例えば、「頭髪のツーブロック禁止」「靴下は白一色」など学校の「校則」の中には、理不尽で、世の中の多くの人から見ると、「なぜ、これが禁止されているのだろう?」と不思議に思うような、いわゆる「ブラック校則」が存在します。学校内の秩序を守るために、一定のルールは必要なのかもしれませんが、教師など学校側の都合のいいように校則が決められ、それを維持するためにブラック校則も変えられないでいるようにも思えます。

 そこで、子どもの声を取り入れることで、ブラック校則を変えることはできないのでしょうか。子どもの権利・法律問題に詳しい、佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

過去の校則を放置、トラブルへの恐怖…

Q.なぜ、学校は校則を決めることができるのですか。決めることができる、法的な根拠があるのですか。

佐藤さん「『学校は校則を決めることができる』などと定めた法律は存在せず、校則の法的根拠は、必ずしも明らかではありません。しかし、教育基本法には、学校での教育は『教育を受ける者が、“学校生活を営む上で必要な規律”を重んずる』ように行う旨を定めた条文があり(教育基本法6条2項)、校則の存在を前提にしているようにも読めます。

また、裁判においても、校則は『学校が独自に判断して定めるルール』であるとして、その存在を前提に、合理性などが判断されています。学校は集団生活を送る場なので、学校の秩序を維持し、子どもの安全を守るために、一定のルールが必要です。さらに、私立学校においては、建学の精神に基づく独自の校風と教育方針を具体化するものとして、校則を定める必要もあります。

こうした事情から、学校が校則を制定することは、法的にも社会的にも許容されているといえるでしょう」

Q.なぜ、「ブラック校則」が現在も変わることなく存在していると思われますか。

佐藤さん「昔から存在する校則を慣習として放置し、見直さなかったために残っているものも多くあるでしょう。その他に、集団生活を送る子どもを学校側が管理しやすくするためであったり、もめ事や事故を極端に恐れているためであったり、ということも考えられます。

学校によっては、社会的に一般的な髪形であっても『ポニーテールにすると、トラブルに巻き込まれる可能性が上がる』として禁止したり、『マフラーが絡まって事故につながるといけないから』と、冬でもマフラーを禁止したりするところがあるそうです。

さらに、保護者や地域からの声がブラック校則を残す原因になることもあるでしょう。『髪の色が明るい子がいるけれど、どうなっているんだ。風紀が乱れる』などと保護者や地域からクレームが入ると、校則を緩めるどころか、さらに厳しくしようとする動きにつながることがあります」

Q.子どもの声を取り入れることで、ブラック校則を変えることはできないのでしょうか。

佐藤さん「日本も批准している『子どもの権利条約』では、『子どもは、自分に関係のあることについて、自由に自分の意見を表す権利を持っていること、その意見は子どもの発達に応じて十分考慮されること』を定めています(子どもの権利条約12条)。まさに、校則は子ども自身の日々の学校生活に直接関わるものですので、子どもの意見を十分聞き、反映させるべき事柄だと思います。

しかし、現実は、子どもが『どうして禁止されているのですか』と尋ねても、学校側は『ルールだから守りなさい』と指導することが多いようです。校則は『上から与えられたもの』『すでに決まっていて変えられないもの』といった認識が広まっているのでしょう。

社会の変化や必要性に応じて、国会で法律の改正が行われるように、校則というルールも必要に応じて変えていくべきものです。ルールの合理性に疑問を抱くことは最初の一歩ですので、まず、子どもの『どうして駄目なのか』という声にしっかり耳を傾けてほしいと感じます」

Q.例えば、「ツーブロック禁止」という校則を、子どもが「おかしい」と感じて守らなかったとします。それに対して学校側が何らかの罰を与え、子どもが『その校則や罰は無効ではないか』と訴えたときには、現状の法律では勝てますか。あるいは、負けますか。

佐藤さん「裁判では、さまざまなことを総合的に考慮して判断されるので、裁判に勝つか、負けるかということを一概に言うことはできません。しかし、参考となる裁判例は存在します。

『男子は丸刈り』という校則を子どもが守らなかった事例で、裁判所は『校則自体は違法ではない』と判断しました。その理由の一つとして、『丸刈りの指導に従わなかったとしても、強制的に丸刈りにしてしまうとか、内申書の記載や学級委員の任命留保、あるいはクラブ活動参加の制限といった措置を予定していないこと』『丸刈り校則に違反した長髪の男子生徒に対して、処分はもとより直接の指導すら行われていないこと』を挙げています。

つまり、校則違反に対して制裁を加えた場合は、違法との判断がなされる可能性が十分あるということです。質問のケースでは、子どもがツーブロック禁止校則に違反し、学校側が何らかの罰を与えたということですから、学校が下した処分や、処分の根拠となっている校則が違法だと裁判所が判断する可能性はあるといえるでしょう」

Q.子どもや世の中の大多数の人が「おかしい」と思うような校則を変えるとき、どのようにして子どもの声を取り入れたらよいのでしょうか。

佐藤さん「先述したように、まず、子どもの側から、校則について『なぜ駄目なのか』といった疑問の声が出た場合、学校側がきちんと向き合うことが大切でしょう。そこで、『ルールだから守るしかないのだ』と指導してしまうと、子どもは『何を言っても無駄』『上から言われたら、何も考えず守るしかない』と諦めてしまうかもしれません。

今あるルールも、おかしければ、話し合いによって変えていけるのだということ、子どもは意見を表明する権利があるのだということを、子どもに伝えることが重要だと思います。子どもは大人が耳を傾けてくれれば、主体的に行動するものです。

子ども自ら、生徒会などを通して校則の問題点を指摘し、どう変えていくべきか意見を述べるようになり、そのうち、教師や保護者に対し、話し合いを求めてくるようになるかもしれません。その際は、大人の側も子どもたちとしっかり話し合い、意見交換をすることが大切です」

オトナンサー編集部

「靴下は白一色」という校則も…