8月12日、旧在韓日本大使館があった敷地を眺めるように座っている慰安婦像の隣で、正義記憶連帯(以下正義連)が主導する1452回水曜集会が開かれた。

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 同日の集会では、第8回日本軍慰安婦被害者をたたえる日を迎えて世界連帯集会も同時開催となっていたが、「世界連帯」という言葉がむなしいほど静かなものだった。この日の集会を、韓国メディアは「大規模集会」と表現したが、実際のところ現場には参加者よりむしろ取材陣のほうが多かった。同日の参加者は100人も至らない規模だった。

正義連と水曜集会に浴びせられる世間からの冷たい声

 集会への出席を予告し、イベントの目玉になるはずだった李容洙(イ・ヨンス)氏は、「洪水被害で全国民が苦しんでいる状況で(水曜集会が)行われるのは適切ではない」との理由で出席をキャンセル。議論の中心にいる尹美香(ユン・ミヒャン)議員も出席しなかった。

 代わりに同日の集会で最も目立ったのは、黄色いTシャツや青い朝鮮半島国旗が描かれたTシャツを着た中学生から大学生に至るまでの幼い学生たちだった。プラカードを手に集まった彼らの胸には「反日行動」という文字が刻まれていたが、手にしたプラカードに書かれたスローガンは「反日」だけではなかった。

「米国の妨害には解放で!」、「尹錫悦(検察総長)拘束、検察改革」、「言論改革」、「朝鮮日報の虚偽と裏切りの100年」などなど。

 反日に反米、検察や保守メディアに対する攻撃まで、正義連が主導する慰安婦運動のアイデンティティを代弁しているかのような掛け声が並べられていた。集会の演説でも、日本に対する激しい非難が続く中、慰安婦問題とはまったく関係のない韓国検察とマスコミを非難する内容までが叫ばれ、さまざまな主張をごちゃ混ぜにした印象だった。

「検察の強圧的な取り調べ態度、やりすぎの捜査など、到底理解できない捜査過程でも、召喚と質疑に最大限協力している」

「マルン(会計法人)は2019年の会計業務、税務業務、公示業務と2020年現在の財団(正義連)の会計管理の水準は、全般的に良好だと評価した」(イ・ナヨン理事長)

「正義連の運動行為は毀損されてはならない」(正義連「省察とビジョン会」の崔光基議員)

「メディアの誤報や歪曲報道が相次いだ『正義連事態』を見て、連帯と支持の声を出したかった。私はすべての市民がマスコミに一緒に質問しなければならないと思う。なぜ虚偽事実を流布し、なぜ歪曲報道をするのかと」

「正義連事態は韓国の言論問題の総合セット」(チョ・ソンヒ民主言論市民連合)

 たが、彼らの主張に対する韓国国民の反応は冷酷極まりなかった。集会のニュースを伝えた記事には、正義連と水曜集会についての否定的なコメントが殺到した。

<まだ水曜集会をやってしているのか? ずうずうしいやつら>

<正義連は代表性を失った。自主的に解散し、募金を回せ>

<検察は直ちに尹美香を召喚して取り調べろ>

<傷ついたお婆さんたちを利用して私腹ばかり肥やしている人たちこそが積弊だ>

検察は尹美香疑惑の解明に消極的?

 5月7日慰安婦被害者の李容秀氏が「尹美香にだまされた」「正義連に集まった寄付金は慰安婦被害者たちのために使用されてない」と暴露したことで、韓国社会では正義連と尹美香元理事長に対する不正疑惑が提起された。

 以後、尹氏が個人名義の口座で寄付金を受け取った事実、正義連の会計帳簿不良記録問題、安城の慰安婦の憩いの場の高価買い入れの疑惑などがメディアを通じて次々と浮かび上がり、検察も捜査に乗り出すしかなかった。しかし、捜査開始から3カ月が経った時点でも尹氏に対する召喚捜査は一度も行われず、メディアでは検察が捜査に消極的だという主張まで提起された。

 韓国の「朝鮮日報」は13日付の社説で、検察が尹氏の捜査に消極的なのは、文在寅ムン・ジェイン)政権の顔色をうかがうためだと批判した。

「尹議員の召喚日程さえ決めていない。今年の5月に告発状を提出して以来、ソウル西部地検の捜査チームは捜査する振りをしているだけだ。複雑な事件でもない。不正な会計を突き止めれば済むことだ。その間(捜査を渋っている間)、ソウル西部地検長は大邱(テグ)高検長へ昇進し、秋美愛(チュ・ミエ)法務長官の大学後輩である次長検事は検事長となって最高検公判送務部長に栄転した。政権の意向に沿って捜査を渋ったことに対する論功行賞ではないか」

「(捜査の気配がない理由は)尹美香議員が与党所属で、正義連が文政権の反日パートナーであるためとしか考えようがない」

ようやく尹美香議員の聴取を始めた検察だが・・・

 ところが、ちょうどこの13日の午後、尹氏に対する検察側の最初の召喚調査が行われた。尹氏は午後1時半ごろ、検察庁の地下駐車場を通じて検察に出頭し、14時間30分間の取り調べを受けた。市民団体から告発された横領や背任、寄付金品法違反の疑いに対する検察調査だった。韓国メディアによると、検察は近いうちに尹氏を起訴するかどうかを決める方針だという。

 3カ月間も韓国社会を騒がせた尹美香氏と正義連の疑惑に対する検察捜査は、朝鮮日報などが指摘している通り、遅々として進んでない。現在、文在寅政府の秋美愛法務長官は「検察人事権」を活用して、「検察ならし」に乗り出している。2度の人事異動で尹錫悦(ユン・ソクヨル)派の検事らを“皆殺し”にし、自分と志を共にする検事らを要職に昇進させた。これで政権関係者が絡んだ疑惑に対する検察捜査は現実的に不可能となり、尹氏に関するまともな捜査の実施も疑問視されるようになってしまった。

 検察出身の郭尚道(クァク・サンド)未来統合党議員は「これまで先延ばしにしていた検察の捜査は率直に信用できない」、「文在寅政権下ではうまく逃げ回っても次の政権での捜査が待っている」と、政権交代後の再捜査意志を明らかにした。

 ただし、今回の尹美香事態は、正義連が主導している慰安婦運動に対する強い反感を、韓国国民に植えつけた。

 14日、韓国政府が主管した「日本軍慰安婦被害者をたたえる日」の記念式典で、文大統領は映像メッセージを送り、「政府はおばあさんたちが“もう十分だ”と言うまで、おばあさんらが納得できる解決策を探る」と話した。日本に対する非難メッセージよりは、これからの慰安婦運動の「開放性と透明性」を強調し、正義連が主導してきた慰安婦問題に反感を持つ韓国国民に対するメッセージに重点を置いたのだ。

 こちらの式典には参加した李容洙氏も「水曜集会はあってはならない(なくすべき)」と繰り返して主張した。慰安婦被害者の批判によって存在価値を失ってしまった水曜集会は果たしていつまで続けられるだろうか。

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今年7月22日にソウルの日本大使館近くで開かれた「水曜集会」の様子。慰安婦像が抱えるボードに書かれた「1449」は1449回目の水曜集会の意(写真:YONHAP NEWS/アフロ)