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現在は、現実空間でもソーシャルディスタンスを保ちながら、音楽イベントが開催されるようになった。後編となるこの記事では、前回に引き続き配信での取り組みを紹介しつつ、人同士の距離を取りながら行われる音楽イベントについて紹介していきたい。

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また記事の最後に、これまでさまざまな配信ライブの演出を手がけてきた真鍋大度(Rhizomatiks)、としくに(huez)へのインタビューも掲載。事例の紹介のみではなく、演出家側の意見も聞いた。

文 / 高岡謙太郎 ヘッダー写真 / MESが制作した東京・Contactの床のグラフィック (写真提供:MES)

見入ってしまうロケーションからの配信

まずは、配信機材の進歩によって、どこからでも配信できるようになった事例から。

室内にいるアーティストに向けてCG映像を合成するのではなく、景色のいい場所を背景にする配信も増えている。DJ機材がターンテーブルからCDJになったことによって、機材を手軽に持ち運べるようになり、へんぴな場所でもDJプレイができるようになった。また、広い屋外のほうがソーシャルディスタンスを保ちやすい。DJ機材だけでなく撮影方法も進化して、ドローンを用いた上空からの引きの画が撮影できるようになったのも現代ならではだろう。フランスのユニット・The Blazeはモンブラン山系の針峰・エギーユデュミディでライブを行った。その映像で借景の魅力を楽しんでもらいたい。

このThe Blazeの動画を配信しているYouTubeチャンネル「Cercle」では、絶景でプレイするDJの動画を多数公開中。「Cercle」ではパンデミック以前から、世界遺産的なロケーションに機材を運んでパフォーマンスを撮影し、ドローンを使った映像によって自然の魅力と共に音楽を届けている。

DJプレイを動画配信することが浸透したもとをたどると、約10年前にロンドンを本拠地とした音楽ライブ配信チャンネル「BOILER ROOM」ができたことが大きい。国内では配信スタジオ「DOMMUNE」が2010年に生まれ、屋内でのアーティストのパフォーマンスがリアルタイムで観られることは画期的だった。そこから屋外に移動するようになり、ロケーションに重きを置くようになってきたのが現在の潮流。それがパンデミック以降は一層増えている。

機材さえ設置できればどこでもパフォーマンスができるので、例えば優雅な川下りを鑑賞しながらのDJプレイが堪能できる動画もある。EDMのトップDJ、マーティン・ギャリックスや、ドイツのアンダーグラウンド系テクノDJユニット・Pan-Potは船上でDJプレイを敢行。両者を見比べてみるとカメラワークなど演出の違いが如実にあり、ロケーションや撮影スタッフが違うだけでだいぶ印象が変わる。

DJ大国のオランダの配信チャンネル「SLAM!」も、ロケーションに関してのチャレンジ精神に富んでいる。湖面にDJブースを建てての配信、無人のサッカースタジアムからの配信、路面電車の中からの配信など、ソーシャルディスタンスが確保できつつもテンションが上がる場所を開拓している。さらに配信イベント「PUSSY LOUNGE 2020」では観覧車に乗りながらDJするという、派手な試みが行われた。

オランダの音楽フェス「Sensation」の配信は、巨大な会場に大量に並べられた光る人形とムービングライトを並べて行われ、光の演出によって仮想の盛り上がりを作っている。

ドイツのテクノフェス「Awakenings Festival」もオンラインフェスを開催。広大なホールの真ん中でDJがプレイし、広い空間で栄える照明で煽るというのは、EDMとは違ったテクノらしいミニマルな演出だ。近年の配信で多く見受けられることだが、DJをスター的に扱って撮影せず、あえて会場のオブジェクトの一部のように扱うのが今ならではのアーティストとの距離感なのだろう。

ベースラインハウスDJのジョイライドは、もともとスポーツカーをフィーチャーしたMVを多く制作しているのもあって、このコロナの状況下になってジープの上でDJプレイをした。曲の展開によって、ヘッドライトや照明が光り、ライティングだけで飽きさせない動画となっている。

