累計発行部数555万部を突破する人気コミックを映画化した青春コメディぐらんぶる』(8月7日公開)で、“史上もっとも服を着ていない主人公”に抜てきされた俳優の竜星涼。映画冒頭から驚くほどの脱ぎっぷりで観る者をクギづけにするが、竜星は「夏の海を舞台にしたバディものだと聞いて、(1997年テレビドラマ)『ビーチボーイズ』みたいだなと思ったんです。それが…」とオファーを受けた当時を述懐し、「まさかここまで脱ぐことになるとは!」と楽しそうにニッコリ。“ほぼ全裸”で過ごした本作ならではの撮影秘話や、俳優としての転機までを語ってもらった。

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キラキラな大学生活を送るはずだった伊織(竜星)と耕平(犬飼貴丈)が、常識の通用しないぶっ飛んだダイビングサークル「ピーカブー」のメンバーに囲まれ、予想外の青春を送る姿を描く本作。主に衣装の面で、“映像化不可能”と言われてきたコミックの実写映画化に『ヒロイン失格』(15)や『前田建設ファンタジー営業部』(20)の英勉監督が挑んだ。

■「『ぐらんぶる』は、裸だからこそおもしろい!」

キャンパス内を全裸で爆走するオープニングにはじまり、“史上もっとも服を着ていない主人公”として奮闘することになった竜星。

オファーを受けた際には、原作を詳しくは知らなかったそうで、「ダイビングもので、夏の海を舞台にしたバディもの。なんだか、かっこいいじゃないですか!『ダイビングの映画なので、多少は脱ぐことになる』という話でしたが、バディものをやってみたかったですし、『ビーチボーイズ』みたいだな」と、かっこいい作品を思い浮かべたと話し、「ここまで脱ぐことになるとは。半分、だまされたような感じですね(笑)」とこぼしつつ、楽しそうな笑顔を見せる。

「ファンの方たちは、『ぐらんぶる』のどんな要素が好きなんだろう」と研究するために原作を手に取り、「この作品は裸にならないと成立しない」と実感したという。

「原作の漫画やアニメを観ると、裸の持つパワーやエネルギーって、すごいなということが感じられて。『裸だからこそ、おもしろいんだ』ということがひしひしと伝わってきた。『この作品は裸にならないと成立しない』と思ってからは、自然な流れで裸の撮影に向かいました」と覚悟した。実際、撮影に入ってみると本作ならではの苦労もあったようで、「草むらで寝っ転がるシーンがあって。洋服を着ない状態で草むらで行動すると、虫に刺されるんですよ。僕は見事に毛虫に刺されてしまって、服って大事だなと、布の大切さを痛感しました」と振り返っていた。

■「すさまじくカオスな現場でした。汗がしたたり、いろいろな匂いがして…」

伊織は、男だらけのダイビングサークルに半ば強制的に入部させられることになる役どころ。コメディ映画だけに、竜星は振り切った演技で、表情豊かに伊織を熱演している。演じる上では、「伊織はあらゆることに巻き込まれていく役どころなので、なにかを自分から“やろうとしない”ということを大事にしていました」と話す。

「エネルギーも高めで、あらゆるリアクションも必要な役ですが、それを敢えてやるのではなく、相手から出てくるエネルギーに対して、熱を返すことが大事だと思っていました」と実写映画として、血の通った演技を心がけたそう。

現場には、熱気にあふれる共演者陣が顔を揃えた。男だらけのダイビングサークルが舞台とあって、竜星は「本当に暑苦しいですよ。男性部員たちのダンスシーンは、すさまじくカオスな現場でした。汗がしたたり、いろいろな匂いがして」と大きな笑顔。

ダブル主演を務め、ともに“ほぼ全裸”となる役柄を演じた犬飼とは「いい意味で同志になれた」そうで、「彼はすごく礼儀正しい人で。お互いの役割を大事にしながら、仲良く伊織と耕平を演じ切ることができた」。さらに伊織のいとこ、千紗役として映画初出演を果たした与田祐希については、「与田さんでしか、できなかった千紗になっています。彼女のそのままの姿が見事に千紗として成立していた。現場ではみんなの妹のようなまぶしい存在でしたね!男だらけのシーンは、本当にむさくるしいんですよ。そんな現場に女性がパッと入ってくると、ものすごく華やぐ!」と声を弾ませる姿からも、いかに現場が楽しいものだったかが伝わる。

熱い撮影を仲間と乗り切った時間を「青春」と表現する。「撮影が行われたのは昨年ですが、昨年を超える夏には、そうそう出会えないんじゃないかと思っています。キャスト、スタッフのみんなで、かなり濃い時間を一緒に過ごしました。海に潜ったり、夜は花火をしたり、流れ星を見たり、“ザ・夏”という時間を過ごすことができて、久々に青春を味わった気がしています。大人になって、あれほどはっちゃけて、夏らしいことを全力でやれることもないですから。本当にいい思い出になりました」と充実感をにじませていた。

■「劇団☆新感線の舞台と『昭和元禄落語心中』で大きなものを得た」

2010年にドラマ「素直になれなくて」で俳優業をスタートさせた竜星。2013年の「獣電戦隊キョウリュウジャー」で桐生ダイゴキョウリュウレッド役を演じて注目を集め、NHK連続テレビ小説ひよっこ」、ドラマ「アンナチュラル」など、数々の作品で強い存在感を発揮してきた。27歳となった今年は、俳優デビュー10周年となるメモリアルイヤー。俳優道を歩むうえでは、「自分は俳優に向いているのだろうか」と悩むこともあったと告白する。

「僕はわりと飽き性なほうなので、作品ごとに現場が変わったり、日々、変化が起きたりする生活は自分に向いているなという確信はありました。ただ、自分が俳優に向いているのかという自信は、ずっとありませんでした」と吐露。自身にとって転機となった作品について、こう語る。

「『この世界で生きていきたい』と本気で思えるようになったのは、自分のなかで自信を得ることができた瞬間なんじゃないかと思います。僕にとっては、劇団☆新感線の舞台(『修羅天魔 ~髑髏城の七人 Season極』)が大きな転機となりました。ステキな俳優さんも、才能がある人もたくさんいるなかで、すばらしい先輩方に囲まれ、いろいろな方に『良かったよ』と声をかけていただけた舞台でした。こんなにすばらしい先輩方が『良かった』と思ってくれるなら、僕のやっていることも意味があるなと思えた。自分に自信が持てて初めて、新しいことに飛び込んだり、そのなかで輝いたりすることもできるはず。ほしかった自信のようなものを、その時にいただけました」。

また、落語にトライした2018年のドラマ「昭和元禄落語心中」の経験も「落語にはお芝居のすべてが入っているので、ものすごく挑戦のしがいがありました。お客さんの前でたくさんの演目をやったことも、力になっています」と糧となったといい、年齢と共にすばらしい出会いを重ね、俳優として成長を遂げてきた。

本作では潔く裸になって俳優魂を見せるなど、チャレンジ精神みなぎる姿もなんとも魅力的。竜星は「プロデューサーさんなど製作の方々が、僕にこの作品を持ちかけてくださったことが、なによりうれしい。僕ら俳優にとっては、求められるということは本当にありがたいこと。ここまでコミカルな役どころも演じたことがないですし、これまでのイメージにないものを作れることもうれしい」とキッパリ。“新しい世界に飛び込んで、初めて見える景色”を描く本作との相性も、バッチリだ。

取材・文/成田おり枝

竜星涼、『ぐらんぶる』を「『ビーチボーイズ』みたい」と勘違い!?/撮影/黒羽政士