菅官房長官の異常な東京・沖縄批判

 菅義偉官房長官は、よほど東京の小池百合子知事や沖縄の玉城デニー知事が嫌いなようだ。7月11日北海道千歳市での講演で、「政府としては、全体を見ながら徹底してPCR検査をして、陽性の人を探すという攻めの姿勢で今対応しています。PCR検査も大幅に拡大をしています・・・。この問題は圧倒的に『東京問題』と言っても過言ではない」と語った。

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 この発言には、呆れた。おそらく国民の誰一人として、国が「攻めの姿勢」でPCR検査をしていると思っている人はいないだろう。日本医師会や、東京医師会がPCR検査をもっと増やすよう一貫して主張し、その取り組みを強める努力をしてきた。それでもいまだにPCR検査を待たされる事例が頻発している。これは国の取り組みが、PCR検査にあまりにも消極的だからだ。

 日本医師会の中川俊男会長は、8月5日、「新型コロナウイルス感染症の今後の感染拡大を見据えたPCR等検査体制の更なる拡大・充実のための緊急提言」を公表した。

 緊急提言は、7項目(1.保険適用によるPCR等検査の取り扱いの明確化 2.検体輸送体制の整備 3.PCR等検査に係る検査機器の配備 4.臨床検査技師の適切な配置 5.公的検査機関等の増設 6.PCR等検査受検者への対応体制の整備 7.医療計画への新興・再興感染症対策の追加)からなっている。

 中川会長は今回緊急提言を公表した背景について、PCR検査が進んでいない現状があることを挙げるとともに、「医師が必要であると認めた場合には、確実にPCR等検査及び抗原検査を実施できるよう緊急提言を取りまとめ、公表させてもらった。国に対しては財源を確保した上で、その実現に努めるよう強く求めていく」としている。

 菅官房長官が言うような「攻めの検査」などなされていないからだ。

「東京問題」という言い方も小池知事への敵意を感じてしまう。全国に緊急事態宣言を発したのは政府ではないか。これを解除したが、いま明らかに第2波に襲われている。この間、感染が急増してきたのは東京だけではない。神奈川や埼玉、愛知、大阪、福岡、沖縄なども多い。この現状をなぜ「圧倒的に東京問題」などと言えるのか。

 軽症者のためのホテル確保でも、東京や沖縄を批判している。これに対して沖縄の玉城デニー知事は、国から7月下旬までに医療提供体制を整備するよう通知を受け、「しっかりと7月末までにそろえると(国と)話し合いは進めていた」と説明している。

 沖縄の感染者数の増加は、菅官房長官が先頭に立って進めてきた「Go To トラベル」キャンペーンの影響も大きい。この責任こそ痛感したらどうか。しかもこのキャンペーンはさほどの経済効果を上げてはいない。国民の気持ちと合致していないからだ。嫌がらせのように「Go To トラベル」から東京を除外したが、除外されずとも多くの都民は利用しなかったはずだ。国民は、まだまだ感染を恐れているのだ。

自治体批判の前にやるべきことがある

 今回の新型コロナウイルス問題で頼りにならない政府に代わって、誰もが期待し、エールを送っているのが自治体首長だ。東京の小池百合子都知事、大阪の吉村洋文知事、北海道の鈴木直道知事、沖縄の玉城デニー知事らは、連日のように記者会見を行い、懸命に取り組みを説明してきた。不十分な点もあっただろう。だが、懸命に取り組むその姿勢に誰もが共感したはずだ。一方、安倍首相や菅官房長官、加藤勝信厚労相はもちろん、連日記者会見している西村康稔コロナ担当相にも、共感を寄せようがない。言っていることは「検討している」「しっかり取り組みたい」等々抽象的なことばかりで、具体策などを聞いたことがない。

 8月19日朝日新聞北海道の鈴木知事のインタビュー記事が掲載されている。

 北海道は、2月14日に最初の感染者が出たあと、全国に先行して感染が拡大した。それだけ苦労も多かったそうだ。2月28日に政府の専門家会議のメンバーから、「接触を控えるなどの対応を行えば感染を収束させられるが、対策をしなければ逆に急速に拡大しかねない」という助言があったそうだ。「ただし、接触を控えるためにどうすればいいのか具体策は示されて」いなかった。いまのように「3密」を避けるというような基準もなかった。そこで「外出を控えてくれ」という一番シンプルな呼びかけを行ったそうだ。

 学校の休校措置についても、影響が大きいので批判があればリコールを受ける覚悟もしていたという。

 鈴木知事は2月29日安倍首相と会って、「北海道のような感染状況がいずれ東京その他の地域に拡大するかもしれない。北海道を重点対策地域に指定して知見を全国で共有すべきです」と訴えたそうである。だが、「緊急事態宣言などの問題について全国的に対応をとっていこうというところまで、国はあの時点ではなっていませんでした」(鈴木知事)という。こういう認識だったから、中国からの入国禁止措置が遅れてしまったのだ。

 安全地帯に身を置いて、勝手な地方自体首長の批判を繰り返しているような政府首脳よりも、自治体首長の方がはるかに真剣に地域のため、住民のために力を注いでいるということだ。

 自治体批判を繰り返す前に、政府はみずからやるべき責任を果たせと言いたい。例えば、コロナ特措法である。自治体が事業者に休業を要請してもそれに見合う補償の規定がなく、強制力も伴わないことについて、全国知事会からも早急な改正要望が出されている。だが菅官房長官は補償について「最終的には必要」と述べたが、検討するのは事態の収束後だとしている。真剣に取り組もうという姿勢がまったく見えない。だからどの世論調査でも「政府の対応は不十分」となるのだ。

コロナ分科会は何をしているのか

 政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議(専門家会議)が解消され「新型コロナウイルス感染症対策分科会」なるものが設置されたが、いったい何をやっているのか、その役割がまったく見えてこない。

 たとえば分科会では、感染状況の4つのステージなるものを提示し、ステージ3では「病床のひっ迫具合」が「患者向けの全体の病床数か、重症者用の病床数について最大確保できる5分の1以上が埋まっているか、その時点で確保している4分の1以上が埋まっていること」「『入院患者と宿泊施設や自宅で療養している人の数』が10万人当たり15人以上」などの基準も示した。だが分科会の尾身茂会長は、「指標の数値は目安で機械的に判断するためのものではないことを強調したい。爆発的な感染拡大に至らず、今の段階のステージ2か、悪くてもステージ3で止められるよう、国や都道府県は早めに総合的に判断して対策をとってもらいたい」と言う。要するに最後は自治体まかせに過ぎないということだ。

 日本感染症学会の舘田一博理事長は8月19日に行った学会の講演で、「『第2波』のまっただ中にいる」と述べた。感染者数のグラフを見ても、素人目にも第2が来ていると思える。だが、同学会で講演したコロナ分科会の尾身会長は「第2波か第3波か分からないが」と述べた後、「東京や沖縄、大阪などでは医療機関への負荷が大きい状況が続いているが、今の流行は全国的にはだいたいピークに達したというのが私たちの読みだ」と語った。

「第2波か第3波か分からないが」とは、あまりにも無責任な発言ではないか。そんな人物に「ピークに達したというのが私たちの読みだ」と言われても信用することなどできない。現に分科会は7月末頃がピークだと言っているが、東京の感染者数は8月23日時点ですでに7月を上回っている。

 できるかどうか分からないワクチン提供の優先順位の議論など、分科会はいったいなにをしているのかと言いたい。

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