絶景とZoomの合わせ技もある。テックハウスを中心にしたスペインの人気パーティ「elrow」による配信「elrow SHOW」は、アントニ・ガウディが手がけた世界遺産カサ・バトリョから配信。もともと「elrow」がサーカスのような華やかな雰囲気のパーティなのもあって、DJが出演するZoomの窓とは別の窓にピエロやオーディエンスが登場したりと、このパーティならではの映像演出が施された。

国内では野外フェス「Rainbow Disco Club」が開催を中止した代わりとして、いち早くオンラインイベントを実施した。その際は会場になるはずだった静岡・東伊豆クロスカントリーコースでドローンでの空撮を行い、オーディエンス同士がコミュニケーションをできるようにZoomを使ったチャットなどが用意された。

インターネットによって会場を中継することも可能になり、地域の距離感も変化した。配信イベント「VirtuaRAW」では北海道から沖縄まで16カ所のクラブやライブハウスをつないで50組以上のアーティストのパフォーマンスを中継した。また「オンラインやついフェス」では、全国20カ所以上の会場の様子をLINE LIVEやニコニコ生放送などを含めたさまざまなプラットフォームから配信。さらに今後も、2016年から毎年東京の下北沢、新宿、渋谷で行われてきたライブサーキット「TOKYO CALLING」の新企画として、東京、大阪、名古屋、福岡、札幌など日本各地のライブハウスを使ったオンラインサーキットフェス「NIPPON CALLING 2020」の開催が予定されている。

一風変わった取り組みでは、バルセロナのリセウ・オペラハウスが、全席に配置された植物に向けて演奏するライブ配信を行った。公演はビジュアルアートのプロジェクトの一貫として、継続が予定されている。

アイドルグループ・CY8ERのワンマンライブは、学校の中を移動しながら、曲ごとにシチュエーションを変えてワンカットで撮影された。演出はTHINGS.とhuezが担当。無観客ライブは固定された客席を設ける必要がないため、ステージの存在に囚われずどこでもライブができるようになった。

ドネーションやアクティビズムとの連携

イベントに対する参加費の支払いも、観客が体験するコミュニケーションの1つ。配信ライブにおいてはPayPal、ZAIKO、Streaming+、PayPerView、ニコニコ生放送などを通じて入場料を払うことで閲覧可能になるサービスや、YouTubeやTwitchのように投げ銭(チップ)を払うシステムを盛り込んだサービスもある。

そして、募金活動や政治活動を目的としたオンラインパーティも増えてきた。デヴィッド・ゲッタはWHOなどを支援する資金を募るためにニューヨークでライブストリームパフォーマンス「United at Home - Fundraising Live from NYC」を実施。DJブースの前にはLEDディスプレイが置かれ、Zoomによって参加者の姿が映し出される。DJは配信中にオーディエンスの反応を見ることが難しいが、このようなセッティングによって対話が可能になっている。

ニューヨークのクラブ・Nowadaysによるオンラインイベント「Virtually Nowadays」は、クラブコミュニティへのドネーションに関する配信を行っていたが、最近はBlack lives Matterに関する配信を行い、デモ映像をDJプレイにかぶせていて時事性に対応した。アーカイブは、パトロンサイト「Patreon」に課金することで閲覧可能だ。また、ドイツのクラブシーンを支援するドネーションを含めた24時間オープンのバーチャルクラブ「United We Stream」や、Zoomによって開催されるクィア向けのナイトクラブ「Club Quarantine」など、失われた集まる場を補うように、さまざまな試みが取り組まれている。国内でも抗議活動を含めたDJイベント「Protest Rave」が定期的に開催され、安倍晋三首相のInstagramアカウントに直接抗議をしている。

