4月から放送されてきた第3回AbemaTVトーナメント8月22日(土)の決勝を残すだけになった。棋士3人の団体戦という画期的な試みで、12チーム36人が参加。予選を通過した8チームによる決勝トーナメントは7月から生放送されている。

 8月1日に放送されたチーム渡辺「所司一門」(渡辺明二冠、近藤誠也七段、石井健太郎六段)VSチーム三浦「ミレニアム」(三浦弘行九段、高野智史五段、本田奎五段)、8月8日に放送されたチーム永瀬「バナナ」(永瀬拓矢二冠、藤井聡太棋聖、増田康宏六段)VSチーム康光「レジェンド」(佐藤康光九段、谷川浩司九段、森内俊之九段)の準決勝2試合のスタジオにお邪魔して、各チームの棋士たちと、番組を支えた女流棋士や解説の棋士、ABEMA将棋チャンネルプロデューサーの声を取材した。

 前半は4チームの棋士の声を中心にレポートする。(段位や肩書は取材当時)

チームメンバーを応援しながら見るのは楽しい」

 生放送のため、出演者は2~3時間前にスタジオ入りする。ヘアメイクリハーサルの合間を縫って、少しずつ話を聞かせてもらった。

 各チーム予選を2試合こなし、決勝トーナメント1回戦を勝ち上がり準決勝が4戦目だ。チームで戦ってきて良かったことはどんなところだろうか。

 チーム渡辺「所司一門」の渡辺明二冠は「もともと同門で顔見知りのチームなので、仲は変わりません。これまで他人の作戦を考えたりすることなんてなかったけれど、このトーナメントでは一緒に作戦を考えます。お互いの棋風もわかってきましたね」と話すと、石井健太郎六段も「2人の考えることが少し分かるようになってきました」。

 チーム三浦「ミレニアム」の本田奎五段は、「普段、他の棋士の対局を見て盛り上がることはあるけど、自分には関係のないことではないですか。今回のようにチームメンバーを応援しながら見るのは楽しいです」。高野智史五段は「私は自分1人の対局よりも身が入りました」とチーム戦の良さを語る。

「渡辺リーダーに楽をさせてあげたいね」

 8月1日スタジオ入りの前には、チーム渡辺「所司一門」は少し早く集まって、ランチしながら作戦を練った。チーム三浦「ミレニアム」は前日に集まってフィッシャールールでの練習を重ね、終わったらリーダー三浦弘行九段のおごりで「モツ鍋」を囲み「明日は頑張りましょう」と決起会をしたという。

 団体戦はメンバーへの思いやりも大切。忙しいメンバーを気遣う声もあった。

 チーム康光「レジェンド」の森内俊之九段は「4~5月の外出自粛期間に自分の将棋を見つめ直したり、じっくり将棋の勉強を積むことができました。チームでは(49歳の)私が一番若いですし、リーダーの佐藤さん(康光九段)は日本将棋連盟会長として多忙なので負担をかけてはいけない。私がお力になれればと」と話す。予選からの個人通算成績を9勝2敗とし、チームを引っ張った。

 また「所司一門」のリーダー渡辺二冠も、名人戦棋聖戦王座戦挑戦者決定戦などが続き大変なスケジュールをこなした。「石井さんと『渡辺リーダーに楽をさせてあげたいね』と話していました」という近藤誠也七段は、本戦1回戦では石井六段ともに2勝0敗、準決勝では3勝0敗と、リーダーの負担を軽くする活躍だった。

将棋の格式とエンタメ性のバランスを考えながら

 対局席は白い石を敷き詰めた豪華なセットの中にある。石は合計2トンもあり、スタッフは床が抜けないよう少しずつ分けて運び10時間かけて敷き詰めた。壮大な音楽が流れ照明が当たる中、対局する棋士は通路をゆっくりと歩いていく。1回戦の第1試合、チーム康光「レジェンド」とチーム久保「振り飛車」戦のときは、照明や音楽を棋士ごとに変えるなどしていたが、第2試合からは照明を抑えめにし、音楽も統一した。

「将棋の格式とエンタメ性のバランスを考えながらやっています。テロップを立体的なARに変えたり、新しさもみせました。10%だけ今までの番組を超えるようなイメージでしょうか」とABEMA将棋チャンネルプロデューサーで、第3回AbemaTVトーナメントの制作現場を指揮する佐藤光輔さん(32)は話す。

 このような豪華なセットや演出については、非公式戦ながら「大きな舞台」「ありがたい」と前向きにとらえる声が多かった。

「将棋を指す前は緊張しますが、指し始めれば普段通りです」(「所司一門」石井六段)

