情報のカタストロフ

質量・エネルギー・情報の等価性がもたらす「情報のカタストロフ」 / Pixabay

 物質の状態には、「固体」「液体」「気体」そして「プラズマ」の4つがある。だが、新しい研究によると、第5の状態が存在するのだという。しかも、それは下手をすると世界的な危機をもたらす危険があるのだそうだ。

 これまでも、第5の物質の状態に関しては様々な研究がなされてきたが、イギリス物理学者が主張するそれは「情報」のことである。

 『AIP Advances』(8月11日付)に掲載された研究によると、2245年までに情報の重さは地球の半分に匹敵するものになると予測される。それこそが質量・エネルギー・情報の等価性がもたらす「情報のカタストロフ」だという。

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情報の喪失と熱力学的エントロピーの上昇

 現代社会に欠かせないものとなったデジタル情報は0と1で構成されているが、そこに含まれる情報量の基本単位を「ビット」という。

 ポーツマス大学(イギリス)の物理学メルビン・ボプソン氏は、「ランダウアーの原理」に基づいて、このビットとエネルギーの関係を説明している。

 1961年にロルフ・ランダウアーが提唱したこの原理によれば、情報を消去するには、それに相当するエネルギーを消失させねばならない(すなわち1ビットが失われる時、熱力学エントロピーが1ビット分上昇する)。

 よって、ビットの生成と消去が多くなればなるほど、それに必要となるエネルギーも増大することになる。

ビットの生成と消去

Pixabay

人類は膨大な情報の流入に耐えられるのか?


 ボプソン氏によれば、これが大問題なのだという。なぜなら「デジタル情報の増加はまさに止まるところを知らない」からだ。

 IBMによると、今日、世界に存在するデータの9割が、ここ10年のうちに作られたものだ。

 現代社会が1日に作り出す情報は、じつに25億ギガバイトに達する。1バイトは8ビットなので、地球上で1日に生成される情報量は2 × 1019ビットに相当。年間では73垓ビットというよく分からない数になる。

 このような膨大な情報の生成は今後も増加する一方だろう。となると、はたして人類文明はそれだけの情報の流入に耐えられるのだろうかという疑問が浮かんでくる。

2170年、地球上のビット数は地球の原子の数に匹敵

 ボプソン氏が年間の増加率を5%、20%、50%と仮定して試算したところ、2170年までに生成される総ビット数は、地球の原子の数にも匹敵することが判明。しかも、それより少し早い今から130年後には、情報のためのエネルギーが、今日の地球上の電力消量費に達してしまっている。

 問題はエネルギーだけではない。ボプソン氏は、他のあらゆるタイプの物質と同様、情報もまたエネルギーから物質へと(あるいはその逆も)状態が転移できると仮定している。

 この仮定が正しいのだとすれば、膨大なデータを作り出すためのやはり膨大なエネルギーは、質量と等価であるということにもなる。そしてボプソン氏の推定によれば、2245年までに情報の質量は地球半個分と等しくなってしまうのだ。

膨大な情報量に人類は太刀打ちできるか?

iStock

物理学にもう1つの次元が加わる可能性


 「質量・エネルギー・情報の等価性」はあくまで仮説であって、実験的に確認されたものではない。それでもボプソン氏は、相対性理論やランダウアーの原理と同じく、それがいずれ証明されるだろうことについて自信をのぞかせている。

 そうなれば、物理学天文学などの分野にも大きな影響を与えることだろう。物理学にもう1つの次元を追加することになるからだ。

 なおボプソン氏は、これを情報のカタストロフと呼んでいるが、その響きとは裏腹に、必ずしも悪いことばかりとは言い切れないそうだ。

 なぜなら、それは科学技術によって人間を超えた人間、すなわちトランスヒューマニスト的な新しい進化形態を指し示しているからだ。

 情報に実体があるのならば、この情報化社会の行き着く先には何が待ち受けているのだろうか。

The information catastrophe: AIP Advances: Vol 10, No 8
https://aip.scitation.org/doi/10.1063/5.0019941

References:zmescience/ written by hiroching / edited by parumo

全文をカラパイアで読む:
http://karapaia.com/archives/52293668.html
 

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