配信自体を広告として見せ、新規のアプリのプロモーションを行う企業もいくつかある。ファストファッション小売業者のSHEINは、アプリ内でデジタルイベントを開催。このイベント内で展開された、ケイティ・ペリーとリル・ナズ・Xが音楽とファッションを組み合わせる「バーチャルショーケース」では、ライブ配信中に服を購入することができ、これは新しいマネタイズ手法と言えそうだ。人気が急上昇したビデオチャットアプリ・Housepartyにて行われたライブストリーミングイベント「In The House」には、ケイティ・ペリー、スヌープ・ドッグなど、40名を超える有名人が出演。配信の定着に乗じて、認知度を上げたい企業は多いはずだ。

ラジオやテレビのように

いつでも始められる手軽さもあって、定期開催する配信もある。Boogie Down ProductionsのDJ D-Niceは早い段階から定期的にInstagramで配信を行った結果、10万人が閲覧して話題となり、リアーナやジョー・バイデン前アメリカ副大統領までも引き寄せた。

チャーリーXCXはディプロ、リタ・オラなどと一緒に、パンデミックの影響で自主的に隔離生活をしている人のためのインスタライブ「Self-Isolation IG Livestream」を毎日行っていた。国内では、宇多田ヒカルがInstagramで「自宅隔離中のヒカルパイセンに聞け!」と題した生番組を1カ月限定で毎週日曜日に配信。KOHHがゲスト出演して話題になった。

ディプロはYouTubeチャンネルで毎週5つのDJセッションをプレイしていた。ライブではないが、マイリー・サイラスも月曜日から金曜日まで毎日Instagramで多数のゲストを招いて配信を行っている。また、ジル・スコットとエリカ・バドゥ、ネリーとリュダクリスなどによる、雑談を交えたラッパー同士のセッションが見られる。スマートフォンさえ持っていれば配信は可能になり、日常になった。

多くの配信は自宅から行われるが、一風変わったものもある。クエストラブによる仮想ディナーパーティ「Questlove's Potluck」では、彼が自宅のキッチンでお気に入りの料理や飲み物を調理する様子を公開。アーティストの私生活が垣間見れるのは、自宅待機が推奨されていたこのタイミングならではだろう。

Seihoは睡眠障害により眠れない夜を過ごす人々に向けた音楽番組「DESTINATION 最終目的地」シリーズを配信。それまでの音楽性とは異なる表現にも挑戦するようになった。

巨大なフェスは過去の開催を再放送するようになった。海外の「Download Festival」や国内の「SUMMER SONIC」などは貴重なアーカイブ映像を公開し、同じ時間に鑑賞するオーディエンスのコメントによって一体感を提供している。RadioheadはYouTubeチャンネルで毎晩コンサート動画をストリーミングし、同じようにMetallicaは毎週月曜に過去のライブ映像を公開。バンド編成のミュージシャンは集うことが困難ゆえに、過去のライブ映像を流すことをオンラインフェスと銘打って行う傾向がある。

視覚だけでなく音楽性へも影響

アーカイブ映像に頼らずに、現状の音源を聴いてもらいたいバンドも多い。そのため、このステイホームの環境で多くの人々がバンド演奏を同期させながらのリアルタイム配信に挑戦している。多くの場合、各メンバーがおのおのの家にいながらZoomを使って演奏を重ね合わせ、その動画がYouTubeなどを経由して配信されている。しかし、メンバーが一緒にステージ上にいて同じモニタースピーカーから音を聞いて演奏するライブハウスとは違って、自宅での演奏は通信環境によって再生までの速度が異なるため、どうしてもレイテンシー(遅延)の発生が避けられず、それによって音を鳴らすタイミングにズレが発生してしまう。

そんな中で、ニューヨークのライブハウス・The Jazz Galleryは定期的な配信を実施中。YouTubeでライブ配信を観たり、Zoomでのセッションに参加できたり、Zoomで音源を聴いて質疑応答に参加できるなど、さまざまな取り組みが行われている。ジャズに関する取り組みは「Billboard Japan」の記事が詳しいので、読んでもらいたい。

