鉄道の駅でよく見かけたのに、最近は目にする機会がめっきり減ったものとして、喫煙所や水飲み場、伝言板などがあります。世相を反映して消滅していったものたちですが、中には思わぬ形で復活した例もあります。

時代の流れの中で姿を消す喫煙所や水飲み場

かつては鉄道の駅で見かけたものの、最近、特に都市部ではめっきり見られなくなったものがいくつかあります。

たとえば喫煙所や灰皿は、2002(平成14)年に施行された健康増進法などに基づきJRや大手私鉄が行った禁煙化で、新幹線を除く都市部の駅から姿を消しました。かつてはホーム上で「喫煙所を除いて禁煙」といった放送もなされていましたが、そのスペースは現在、待合室として活用されているケースも多くあります。

同じく駅のホーム上にかつてあったものに水飲み場や冷水器が挙げられます。水飲み場の歴史は古く、かつて蒸気機関車が走っていたころ、煤煙で汚れた顔や手を洗うために設置されたのが始まりといわれています。

時代は下り冷水機能を備えたものも登場しましたが、ペットボトルなどに入った飲料水が普及したこともあり、水飲み場の需要は低下しました。今では設備の老朽化やいたずら防止の観点からも、都市部の駅ではほとんどが撤去されています。

コロナ禍で復活した東神奈川駅の伝言板

携帯電話などが普及するまで、多くの駅には伝言板がありました。待ち合わせ場所や時間などをそこに書き込み、人から人へ伝言をつなぐ役割を果たしていたのです。

前述の通り、通信機器が発達し誰しもがスマートフォンなどで連絡を取り合える現在、伝言板の需要はほとんどなくなりました。駅によってはポスターの貼り付け場所などとして残されている場合もありますが、いたずら防止の観点などからチョーク類は撤去されていることも多いようです。

しかし2020年4月、JR東神奈川駅横浜市神奈川区)に期間限定で伝言板が復活しました。政府が発出した緊急事態宣言の最中のことです。伝言板は観光ポスターなどがはがされた駅の壁に設置されました。

新型コロナウイルス感染拡大防止のため自粛生活が続く中、駅係員が、駅利用者が思いを自由に書き込み共有することで閉塞感が少しでも和らげばと考え、手作りしたものです。

ほかにも、おもに長距離列車が停車する駅ホーム上でかつて、駅弁を販売する「立ち売り」の姿が見られました。窓越しに乗客とやりとりする光景もあったようです。現在でも一部の駅や観光列車の運行に合わせて立ち売りが出ることがありますが、駅弁屋自体の廃業や車両性能の向上による停車時間の短縮、窓の開かない特急形車両が主流になったなどの要因で、ほぼ見かけなくなったものの一つです。

近鉄名古屋線・三岐鉄道三岐線の近鉄富田駅構内に置かれていた灰皿。2019年に駅構内は終日禁煙となっている(2018年7月、伊藤真悟撮影)。