの裏付け」を言い訳にして責任を取りたくないということだろう。

 ビッグデータを利用すれば、便利なこともあるかもしれない。でも、行き着く先は斬新なアイデアが皆無の猿真似合戦なんじゃないだろうか。
(文=昼間たかし