国内で挑戦的だった配信もある。LITEはメンバーそれぞれの自宅から生配信しながら演奏を合わせるのみならず、かつリアルタイムでVJを入れてリモートでセッションを実施。演奏のレイテンシーや、音と映像のシンクロの遅延を克服するためのノウハウがnoteに記載されているので詳細を読んでほしい。

LUCKY TAPESの高橋海が配信したソロライブも、作り込まれたアニメーションや映像エフェクトを効果的に使うことで、自宅で撮影しているとは思えないような演出となった。

また、リアルタイムの配信ではないが、1000人が同じ曲を演奏している映像を1つの動画に編集し、一緒にセッションしているように見せる企画「1000人ROCK WEB SESSION」が公開され話題になった。

飛沫感染を防止するためには、声援もコントロールされる。アイドルグループ・せのしすたぁの運営は、「観客がライブ中に声を出さなくても、手元のタブレットを操作すると、あらかじめ録音した声援が会場に大音量で響く」というシステムを開発した。

ただ、緊急事態宣言が終わったことにより、現状は少人数で集まることが可能になり、個々がステイホームをしながら配信するというよりは、演者のみが会場に集まって演奏を配信するという流れになってきている。

配信をまとめる取り組み

個々の配信を取りまとめるプラットフォームも、ブロードウェイの舞台などを有料配信するオンラインプラットフォーム「Broadway On Demand」や、韓国系のアーティスト中心の「V LIVE」など、ジャンルごとにさまざまなものが生まれている。ダンスミュージックに特化したオンラインプラットフォーム「DanceTelevision」では、DJプレイの映像を24時間配信中。アーティストが自宅などで手軽に有料配信を行い、インタラクティブなライブでアーティストに収益化を促す「Stageit」というプラットフォームもある。今後はコミュニティごとに入口となるサイトが生まれていくだろう。

新たなことに取り組んでいるのは配信のプラットフォームだけでなく、例えばエイベックスは所属アーティストの配信予定をまとめたカレンダーをWebで公開。海外のオンラインチケット発行プラットフォーム「Eventbrite」がオンラインイベント中心のサービスにシフトチェンジしており、Webマガジンでは音楽誌「Billboard」、シティガイド誌「Timeout」、クラブ情報誌「Resident Advisor」などがオンラインイベントの開催情報に関する記事を掲載している。

国内では、ライブ配信に関するポータルサイト「LIVE LOVERS」や、配信に特化した情報サイト「ライブ配信カレンダー」が新たに立ち上がり、音楽情報サイト「DIGLE」、フェス情報サイト「AndMore!」「Festival Life」ではオンラインフェスやイベントのリストを作っている。Webサイトだけでなく、ライブ配信情報をチェックできるiOSアプリ「TUNE」もリリースされ、情報収集の経路が整備されつつある。

現実のイベントが開催困難なので、オンラインイベントを紹介していく軌道修正は、前向きな判断だ。このようにオンラインでの取り組みは多様性にあふれ、まだまだ可能性に満ちている。現場でのイベントが再開しても定着していくことが考えられるだろう。

外出して体験する

現状、再び客を集めてイベントを開催することが少しずつ進められている状況だが、当面は予防策を取らずに開催すれば観客から感染者を出してしまうリスクが大きい。感染者を出さないようにするために、どういった策があるのか世界中の知恵を紹介していきたい。

アメリカでのロックダウン解除以降のコンサートについては「rockin'on」での記事に詳しく記されているが、海外の現場では距離を取る方法もいくつか出てきている。例えば、ダンスフロアをビニールテープで仕切る事例や、ダンスフロアの床に観客が移動できる範囲を線で描いた事例もある。

またそれらに呼応するかのように国内では、四星球が5000人規模の会場に80人だけ観客を入れ、床に貼り付けたフラフープの外に出ないように鑑賞するというスタンディングでの単独公演を敢行。

