2020年上半期(1月~6月)、文春オンラインで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。新型コロナ部門の第2位は、こちら!(初公開日 2020年4月24日)。

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 新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、4月16日、政府は緊急事態宣言の対象区域を全国に広げた。感染状況の違いなどから「全国一律」の宣言に戸惑いの声もあがったが、この非常事態だからこそ、都道府県知事の発言や対応に注目が集まり、これまでになく一人ひとりのキャラクターリーダーとしての資質が明らかになる機会も増えた。

 4月上旬まで感染者ゼロが続き、その間も病床数の大幅な引き上げや、医療現場と切り離したPCR検査の導入、無観客公演・配信への助成などを決め、独自の新型コロナ対策を続けてきた鳥取県の平井伸治知事に話を聞いた。

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なぜ病床数を12→322へ増やせたか

――鳥取県では、新型コロナウイルス感染者がゼロのうちから様々な対策を講じ、県内初の感染が分かってからも、平井知事の記者会見での説明が「わかりやすい」とSNSでも話題になっていました。

平井伸治知事(以下、平井) 新型コロナウイルスが中国で注目を集め始めた頃から、大きな影響がいずれ来るかもしれない、先手を打つことができればと考えてきました。実は私たちにとって、2009年に流行した新型インフルエンザ対策が記憶に新しいんですね。当時、鳥取県内にも感染が広がりました。「これは始まると早いだろう」とにらんで、1月21日から新型コロナウイルス対策の組織を鳥取県庁に立ち上げました。新型インフルエンザの時、我々が取り組んだ感染症対策をベースにして考えていこうと。

 県内には高齢者の方が多く、基礎疾患を持つ方もいらっしゃる。そうした方々を抱えながら、病院の数は決して潤沢ではないんです。必要数はあると思うのですが、絶対数がやはり大都市よりは少ない。「よほど準備をしてかからないといけない」という危機感が当初からありました。

――新型コロナに感染した患者さんを受け入れることができる病床(感染症指定病床)数を12から3224月21日現在)まで引き上げることができたのは、なぜですか。

平井 日を追って感染が拡大していくなか、2月20日鳥取県医師会をはじめ医療関係者らとの対策会議に私も乗り込みまして。「これから医療体制をしっかり作らなければならない。医師会も協力していただきたい」「新型インフルエンザの時のように、院内感染対策をしっかりやりましょう」という2点のポイントをお伝えしました。

 正直、最初から上手くかみ合ったかは分かりません。「うちの病院に新型コロナの人をもってこないようにしてほしい」という率直な意見もあったようです。しかし、海外・日本の事例を見ても、無症状の感染者の方が多くいます。私から、「ここは病院側が万全の態勢をとって院内感染を防いでいくべきではないか」と申し上げました。

平井 ただ意見を言っているだけではしょうがないです。院内感染を防ぐためには防護措置も必要ですから、県から医療機関に、新型インフルエンザ流行を機に備蓄した約23万枚のマスクと消毒液を緊急放出しました。我々も医療機関を支えるぞ、ということを実際の行動で示していこうと。

 そういうなかで、ベッド数を増やしていきたいという話もしていたんですね。医師会や病院関係者、保健所の幹部などを回って、了解を取っていきました。病院のベッドを提供してもらうには、このフロアを空けてとか、動線をどうするかとか、調整が大変なんですね。当初の12床から約200床までに約1カ月かかりました。現在は322床です。各所との信頼関係のなかで、何とかそこまでいったんじゃないかなと思います。

初の県内感染「ついに来るべきものが来た」

――4月10日に、鳥取県内では1人目の感染が発表され、これまでに計3人の感染が分かっています(4月21日現在)。

平井 もう3カ月、準備をやってきたわけですよね。小さい県ですので、準備をしておかないとあっという間に突破されてしまうという危機感を持ち続けてきたことが、功を奏したと思います。先ほどもお話ししたように、徹底的に院内感染を防ぐため、小さな医院の場合は車で待機してもらってその中で、大きめの病院ではしっかり他の患者さんと動線を分けた上で、医療者が防護措置をして診察にあたっています。ありがたいことに、医師や看護師の方々は非常に協力的で、感染した患者さんが入院している病院関係者とも日々情報交換をしています。これは、大都市では難しいことかもしれません。

 店舗などへの休業要請については、鳥取県はまだその段階ではないと考えています。県民の皆さんには、いま一度気を引き締めて、できる限り外出を控えて冷静に行動してもらえるよう、呼びかけていきます。鳥取県の場合は、人より砂が多いと言われるくらいですから、人混みを避けるよりも2メートルの「ソーシャル・ディスタンス」を徹底してもらうことが大切です。うちは和牛が美味しいので、例えば「鳥取和牛1頭くらいの距離をとってください」という形で(笑)、ちょっと分かりやすく地域の方に伝える工夫が必要ではないかなと思っています。

