各地のアーティストが手探り状態でwithコロナ時代の施設のありかたを模索しているなか、アートコレクティブであり、ウルトラテクノロジスト集団としても活動するチームラボは、所沢市に「チームラどんぐりの森の呼応する生命」、福岡市に「チームラボフォレスト - SBI証券」など新たな展示を次々にオープン

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8月には、家のテレビがアートになる新作《フラワーズ ボミング ホーム》も発表するなど活発な活動を行っている。

このコロナ禍で、チームラボはどのような方向へ向かうのか、チームラボ代表・猪子寿之氏に話を聞いた。前編では、コロナウイルスクリエイティブの関係について伺う。

新作制作中に始まったコロナ禍

── このコロナ禍のなか、猪子さんはどのように過ごされていましたか?

猪子寿之(以下、猪子) マカオベネチアンマカオというリゾート施設にオープンした新しい常設展「teamLab SuperNature Macao」で新作《質量のない雲、生命と彫刻の間》の設営をしていました。

この作品は雲のような巨大な塊が空間の中ほどに浮遊していて、鑑賞者はその雲に身体ごと没入していくというもの。雲と自分の身体との境界が曖昧になる感覚を体験できる作品です。

今年の1月から4月にマカオでこの作品を制作していたのですが、その間に世界の状況がどんどん悪化していって。2月のオープン予定も6月まで延期されてしまいました。

── 外国でコロナ禍を体感するのは日本とはまた異なる体験でしたね。

猪子 マカオは観光都市なので、このような状態に陥ると街が無人化するんですよ。しかも、僕たちの常設展は新しく開発された地域なので、さらに人がいない。外を歩いていても全く人を見かけない状態が続き、孤独でしたね。

人類は、未知のウイルスでたくさんの人々が命を落とす経験を過去に何回か繰り返している。そのことを頭では理解してはいたのですが、自分の人生においては初めてのことですから、やはり恐怖を感じました。でも、作品で造った雲のなかにいるとき、ある種の安心感というか安堵を感じたんです。

天平時代、8世紀の奈良は唐の都を参考に、さまざま技術や制度を輸入してきた。いわばグローバル化ですね。ただ、その結果、天然痘が大流行してしまった。

そんな状況で聖武天皇は大仏を建立している。聖武天皇や、大仏建立を先導した行基の行動は「救い」を願ってのものでした。救いとは死や未知のものへの恐怖や不安を和らげること。その救いの力がアートにもあると、雲のなかで感じたのです。

── どのような点に救いを見出したのでしょうか?

猪子 空中に巨大な雲状の物質を浮かせているんですけれども、だいたい1時間か2時間で朽ちていくんです。生まれては死んで、朽ちて散っていく。これが延々と繰り返されていく、つまり輪廻ですね。

その繰り返しのなかにいると、人間にも輪廻があり、死後の世界があるかような気分になってくる。そのことが、死への恐怖を和らげるのではないかと。それが救いに繋がる。アジア的な考えではありますけど。

人類の長い歴史のなかで、死後の世界を人びとに考えさせるのは宗教の役割でした。科学というものは観測をして、そのなかから普遍的な法則を見つけていくものだから、死や死後の世界は描けない。だから、宗教がその役割を担う。宗教が死後の世界を描き、説くことにより、死という未知からくる恐怖を和らげてきた。

大仏が建立されたときも、きっと人びとの不安は和らいだと思うんですよ。この新型コロナウイルスが世界中に蔓延している状況において、人びとの恐怖を和らげることが、アートの側からできるんじゃないか、答えが出せるんじゃないかとマカオで気づいたんです。

── その救いの発見や、コロナの影響からチームラボのこれからのクリエイティブに変化は生じたりしていしますか?