渋谷のクラブcontactでは、若手アーティストMESによるソーシャルディスタンスを保たせるグラフィックが床に描かれており、注意喚起を促しながらも遊び心を忘れない空間演出になっている。

車に乗ったままイベントに参加するドライブイン形式のクラブイベントも開催されている。筆者が最初に見かけたのは、オランダ国境のすぐ東にあるドイツの小さな町、シュットルフにあるクラブINDEX。5月上旬から毎週末に「AUTODISCO」と称したドライブイン形式のDJイベントが開かれている。盛り上がると客がクラクションを鳴らしたりと、ノリがよく楽しめる自由な雰囲気だ。しかし、運転手は飲酒ができないことや、イベント中ずっと同じ姿勢を続けなければいけないことが難点と言える。

ドライブンインのイベントはアメリカ・ラスベガスでも開催され、またドイツでは、農業用のトラクターが集ったドライブインイベントが行われた。

それらに影響受けてか、国内でも車の中でアンビエントを聴く「DRIVE IN AMBIENT」や、映画の上映イベントと一緒になった「CINEMATHEQUE -Drive-in Theater-」などが開催された。

一方イギリスでは、ロンドンやバーミンガムなど12カ所の会場で300台が集える「Utilita Live From The Drive-In」の開催が企画されていたが、感染拡大の抑止のために中止に。さらにThe Chainsmokersが出演する予定だったドライブインフェスに、ソーシャルディスタンスのガイドライン違反の疑いにより調査が入るなど、車を使ったイベントも法律などによって開催が厳しい状況になってきている。

また、ソーシャルディスタンスに特化した会場やイベントも生まれつつある。ロンドンでは、店内が社会的距離のガイドラインに準拠するように設計されたクラブもオープン。10月にローンチ予定のOne Night Recordsは、常にマスクを着用する必要があり、会場は換気が強化されているそうだ。オランダのホテルで開催される音楽とアートのイベント「No Art Hotel」では、120人収容可能なホテルで、30名ごとの入れ替え制でディナーショーを開催。来場者はそれぞれの客室でライブストリーミングを楽しんだ。国内では、入場組数を100組に限定したキャンプ・音楽・映画が楽しめるキャンプインイベント「CAMPus」が行われ、野外フェス「秘境祭」が400人限定で開催される予定。ベルギーの音楽フェス「Paradise City」は、いかだの上で実施され、観客同士が自然と距離を置くような空間設計になっている。

感染予防のための極端な例もある。まだ現実化はされていないが、ロサンゼルスのデザインチームはパンデミック中にパーティに行くためのウイルス防止用の上半身スーツ「Micrashell」を考案した。クラブ業界向けだけでなく、テック企業による電動式空気ろ過保護シールド「BioVYZR」や、デザインスタジオ・DesignLiberoによる防護服「Bubble Shield」も提案されている。しかし手軽さがないので、なかなか日常に浸透するまでは難しそうだ。

オンラインを含んだ演出を続けてきた、Rhizomatiks真鍋大度へのインタビュー

ビョーク、アルカ、スクエアプッシャー、OK Goなどとのコラボレーションや、国内ではPerfumeのライブ演出の技術サポートやサカナクションのライブ演出などを行い、自身もアーティスト・DJとして活動する、Rhizomatiksの真鍋大度。パンデミック以降は、この記事の前編で紹介したゲーム空間での表現だけでなく、さまざまな取り組みを行っていた。

彼は、緊急事態宣言が発令される少し前の4月3日からイベント「Staying TOKYO」を開催。毎回違う実験を同じ配信プラットフォームで行うということをコンセプトに、前半はRhizomatiksの齋藤精一がいろいろなゲストを呼んでディスカッションを行い、後半は真鍋が中心となってリモートでDJ / VJする仕組みを開発した。真鍋は当時について「ツアーやイベントがキャンセルになったから配信をやるといったような、準備していたものを配信の形態で発表するというモチベーションではありませんでした。単発のイベントをやるというよりも、毎回新しいアイデアを考えて違う実験を同じ配信プラットフォームで行うということを大事にしていました」と振り返った。

