NTTドコモ8月25日に報道向けのオンライン記者会見を開催し、3月25日から提供を開始した5Gネットワークサービスの今後に向けた展開戦略を同社ネットワーク部 技術企画担当部長の中南直樹氏が説明した。

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 国内大手通信キャリア3社が5Gネットワークサービスを立ち上げた2020年春、同時に世界に新型コロナウィルスの感染が拡大した。NTTドコモの5Gネットワークの展開戦略にもコロナ禍の影響が少なからず及んだものと思われていたが、中南氏は記者からの質問に対して「春先に一部対応できない所もあったが、現在は十分に対策を取れる体制を整えた。5Gネットワークの基地局建設も計画通りに進んでいる」と回答した。

 同社の5Gネットワーク基地局は2020年3月末のサービス開始時点では国内150か所に500局を開設。6月末には47都道府県にエリアを拡大した。さらに次のマイルストーンとして2021年3月末までに全政令指定都市を含む500都市の5Gエリア化を見据える。2023年度中に全国基盤展開率97%を掲げる目標を見直す必要は今のところないようだ。

 NTTドコモでは総務省から割り当てを受けた帯域幅100MHzのSub-6を3.7GHz帯と4.5GHz帯、400MHz幅のミリ波と呼ばれる28GHz帯で、それぞれに「高速・大容量」「低遅延」「多数端末同時接続」の3つの特徴を活かした5Gネットワークサービスとして提供する。

 総務省では、今後国内で5Gの普及拡大を推進するために現在の4G周波数の一部を5Gに転用できる省令等改正を行った。NTTドコモの中南氏は、5Gのカバーエリアが広がることがサービスの普及を推し進める可能性を認めつつ、有効な技術の検討を前向きに進めていく考えを示した。だが一方では5Gに転用した周波数のスペックはあくまで4Gの限界を超えるものではないことから「5Gほどの高速大容量は実現不可」であるとも釘を刺した。

 4G周波数の一部5G転用が実現できた場合も、高速大容量通信に対応できる「新周波数による5G」と、4Gと同等スペックの5Gを明確に区別できるようにするため、通信キャリアはエリアマップなどをユーザーに提供して周知を図るべきだとも中南氏は主張する。

 その理由は「4G周波数による5Gエリア」で通信を行ったユーザーが期待通りの体験を得られないとなれば、優良誤認につながる懸念もあるからだ。4G周波数の一部5G転用を実際に行った場合、既存の4Gユーザーが利用する端末のスループットがおよそ数十パーセントも低下する可能性もあるという。

 以上の検討課題を踏まえた上で、「NTTドコモでは5G新周波数帯域で高速大容量通信が体験できることの価値をアピールしていきたい。またその実現のために前倒しで積極的に準備をすすめていく」と中南氏は力を込めて語った。

 中南氏は5Gネットワークの特徴である「低遅延」を実現するためには、基地局とユーザーの端末間の無線接続を5G化した上で、さらにスマホからコンテンツサーバー間の有線ネットワーク構成を見直すことも必要」であると述べている。そのためにサーバーをできる限り基地局の近くに配置して遅延を短くするMEC(マルチアクセスエッジコンピューティング)のコンセプトに立ったインフラ整備も推し進めていくとした。

 NTTドコモでは今後、5Gのコアネットワーク(5GC)装置を導入した「SA=スタンドアローン型」の5Gネットワークサービスの導入に向けた準備を本格的に進めていく。具体的なサービスの導入開始時期について「2021年度中」を目指すことについても中南氏が公にコメントしている。

 5GCの導入が実現すると、大容量と低遅延の特徴を活かしたサービスが、端末やアプリの垣根を越えてシームレスに提供できるようにもなるという。NTTドコモの多面的な取り組みが日本国内の本格的な5Gネットワークサービスを勢いづけるのか、今後も注目したい。(フリーライター・山本敦)

NTTドコモが今後の5G展開戦略を発表