――初の県内感染が確認された翌日、4月11日に平井知事は中海テレビ放送(鳥取県西部のケーブルテレビ局)に出演されていますよね。冒頭で「ついに来るべきものが来たなと思います」と話す様子は、YouTubeにもアップされました。

平井 実はもともと収録の予定は入っていたのですが、こういうことになり、私もばたばたと予定を切り替えて、県庁のある鳥取市と中海テレビのある米子市を夜のうちに往復して出演しました。私から呼びかける機会をいただけて、絶好のタイミングだったと思います。少し誤解されていまして、私はいつもだじゃればっかり言っていると思われているんですけれども(笑)、けっこう根は真面目に仕事をしているんですよ。

県庁では机の間に段ボールで仕切り

――鳥取県庁では、3月末に職員の机の間に段ボールフィルムシートで仕切りを作っていたというのもすごく気になるニュースでした。誰の発案だったんですか?

平井 あれはね、私です。役所では、新年度に向けて3月31日が年に一度の模様替えなんです。3月30日に人事担当の幹部を呼びまして、盛り上げるために「鳥取型オフィスシステム」と名付けて全庁に呼びかけました。

 職員はお互いに机を向かい合わせにして働いているので、飛沫感染などを考えると危険な環境ですよね。職員の命と健康が大事ですので、何かできないかと。保健師の職員にも相談して、感染防止のためにまずは様々な素材を使って机の間に仕切りを作ることにしました。段ボールに窓を作って顔が見えるようにしたり、サランラップアクリル板を使ったり(笑)。年度末に言い出したので各課予算がないですよね。だからその辺りに転がっているものを使いました。マスクを付けるだけではなく、色々な工夫ができたらいいですし、職員の意識も変わったと思いますね。

戦略は「疑わしきはPCR検査を」

――東京や大阪などとは感染状況の様子が違っていると思いますが、平井知事が構想されてきた鳥取県ならではの新型コロナ対策について、教えてください。

平井 鳥取県は独特の戦略で新型コロナに向かっています。まだ感染数は少ないです。ずっとゼロで続けてきました。これは、県民の皆さんにご協力いただいて、予防を一生懸命やってきたことの現れだと思っています。ウイルスは人との接触で感染が広がると考えますと、初動でどういう感染者の方がいるか突き止める、つまり早めに見つけて押さえる。これが鳥取県の考え方です。感染者がゼロの頃からどんどん病床数を増やしていきました。陽性患者の方3人に対して322ベッドです。まだ余裕はあります。

 時に専門家の方がおっしゃっていて、私たちとはちょっと事情が違うなと思うのが、「PCR検査で陽性が増えると医療崩壊を起こす」という意見です。鳥取県は「疑わしきはPCR検査をしたらいい」という態勢で臨んでいます。お医者さんが「これはちょっと怪しいね」と、検査が必要だと考えた場合は、全て検査対象にしましょうと。PCR検査の検体数はどんどん増えてきています。ローラーでPCR検査をしても、海外や県外に行っている方の場合は必ずしも感染ルートが特定できるわけではありませんが、いかにそこから先に広げないか。鳥取県は穴熊囲いの戦法ですね。しっかり守りを固めて、来るものはみんなで迎え撃とうと。

――PCR検査のドライブスルー方式と徒歩でも検査を受けられるウォークイン方式の導入については4月9日の会見で話されて、4月11日からという形で進んでいましたよね。

平井 病院の駐車場など、屋外に検体採取場を設けて、現場の負担軽減につなげることと、院内感染を防ぐこと。これが大きな目的です。この方式では、連続して検体を採取できるので1回ごとに防護服を着脱する手間も減ります。

 鳥取県では、新型インフルエンザ流行時の反省をふまえて、PCR検査を行う機械の台数を増やしていたんです。衛生環境研究所にもともとあった120検体に家畜保健衛生所から移転させた機械を合わせて180検体、さらに鳥取大学には県の補助で新たに機械を入れて16検体、合計で196検体を1日にさばけるというペースになっています。これは全国的にみても、人口規模からしますと突出して多いと思います。

コロナ対策で「政治の話をしてはいけない」

――新型コロナに関連して、安倍首相をはじめとする政府や、都道府県知事の記者会見の様子が連日報道されています。会見の場で、平井知事がわかりやすく伝えるために何か気をつけていることはありますか?

平井 新型コロナウイルス対策は、政治の話をしてはいけないんですよね。命と健康を守るために何をやるべきか、率直に、迅速に行動しないと解決しない。全国的にみると、どうも政治の世界に引き込まれすぎているのかな、と個人的には懸念しています。何かのパフォーマンスであってはいけない。

――東京五輪の延期を巡る動向や、政府の布マスク2枚配布、給付金の方針転換などに不信感を持っている人も多いと思います。

平井 本当に大切なのは、一体この事態をどうやって解決するか。今は国だとか県だとか、関係なく協力していくべき時ですよね。そして最もあってはならないのは、患者さんや医療機関に厳しい目が注がれるようなこと。少し政治とは距離を置きながら、現場をみんなで盛り立てて、協力しあう。そういうことがあっていいんじゃないかなと思います。