ほかにも彼は、バーチャルカメラのプラグインを簡単に扱うためのドライバやライブラリを開発するなどローレベルな開発から通信のプロトコル、TwitchのAPIの活用などいろいろなレイヤーで実験を行った。具体的には、2015年に死去したロシア人シンガーソングライター・オリガを、彼女と長年タッグを組んでいた菅野よう子のライブでよみがえらせるという試みや、コロナ渦で史上初のオンライン開催に踏み切った「パリメンズファッションウィーク」でファッションブランド・White Mountaineeringのオンラインショーの演出を行った。

「前者は菅野さんに聞いたオリガさんへの思いを忠実に映像にすることを念頭に制作しています。また後者も同様に、White Mountaineeringデザイナーの相澤陽介さんからいただいた洋服のコンセプトをどのように配信で見せるかということを、相澤さんと議論を重ねつつ、映像監督の清水憲一郎 (Pele)さんをはじめとしたチームで作り上げました」

このほか真鍋は、ムロツヨシ上田誠との「非同期テック部」という活動を通じ、自粛期間中にリモートでできる喜劇の制作も行った。ここで彼は多数の遠隔操作ツールを作り、ムロツヨシの自宅のカメラや照明、iPhoneなどをコントロールした。

配信中に視聴者を飽きさせないコツについては、配信の内容によって変わると真鍋は語る。

「『Staying TOKYO』は毎回3万人程度のユニークユーザーがいますが、長いときには5時間くらいやることもあるので、視聴者が飽きることは前提に考えています。僕のパートでは毎回実験している様子を覗き見してもらう感じでしょうか。”ながら聞き”をしてもらう、という感じではラジオの感覚に近いかもしれません。一方でWhite Mountaineeringは尺については慎重に議論しました。エンタメのライブとは違い、配信でランウェイを集中して観続けてもらうには10分程度がマックスかなと思い、構成しました。映像のアセット的にはヘッドマウント向けのVRコンテンツにも展開できたのですが、今回の鑑賞者で持っている人は少ないと考え通常のYouTube配信にしています」

アーティストのポテンシャルを高めるために意識したことがあるのか尋ねると、真鍋は「Rhizomatiksはプラットフォームビジネスをやっていないこともあり、フラットな状態でアーティストの方と話し合い一番いい形を見つけるという方法を取っています」と返答。「ライブに比べると未成熟な状態で作品を発表しなくてはならないので非常に苦しい状態ですし、配信プラットフォームや配信形態もたくさんあってどれにしたらいいのか判断するのは難しいと思います。さまざまな配信の形態やサービスをサーベイしながら一緒に考えていく感じですね」と述べた。

ほかの配信イベントで面白いと感じた演出が何かあったか聞くと、真鍋は「cluster(バーチャルSNS)やHubs(Firefoxで知られるMozillaが制作しているVRプラットフォーム)で行われている、ユーザー同士の予想を超えたオンラインならではのコミュニケーションが生まれているもの」と答え、具体例として「慶應義塾大学SFCによるオンライン七夕祭」「ニューヨーク大学ITPによるオンライン卒業制作展」を挙げた。昔からオンラインでのコミュニケーションに参加してきた真鍋にとって現在の状況は感慨深いものがあるという。

「僕はリアルタイムで『セカンドライフ』をやってゲームの中の土地を騙されて買った世代なのですが、今は同じようなことが行われつつもマイクやWebカメラを使って普通にコミュニケーションでき、当時できなかったことが確実に現実のものとなっていて感慨深いですね」