猪子 基本的には全く変わっていません。むしろ基本に立ち戻って考えるようになりました。僕は以前から人間が世界に「境界」を作り出してしまうことに興味を持っていました。この「境界」をより強く意識するようになったんです。

僕は世界の「連続性」を非常に美しいものだと思っています。たとえば、宇宙と地球は本来は連続している。でも、人々が宇宙と地球という名前をつけて、それぞれを定義付けてしまうことで宇宙と地球の間にあるはずのない境界線ができてしまう。

色だって物理学上では名前もなく波長でしかない。人間が勝手に赤や青、緑と名前をつけてしまうことで認識や処理がしやすくなっている。

人間は愚かだから、境界を勝手に作っちゃうんです。名前をつけたり、区切りをつけることで、自分たちが認識可能なレベルに落とし込んでしまっているんですね。そして、コロナ禍は世の中の境界をよりいっそう際立たせてしまっているように思います。

分断を生む「境界」をアートの力で解消したい

「境界」のない世界を体感してもらいたい

── 国境や県境、家と外だけだけでなく、夜と昼など確かに、見えない境界線を突然意識する事象が増えてきています。

猪子 人類はこれまでも多くの問題に直面してきた。でもその分断を明確にすることで解決した例は一度もないと思っています。

現在、お台場の常設ミュージアムチームラボボーダレス」、豊洲に「チームラボプラネッツ」がありますが、どちらも境界のない世界を体感できるものです。チームラボボーダレスは世界そのものが連続しあっていることが美しいということ、チームラボプラネッツは世界と自分が連続しているということを体験してもらいたいと考えている。作品のなかで水や光のなかに入っていくのもそれが理由です。

にもかかわらず、時代は逆行していてる。コロナのために、人と人とのあいだに境界が生まれ、さらなる分断が生じている。そこで、いま問題になっている境界を、アートの力で解消していきたいと考えています。

── 先日発表した《フラワーズ ボミング ホーム》もその一環なんですね。

猪子 家で描いた花をアップロードすると、他の参加者の描いた花々と組み合わさって、YouTube Live上の動画で咲いていくという作品です。

たとえ、家に留まらざるを得ず、ほかの世界と断絶した状況になってしまったとしても、世界中とつながっているということを実感できると思います。知らない世界やだれかとつながっている、このことだけで祝福される世界と作品を作りたいと考えました。

ここ数ヶ月、人類は歴史上もっとも家の中にいたかもしれません。昔から疫病は蔓延していて、感染した人は隔離されたりしていたけど、amazonも宅配便もなかったから、生活のためにどうしても家から出ざるをえなかった。ここまで家にい続けることなんてできませんでしたからね。

── 《質量のない雲、生命と彫刻の間》も《フラワーズ ボミング ホーム》も、形体は異なれど、「境界」というテーマに沿ったもので、そして終わることなく続いていく作品なのですね。

猪子 ピカソは物事を多様な視点でみたほうが美しいと思って、一つの画面のなかで視点が異なる絵を描いた。カメラのように一点で見るより、多様な視点で物事をみたほうが美しいと。それと同じように、連続する美を造っていきたいなと考えています。

人間は無意識のうちに境界を作り、区別をしてしまい、連続性を断っている、withコロナの時代は特にそう感じます。これからも強い意志を持って、境界のない連続する世界の美しさを追求していきたい。マカオで発表した《質量のない雲、生命と彫刻の間》も、いずれはシリーズで発表できるといいですね。

プロフィール

チームラ

アートコレクティブ。ニューヨークロンドン、 パリ、 シンガポールシリコンバレー、 北京、 台北、 メルボルンなど世界各地で常設展およびアート展を開催。 東京·お台場に《地図のないミュージアム》「チームラボボーダレス」を開館。 2022年末まで東京·豊洲に《水に入るミュージアム》「チームラボ プラネッツ」開催中。 2019年上海·黄浦濱江に新ミュージアムteamLab Borderless Shanghai」を開館。 2020年6月にマカオに常設展「teamLab SuperNature Macao」オープン11月8日まで九州·武雄温泉·御船山楽園にて「チームラボ かみさまがすまう森」開催中。

チームラボ代表・猪子寿之 撮影:星野洋介