――知事として、言いにくいことを伝えなければならない局面もありますよね。例えば、鳥取県の1人目の感染者の方について、3月下旬に鳥取市が招いた外国人の砂像作家と一緒に飲食店を訪れていたことをあえて公表したのはなぜですか。

平井 この時は、記者会見で率直に特徴的な事実関係を申し上げました。鳥取市からは「市内の飲食店に行ったことだけを公表するべき」という申し入れもあったんですけれども、それでは飲食店への風評被害を生みかねないですし、外国人の方との接触については言わざるを得ないと考えました。事実を示しながら徹底調査することが大切だと。

 それからこれもちょっと物議を醸しましたけれども、都市部から地方への「コロナ疎開」は間違っていると私が申し上げたことがありました。「コロナが薄いから」という理由による転居や観光というのは間違った考え方だと。緊急事態宣言が出ていた地域の方々には外出自粛の要請がありまして、これは他県に行けばいいということでは決してなく、自粛の趣旨というのは「家におろうや」ということですよね。

コロナ疎開」の象徴、砂丘から人が消えた

――4月16日緊急事態宣言の発効が全国に広がって、変わったことはありますか。

平井 全国に危機意識の共有が広がったことはよかったと思います。鳥取県についていえば、砂丘から人がいなくなりました。「コロナ疎開」の象徴のように、実は連日テレビなどで取り上げられて、特に地元の方々は苦々しく思っておられたはずです。今は本当にいなくなりましたね。足が止まった効果はあったと思います。

 問題はこれからです。ゴールデンウィークの期間は最大のピンチであり、逆にいえば、最大のチャンスにもなります。感染拡大を防ぐために、県境をまたいで動かず、2週間にわたって人との接触を減らすことができれば、大きな成果を得られるのではないでしょうか。企業も休みになれば協力を仰ぎやすく、通勤時の接触を減らすこともできます。本当に必要な移動か考えてほしい。大切な人のために、帰省はやめましょうということは続けて呼びかけていきます。県民の皆さんもなるべく家に「おる」、県外に「出ん」ということで今年は「おる・出んウィーク」です(笑)

――平井知事は、全国知事会で新型ウイルス緊急対策本部の副本部長本部長代行を務められています。参考になる、発信力があると思う知事はいますか。

平井 皆さんそれぞれに頑張っていると思います。正直、非常に難しい時代を担当することになった私たちにとっては辛い時期です。大阪府の吉村(洋文)さんや和歌山県の仁坂(吉伸)さんのように合理的にものを考えておられる人たちの意見は、参考になりますね。近隣の知事とも頻繁に連絡を取り合っています。感染ルートが県境をまたいでいますから、今までにない知事同士のネットワークになっている。これは、コロナが変えたと思います。

「10万円」と「アフターコロナ

――ゴールデンウィークを前に、「アフターコロナ」が早くも議論されはじめています。新型コロナを経た後の時代のことを、平井知事はどのように捉えていますか。

平井 私は、まず持ちこたえることに1つポイントがあると思います。今、企業やお店にとって大切なのは、運転資金にも使えるような手元の資金を作っておかないといけないということです。鳥取県では、5年間無利子、10年間の保証料なしの制度融資(地域経済変動対策資金)を400億円に拡大します。そしてここは、金融機関が取り立てないということにしてもらわないといけません。今度融資を止めますよ、となればあっという間に店を閉めなくてはならなくなる。

 そこで3月には金融機関の関係各所へ「今は耐えるときなので、地元の企業、お店を支えていただくように」とお願いに行きました。金融機関もお客さんを失うことになりますから、私は同じ船に乗っていると思うんですね。どうにか持ちこたえることができれば、旅館を閉めていてもいずれ開けるという見通しが立ってくる。この“つなぎ”が大事で、我々もまさに今取り組んでいるところですね。

 テイクアウトなどを始める飲食店や、宿泊施設には一律10万円で助成を始めますが、これも応援の意味なんです。これで何とかなるわけではなくて、国からの200万円ないし100万円の持続化給付金や、県の制度融資と組み合わせてやっていただくことになると思います。地域みんなでがんばろうという気持ちをつくって、来たるべき夜明けを待つ。そういうことが、今一番大事だと思いますね。並ばなくてもマスクを購入できるよう、各家庭に1枚、マスク券の配布も検討しています。

 そしてもし復活してきた時には、観光のV字回復ができるように、今からソフトコンテンツや旅行商品を考えておく。そういった仕込みも始めています。国からの一律給付の10万円をもらった使い道として、例えば鳥取のコロナ対策を応援しようという方もいらっしゃるかもしれません。そういう場合は、ふるさと納税で特別の枠を作って受け入れさせていただく。将来鳥取へ来られる方には、観光施設の割引券などをふるさと納税のお礼にする。まだ見えない朝ですが、待っている間に今から始められることを。今はそのように考えています。

(「文春オンライン」編集部)

平井伸治鳥取県知事 ©時事通信社