「入場するところが映るのが目新しいなと思いました。入場時に煙が出ると聞いていたのですが、それがなくなって自分としてはちょっと安心しました(笑)」(「バナナ」藤井棋聖)

谷川九段は「大学生高校生の息子と一緒に見ています」

 対局の神聖さは重視し、入場の際はカメラを担いだスタッフが棋士の姿を追うが、対局が始まると退場。盤面を映す天井カメラと、それぞれの対局時計と対局姿を映す無人固定カメラに切り替わる。番組の音声は解説と聞き手に移し、対局場は対局者と記録係だけ、駒音と時計の音だけが響く静かな空間になる。

 第3回AbemaTVトーナメントは「棋士の素顔や、対局とは違った一面を見せることで、盤に向かう真剣な姿とのギャップもファンの方にとって面白いのではないか」と「レジェンド」の谷川浩司九段が語ったように、多くの棋士の素顔が伝わるところも評判だ。対局した棋士は人気の上昇や応援を実感したりはしているのだろうか。

7月23日の所司一門のミニイベントで『所司一門』チームTシャツ(東京将棋会館の売店や楽天ネットショップで販売中)を着た女性ファンが何人もいらして、応援の言葉もあり嬉しかったです」(近藤七段)

「外を歩いていて声をかけられたりはしません(笑)。7月に誕生日だったので、お手紙やプレゼントがいくつか送られてきて『公式戦とAbemaTVトーナメント頑張ってください』と書いてありました」(「ミレニアム」本田五段)

レジェンド」の3人には、ご家族がAbemaTVトーナメントを見ているかを聞いてみた。

「私が出ないときは、大学生高校生の息子と一緒に見ています。息子たちはあまり将棋は指さないのですが、盛り上がる番組を見て観る将的になってきました」(谷川九段)

「11歳と5歳の娘と一緒に夕食をとりながら見ています。たくさんの棋士が出演していて、渡辺さん(明二冠)とか(佐藤)天彦さん(九段)とかリーダーを覚えたり、今まであまり知らなかった将棋界に興味が出てきたようです」(佐藤九段)

「将棋が多少指せる中学生の息子も一緒に見ていて盛り上がっています。(谷川九段の弟子で『フォーカス+1』の)都成竜馬六段が好きです」(森内九段)

本戦のルールが決まったのは開始4週間前だった

 トーナメント戦の本戦のルールは予選収録時点では決まっておらず、佐藤プロデューサーと、3年前のABEMA将棋チャンネル発足時からアドバイザー的に関わり続けている野月浩貴八段、日本将棋連盟の理事でもある西尾明七段との間で話し合いを重ね、最初に全局のオーダーを一度に提出する案も上がった。

 1局ごとの作戦会議の盛り上がりや、多様なオーダーの組み合わせも期待できる「5勝先取。最大9局」「オーダーは1局ごとに決める」「1人3局まで」「決着までに全員が指す」という今回のルールが決まったのは、本戦トーナメントが開始される4週間前のことだった。

 対戦する2チームの作戦会議室は少し離れていて、その中間にオーダー部屋がある。チーム渡辺VSチーム三浦の準決勝では、チーム渡辺からオーダー会議。終わって司会にカメラが切り替わっている間に、チーム渡辺がオーダー部屋から出て、続いてチーム三浦のオーダー会議が行われた。入れ替えはスタッフの誘導で、両チームが顔を合わせることはない。

 再び司会にカメラが切り替わっている間にチームは作戦会議室へ移動。スタッフが、作戦会議室入口に、相手チームの次の対局相手が書かれたカードを掲げ、初めて相手のオーダーを知ったところで1分のタイマーがスタート。すべてが生放送。相手チームの声は聞こえず、作戦会議室にあるモニタースイッチもその間は切られているので、視聴者が見ているオーダー会議も相手チームは見られない。相手のオーダーを見てから自分のオーダーを決めたり、うっかり相手の作戦会議を見たりできないようにして公平にしている。

「あれは完全に素です。ノーカットとは思っていなくて」

 早指しで自分で時計を押すため、ジャケットを脱いで対局する棋士も何人かいた。最初から白い半そでシャツ姿だった「バナナ」の藤井聡太棋聖に聞いてみると「普段の対局で途中ジャケットを脱ぐこともあるのですが、今回は早指しなので、その数秒のロスをなくそうと思って」半そでシャツにしたという。ちなみに在学中の高校の制服とは違うそうだ。