このパンデミック下の状況について「とにかく早くリアルスペースのライブに戻りたい」と語る真鍋。現在はRhizomatiksのソフトウェアエンジニア・花井裕也が中心となって、小さい声やささやき声を音声認識するマスク型デバイス「Messaging Mask」というものを開発中だ。これを装着すると音声がARやプロジェクションによってテキスト出力されるため、大きな声を出さずとも共感を増幅させることが可能となる。声を出したらダメ、騒いだらダメ、という状態のライブを少しでも楽しいものにするため、彼らは今、ソフトやデバイスで何ができるのかを考えている。

無観客配信ライブに観客がアバターとして参加するという取り組みはこのパンデミック下において増えているが、この試みは真鍋がPerfumeのライブで過去にも数多く行ってきたことだ。真鍋は今後、それを進化させた形で発表したいと考えているという。この状況によって彼は、これからも今までと違ったテクノロジーの使い方を見せてくれそうだ。

でんぱ組.incのオンラインライブなどを手がけたhuezとしくにインタビュー

レーザーや特殊照明などのインタラクティブテクノロジーでライブ演出をする会社、渋都市の取締役であり、ビジュアルアーティスト / 空間演出ユニットhuezのメンバーでもある、若手の演出家としくににも話を聞いた。

彼らが演出を手がけたのは、5月16日に行われたでんぱ組.incの無観客ライブ「THE FAMILY TOUR 2020 ONLINE」など(参照:でんぱ組.inc、オンラインライブでファンのコメントと1つに「奇跡みたいな時間をありがとう!」)。でんぱ組.incはライブハウスではなく録音スタジオでパフォーマンスを行ったが、Twitterのハッシュタグでつぶやかれたことを映像素材としてリアルタイムで表示したりしつつ、映像にエフェクトをかけて画面を彩ることでライブ感を出した。

また緊急事態宣言発令直前の4月3日に行われたCY8ERの無観客ライブでは、ワンカメでライブハウスのステージを撮影し、配信映像上にVJをかぶせるという演出を実施。フルカラーレーザーをカメラで映すと、肉眼で見るのとは違う映像上でしかできない表現が可能になるため、それに特化したレーザー演出を取り入れたという。

映像を飽きさせないように楽しませる工夫は何かあるのか聞くと、としくには「配信ライブはアーカイブが観られる前提で行われることが多いので、画面上の演出や実際の会場の照明などをあえて多めに入れたり、逆に異常に少なくしたりしています。実際にライブ会場で観ているものと画面上で見えるものは別物だからです」とのこと。有観客でのライブ以上に緩急を付けることで視聴者を楽しませているそうだ。

また、フロアに観客がいない状態でもアーティストのポテンシャルを高めるために、huezではライブ中にTwitterのハッシュタグなどが見えるような画面を作って観客との距離を縮めたり、カメラに慣れていないアーティストのために、どのカメラが今配信されているかがわかる機材を入れたりといった工夫をしているとのこと。こういった出演者への気遣いが、パフォーマンスをしやすくしているのだろう。

配信ライブの映像演出は、過度に作り込むと生配信である必然性を感じにくくなる危険を孕んでいる。これについてどのように向き合っているのかをとしくにに尋ねると「配信ライブ=生ライブの劣化版という認識をやめ、画面上でしかできない、ライブハウスではできないような演出を考える」と回答。さらに「“生配信”であることにはこだわらない」と答えた。

最後に今後の展開について聞くと、としくには「配信や家で観ることでしか味わえないような演出には常にチャレンジしていきたいなと思ってます」と意気込んだ。これからもhuezならではの演出が楽しめる機会は増えていきそうだ。

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ということで、2回にわたってパンデミック化のライブ表現の可能性について、新規性のある事例を紹介した。ほかにも、今しか生まれない新しい取り組みはまだあるはずだ。アーティストや映像作家にとっては、世界中に表現を知ってもらい自分を売り込むチャンスでもあるので、2020年ならではの表現が出てくることに今後も期待したい。

MESが制作した東京・Contactの床のグラフィック。 (写真提供:MES)