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◆我々は野蛮人を目にした。中井徳太郎環境事務次官と石原宏高副大臣だ

 そもそも、官僚とは何か。公僕である。

 国民から預かった税金を管理するのが仕事である。政府を通じて予算を執行し、国民に尽くす。官僚は、常に控えめな存在だが、国を守る仕事に矜持を抱いてきたものだ。今でも少なからずの官僚が、そのような矜持を抱いているだろう。

 官僚は、国家権力の内、司法権と立法権以外のすべての権力を、実際に行使する。要するに、裁判をすることと法律を作ること以外のすべてが行政権力だ。現実に、日本の国会議員は行政官僚の助けを借りねば、法律も予算も作れない。いくら建前を唱えても、選挙の片手間に政治をやっている国会議員が、24時間365日その道一筋の仕事をやっている官僚に敵わないのはやむを得ない。

 ただし、官僚にはできない大きな仕事が一つある。官僚の監視だ。自分で自分を監視することはできない。だから、国民に対し強大な権力を行使する官僚を監視するのが、政治家の最も大事な仕事だ。選挙で選ばれた政治家が大臣として官庁に乗り込み、官僚を監視する。これが議院内閣制だ。

 官僚と政治家と国民は決して対立する存在ではないが、そこに権力が存在する限り必ず腐敗が生じる。だから絶えまない監視により腐敗を防がねば、国全体が危うくなる。

 選挙は、何の為に行われるのか。国民が自分たちの納めた税金の使い道を監視するためである。

 この考え方が最も徹底した国が、アメリカ合衆国である。米国は、銃を持って立ち上がった人民が力ずくで打ち立てた国だ。時のイギリス国王ジョージ3世が増税を命令したとき、植民地にすぎなかったアメリカの人々は「自分たちは議会に代表を送っていないのに、一方的な命令で増税を受け入れるつもりはない」と拒否し、遂には武力革命を起こして成立した国だ。今でもアメリカ人は、「Democracy with a gun」と誇る。「税金をとりたければ我々の意見を聞け! おかしな真似をすると銃殺する」がアメリカ民主主義なのだ。

 米国の建国の理念は「代表無ければ課税なし」である。この理念は、我が国でも受け継がれている。帝国憲法を制定する時に、伊藤博文は「文明国では納税の義務の代わりに選挙権を認め、民選議員が予算を決めねばならない」と考え、実際に条文に盛り込んだ。この部分は、現行憲法でも変わっていない。時代や洋の東西に関係なく、文明国の通義だからだ。

 ところが、だ。我々は野蛮人を目にした。中井徳太郎環境事務次官と石原宏高副大臣だ。

 7月22日、中井次官は就任会見で「炭素税」の必要性について言及した。自分が何をしでかしたかわかっているのか。

◆官僚は、税金の管理が仕事である。公の場で「税」のあり方について答弁するなど、明らかな暴走だ

 言ってしまえば、国民からしたら徴税は「権力によって正当化されたカツアゲ」にすぎないのだ。権力とて監視が行き届かず腐敗してしまえば、いくらでも悪用できる。官僚が暴走したときに政治家が止めなければ、国民はいくらでもカツアゲされてしまうのだ。

「カツアゲ」との表現を厳しすぎると思うなら、『聖書』でも読んでみよ。徴税人がどのような存在として扱われているか。暴力団と同等だ。

 どこの国でも徴税人とは似たようなものだから、人類は歴史を積み重ね、現代の文明国では「官僚とは国民に仕える僕(しもべ)」であるとの倫理が徹底されるのだ。

 それを官僚の側から「予算として使いたいから増税したい」と言い出すとは何事か。本年3月19日参議院財政金融委員会でNHKから国民を守る党の浜田聡議員から「どのような税が理想と考えているのか」との質疑があった。これに対して、矢野康治主税局長(現・主計局長)は以下の趣旨の答弁をしている。

「憲法上の三大義務である納税は租税法律主義、国権の最高機関である国会でお決めになられること。事務屋として、あるいは政府の一部として財務省主税局が口にするべきこと自体が僭越」

「まさに選出された代表者の間で、国民の総意で決めて頂くということにつきる」

「税に関しては価値観十人十色と言われる、どうしてもこれが正しいということはないと思う。そういう意味でも私ども事務方としては国民の皆様の考え方に幅広く耳を傾けて決めるべきこと」

 最後に矢野氏は、「我々の分際では」との表現まで使って、官僚として守るべき矩(のり)について答弁している。

 矢野氏はいくつかのメディアで「原理主義者」と指摘されるほどの、増税強硬派である。小泉内閣で課長だった時には、財政健全化を目指す立場から「景気回復は単純には歓迎できません」とまで言い切っている。だから単なる増税派を超える「増税原理主義者」と目されている。だが、超えてはならない一線は知っている。

 動画で残っているので確認してほしいが、浜田議員の質疑に対し、矢野氏は「それは答えてはならないので」と目が訴えている。官僚が、一言でも「税」のあり方について答えてはならない意味を、税の専門家として知っているからだ。

◆石原宏高環境副大臣がツイッターで愚かな発言を繰り返して炎上

 ところが中井次官はどうか。どういう了見か知らないが、「国民から炭素税を巻き上げる」と宣言した。一般にはほとんど報道されていないが、ここまで読んだ方なら、事の重大性を理解できよう。実際、ツイッターでは「#中井次官の免職を求めます」のハッシュタグで大炎上だ。

 これに石原宏高環境副大臣がツイッターで愚かな発言を繰り返して炎上にガソリンを注いでいる。

 曰く、
「即罷免は行き過ぎではないか」
「中井次官の発言は観測気球かもしれません」
「炭素税は環境庁の宿願です」
「宿願は温暖化対策の事です」
「炭素税をやりたいと言ったわけではないので次官は発言を撤回する必要はありません」

 ……この御方、ご自分が何を仰っているのか理解されていないようだ。

 繰り返すが、官僚が「税」について公の場で訴えること自体が、矩を超えているのだ。

 政治家も官僚も支配者ではない。何回選挙をやっても自民党が勝つので、何をやっても許されると勘違いしているのではないか。

 手始めに制裁を下す相手がいる。

 #中井次官の免職を求めます

写真朝日新聞

【倉山 満】
憲政史研究家 ’73年、香川県生まれ。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務め、’15年まで日本国憲法を教える。現在、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰し、大日本帝国憲法や日本近現代史、政治外交について積極的に言論活動を行っている。ベストセラーになった『嘘だらけシリーズ』など著書多数。最新著書に『13歳からの「くにまもり」

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就任会見で「炭素税」に触れ、炎上中の中井徳太郎環境事務次官 写真/朝日新聞社