 AbemaTVトーナメントの楽しみは、番組の生放送時だけではない。放送とほぼ同時進行で、対局ごとの切り取りビデオや、プレミアム会員限定の作戦会議室ビデオスタッフがどんどん作っていき、番組終了後にABEMAビデオ将棋ページから視聴できる。

 1回戦のチーム三浦「ミレニアム」VSチーム広瀬「大三元」戦で最終9回戦までもつれた三浦九段と広瀬章人八段の対局では、作戦会議室の高野五段と本田五段が応援して、三浦九段の勝利に「さすがすぎる!」と盛り上がる映像がプレミアム限定で公開されていた。「あれは完全に素です。ノーカットとは思っていなくて」(高野五段)とのことだった。他にも、作戦会議室内の無人固定カメラの存在を忘れてしまったかのようなリラックスした各チームビデオが公開されている。

 また、AbemaTVトーナメントの放送期間中に中継されたタイトル戦では、解説や聞き手がAbemaTVトーナメントについてトークで触れることも多かった。

「『王位戦が終わればそんなに忙しくない』という藤井棋聖の発言に、またVSを頼めそうだと永瀬拓矢二冠の目が光った」という「バナナ」の控え室でのエピソード王位戦中継で披露し、話題になった増田康宏六段は「特にチームの話をしてくれと頼まれているわけではありません。でも、そのために自分が呼ばれているのかなと思って話しています」。そして「……迷惑かもしれないのですが」と付け加えると、藤井棋聖は「いえいえ、そんな」とほほ笑んでいた。

レジェンドチームがここまで勝ち進むとは……」

 準決勝チーム永瀬「バナナ」VSチーム康光「レジェンド」を解説したのは、「レジェンド」の森内九段と同じ1970年まれの藤井猛九段だ。「本当に申し訳ないことを言うと、若い棋士がずっと有利に思えるこのルールで、レジェンドチームがここまで勝ち進むとは思ってなかった。びっくりしました。失礼ながら」と話す。

「昔はチェスクロック(今回も使われているデジタル式対局時計)なんてなくて、35年くらい前、奨励会にいた10代半ばごろに普及してきた。チェスクロックを初めて練習対局に使いだしたのが1歳上の佐藤さん(康光九段)や森内さんの世代。特に森内さんは10秒とか短い持ち時間の将棋をバシバシ指して鍛えていましたね」

 ダントツに平均年齢が高い「レジェンド」が勝ち進んできたことにはファンからも称賛の声が多くあがったが、準決勝の前に「レジェンド」の佐藤康光リーダーに「準決勝まで勝ち進んだことへの満足感はあるのか」聞いてみたところ、「いいえ、ここからです!」というきっぱりとした返事が返ってきた。

 チーム永瀬「バナナ」は、タイトルホルダー2人を擁し、優勝候補と言われているチームだ。しかし、ここまで来るのは簡単ではなかったと「バナナ」の3人は話す。特に予選のチーム広瀬「大三元」には苦戦し、予選は2位通過だった。

「『大三元』には途中1勝5敗と差を付けられ予選落ちが見えるピンチでした。力を合わせて乗り切ることができて、チームの仲が深まったと僕は思っています」(増田六段)

「あんなに精神的に追い込まれるピンチはなかなか経験できない。3人の棋士人生にとっても良い経験になったと思います」(永瀬二冠)

「予選では(広瀬八段に2連敗し)迷惑をかけてしまったので、2人が勝ってくれて非常に嬉しかったです」(藤井棋聖)

これほど敗者が惜しまれる棋戦があっただろうか

 8月1日の準決勝第1局では、2勝1敗と先行された「所司一門」がその後4連勝。決勝進出を決めた。

 そして、8月8日の準決勝第2局では3-0とリードした「バナナ」の圧勝かと思われたが、「レジェンド」が2勝を返し、ファン大盛り上がり。最後は藤井棋聖が勝って5-3とし「バナナ」が決勝進出を決めた。

 準決勝第2局の終了後、人気を集めていたチーム康光「レジェンド」のチームTwitterツイートを終了することが3人から発表されると「やめないで」のほか、「3人のここまでの戦いぶりを楽しませてもらった」というファンからの感謝もたくさん寄せられた。Twitter上には「レジェンド」がトーナメントを去ることを悲しむ声があふれた。

