その突飛なサブタイトルがSNS上で話題を集めた『がんばれいわ!!ロボコン ウララ~!恋する汁なしタンタンメン!!の巻』(公開中)。原作を「仮面ライダー」、「秘密戦隊ゴレンジャー」の漫画家、石ノ森章太郎が手がけ、昭和、平成にテレビ放送された特撮コメディシリーズが令和に復活した。

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それにしてもロボットが主人公の物語のはずなのに、なぜ”中華料理が恋をする”物語なのか?考察してみると、いまや日曜朝の国民的コンテンツとなった東映特撮の興味深い歴史と魅力が浮かび上がってくる。

■ご町内コメディ路線の先駆者「ロボコン

シリーズ第1作「がんばれ!!ロボコン」が誕生したのは「仮面ライダー」、「人造人間キカイダー」のような悪と戦う変身ヒーローが人気を博した1974年。戦うヒーローではなく、お手伝いロボットであるロボコン(声:山本圭子)は、ロボット学校の生徒として人間社会で貢献して、ガンツ先生(声:野田圭一)から100点満点の評価をもらえるよう、ごくごく普通の家庭に居候し奮闘する。ちなみに居候先の大山家のママ役を「サザエさん」のサザエ役の声優として知られる加藤みどりが演じていた。また、ロボットを”採点”する設定やガンツ先生の名称は後年、実写映画化もされたSF漫画「GANTZ」の元ネタになったとも言われている。

番組では毎回、ロボコンよかれと思ってお手伝いをするものの力加減が効かず器物損壊を繰り返し、早とちりで周囲に迷惑をかけてしまったりと失敗続き。それでもヘコたれず”ロボ根性”で前を向くロボコンの姿勢は笑いを誘いながらも親しみを抱かせる。ロボコンが人気を博したのには、その人柄ならぬ”ロボ柄”による部分も大きいだろう。

ロボコンがご町内で繰り広げるドタバタ劇は子どもたちの人気を獲得し、1974~77年に全118話放送というロングラン番組となった。「がんばれいわ!!~」のロボコン(声:斎藤千和)も家族経営の町中華「全中華」でお手伝い。そのがむしゃらさがきっかけで、中華料理を巡るエキセントリックな騒動を引き起こす。

擬人化ネタの原点は”不思議コメディ”シリーズ

劇中、出前を頼まれたロボコンがオカモチをブン回してしまい、タンタンメンの汁が飛び散ってしまう。その偶発的に生まれた”汁なしタンタンメン”の味を、依頼主のトルネード婆々(清水ミチコ)が絶賛。評判が拡散し注文ラッシュが起こるのだが、その汁なしタンタンメン(声:鈴村健一)が自我に目覚め、お手伝いロボットのロビン(土屋希乃)に恋してしまう。

中華料理が恋に落ちたり、ほかのメニューたちとケンカしたり、そのシュールで不思議なやりとりが笑いを誘う。実はこうした”中華料理擬人化”は、「仮面ライダー」や「スーパー戦隊」に先駆けて、同じく石ノ森の原作で1981~1993年まで日曜の朝に放送された、「ロボット8ちゃん」から始まる”東映不思議コメディ”シリーズではぐくまれたものである。

毎年様々なキャラクターがご町内で不思議な冒険を繰り広げた同シリーズ。なかでも『E.T.』(82)を彷彿させる宇宙生物が主人公の第3作「ペットントン」では、チャーハンとシューマイが愛し合い逃避行の末、婚約指輪の代わりにグリンピースを交換する「横浜チャーハン物語」が、翌年の「どきんちょ!ネムリン」では妖精のネムリンが営んでいた小さなお菓子屋で肉まんとアイスが死闘を繰り広げるエピソード「肉まん・アイス大戦争」が、それぞれ放送されている。

この両エピソードを執筆した脚本家の浦沢義雄は鈴木清順監督に師事し、監督の遺作『オペレッタ狸御殿』(05)でも脚本を執筆した才人。その手腕は令和の現在でも発揮され、人間を置いてきぼりにして暴走する中華料理×ロボットの不思議で前衛的なドラマに、大人も子どもも目が釘付けになるだろう。

■「ロボコン」がつないだ平成ライダーへのバトン

そんな今作の脚本家である浦沢と、監督の石田秀範は、1999~2000年に放送されたシリーズ第2作「燃えろ!!ロボコン」にもともに登板した歴戦のスタッフでもある。「燃えろ!!~」は前年まで放送された”メタルヒーロー”シリーズの後番組として始まった。これは以前より「ロボコン」の復活を望んでいた石ノ森が98年に亡くなったことと、「がんばれ!!~」がアジア各国で放送され人気を博していたことなどが背景にあったと言われ、本編ではデザインもほぼそのままの新生ロボコン(声:伊倉一恵)が活躍。女の子型ロボット”ロビーナ”を、デビュー間もない加藤夏希が愛らしく演じていた。

そして1年間放送された「燃えろ!!~」の後番組として始まったのが、同じく石ノ森原作の「仮面ライダークウガ」。「燃えろ!!~」の石田監督が続投し、オダギリジョーが主演した平成仮面ライダーシリーズの記念すべき第1作であり、「ロボコン」が”メタルヒーロー”シリーズから”平成ライダー”シリーズへと時代をつなぐ大きな転換点となった言っても過言ではないだろう。

ちなみに、現在放送がクライマックスを迎えている”令和ライダー”第1作「仮面ライダーゼロワン」は、人工知能(AI)搭載型の人型ロボット”ヒューマギア”の可能性を信じ、ともに手を取り合って平和に暮らせる世界の実現を夢見て戦う飛電或人/仮面ライダーゼロワン(高橋文哉)が主人公の物語。そんな或人がもしも番組の世界線を越えてロボコンと出会ったら…。優しい心を持ち、自らの意志で人間社会で役立とうと奮闘する姿にどう喜び、どんなケミストリーが起こるのだろうか(中華料理がしゃべる世界観にはあ然とするだろうけど)。

『がんばれいわ!!~』を見ながら、そんな妄想を膨らませた特撮ファンは多いはず。この復活をきっかけに夢の”令和ヒーロー”共演、そして”不思議コメディ”の遺伝子をも受け継いだ「ロボコン」ワールドのさらなる展開を期待せずにはいられない。

文/大場徹(トライワークス)

たまご型の真っ赤なボディに感情表現豊かな眼のロボコン/[c]石森プロ・東映