 本戦は1戦ごとに1チームが負けて姿を消していくノックアウトトーナメント方式。王座戦本戦、棋聖戦本戦など多くの棋戦で取り入れられている一般的な方式で、最後に勝ち残った1人が優勝者やタイトル挑戦者になる。第3回AbemaTVトーナメントでは1チームが姿を消すごとに、ファンはそのチームの対局がもう見られないことを嘆き、これまでの戦いに称賛を送っている。

 かつて、これほど1戦ごとに敗者が惜しまれる棋戦があっただろうか。チーム戦という特殊性や、作戦会議を見せたり、司会の女流棋士による頻繁なインタビューで棋士の人間性や関係性を見せるこの企画に、視聴者がはまっているようだ。

 放送終了後に、決勝進出を決めた両チームに数分ずつインタビューした。

8月1日チーム渡辺「所司一門」

――決勝ではどこに注目して見てもらいたいですか? チーム渡辺では、壁のホワイトボードにその日の対戦表と両チーム3人の残り局数を書いて作戦を練ってきたようですが。

 渡辺 これ、書いているのはうちのチームだけなのかな。

 近藤 うちのチームだけみたいです。

 渡辺 1局ごとに状況が変化するから絶対に書いたほうが分かりやすいと思うんだよね。(相手が確定してからの1分の作戦会議とは別に)うちらは1人が対局している間も、残った2人がこれからの展開を予想し、いろいろなパターンを考えて作戦を練っています。次はこういうオーダーが一番勝率が高いだろうというのをよく話し合って決めています。

――渡辺リーダーらしい緻密な作戦で決勝も戦うということですね。

 渡辺 相手の出方を見ながら臨機応変に。対局が進むうちにメンバーの調子も分かるので、それも勘案しながらオーダーを決めていこうと思います。

――決勝まで3週間あります。それまでに練習はしますか。

 近藤 集まったりはせず、これまで通り個人個人で練習です。僕は奨励会三段と練習するかも。あとは対策を練ります。

 石井 僕も対策は練ります。フィッシャーではないですが、ソフトと20秒将棋とか短い持ち時間で練習しようかと思っています。

 渡辺 作戦は練りますが、フィッシャーの練習はしないかな。あとは、相手が決まる準決勝第2試合は見たいです。この局面なら自分はこう指すと考えて、脳を鍛えようかと。

――準優勝以上で賞金が出るということで、お話しされていた通り、所司一門のグッズを作りますか? 優勝された場合は豪華になったりは?

 石井 全額使うわけでないから(笑)

 渡辺 扇子だとしたら、1本作るのに2000円くらい? いや、これから考えます(笑)

8月8日チーム永瀬「バナナ

――今日を振り返っていかがですか? 反省などはありますか。

 藤井 (2勝0敗の)増田さんは素晴らしかったです。

 増田 今回(ネット将棋の)将棋倶楽部24の早指しで10~15局くらい練習してきました。強い方もいるので。今日はその成果が出たかなと思います。

 藤井 今日は(自分は)将棋の内容的に練習が足りていないのかなと思ったので、決勝までに練習していい状態で臨みたいです。展開的にフィッシャーに向かないものもあるので、そういう展開にならないように。

――藤井棋聖は第1回、第2回のAbemaTVトーナメントで連覇していらっしゃいます。そのときは練習されたのですか。

 藤井 いや、してないです。運がよかったです。

 永瀬 実力ですね(笑)

――このチームの作戦会議室からはいつも明るい笑い声が漏れています。面白い話をしているのでしょうか。

 永瀬、藤井、増田 ははははは。

 永瀬 いや、建設的な話をしていると思います(笑)面白い話は特にないです。自分がおかしなことを言っているかもしれないけれど。

――チーム渡辺が勝ち上がった、先週の準決勝は見て研究はしますか?

 永瀬 見る時間があるかは分からないけれど要点だけでも。

 増田 「チーム渡辺」は3人とも戦型などがある程度分かっている相手なので。

――決勝ではどこに注目して見てもらいたいですか?

 増田 団体戦はオーダーの読み合いが大事。決勝ではそのあたりが見どころになるのではと思います。

 永瀬 集まったりはしませんけれど、当日は放送開始よりかなり早くここに集合なので、その時間を利用して作戦を練りたいです。

 さあ、初のチーム優勝に輝くのはどちらか。決勝戦は、8月22日(土)17時から放送される。

写真=杉山秀樹/文藝春秋

「家ではひたすら放送を流しています」解説と司会の棋士・女流棋士も盛り上げに本気だった へ続く

(宮田 聖子)

藤井聡太棋聖VS佐藤康光九段。対局は特設のセットで行われる