狂おしいほどの愛に溢れたアニソンカバーアルバムが誕生した。8月26日にリリースされるガールズメタルバンド・Mary’s Blood(メアリーブラッド)による『Re>Animator』だ。結成10年を超えた彼女たちのキャリア史上、初のカバーアルバムはメンバー自ら選曲した11曲のアニソン。誰もが知る名曲から、その難度ゆえに前人未到だった曲、さらにはオリジナルシンガーとのコラボまで充実の内容。コアなアニメファンでもあるメンバー自身が原曲リスペクトに満ちたアレンジを行い、熱のこもった歌唱とテクニカルかつアグレッシヴな演奏で仕上げた。この微に入り細を穿つ本作の作り込みについて、メンバーのEYE(vo)、SAKI(g)に聞いた。

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アルバム2枚分のアレンジを込めて作り上げた1曲とは?
――「リスアニ!」への初登場ということで、まずはMary’s Bloodの自己紹介をお願いいたします。

EYE 簡単に言うと、うるさいバンドです!(笑)。メタルを軸にキャッチーなメロディ作りを意識していて、ライブがとても盛り上がるので、フェスなどで盛り上がるアニソンファンの方たちにも親和性を持って聴いていただける音楽性だと思います。

SAKI 私たち自身もライブでアニソンの力を感じた経験でお話しますと、2013年にテキサスで開催された“ANIME MATSURI”というフェスに呼んでいただいたことがありました。そのときのお客さんのテンションがもう、ものすごくて、みんな日本語で大合唱していて、私たちが歌う必要がないくらいでした(笑)。

――その際にはどんな曲を?

SAKI 自分たちが好きなアニソンを演奏することができたので、「残酷な天使のテーゼ」と、今回のカバーアルバムにも入れた「ペガサス幻想」(TVアニメ『聖闘士星矢』OPテーマ)を演奏しました。

EYE アニソンのカバーは2年前から私たちのハロウィンライブの際にも行っていて、2018年は『コネクト』(TVアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』OPテーマ)を、去年は「Don’t say “lazy”」(TVアニメ『けいおん!』EDテーマ)を演りました。私はコスプレイヤーでもあるので、そのときはサポートメンバーも含めて5人全員でコスプレをしてステージに立ったんです。

――担当パート揃いで?

EYE いえ。そこはコスプレイヤー魂として、中身が似ている人をきちんと演じたいと思って(笑)。例えばドラマーのMARIはちょっとおっとり目なので、ムギ(琴吹紬)ちゃんかなというように、見た目的にはちょっとチグハグな放課後ティータイムになりました(笑)。で、その準備をしているときにレコード会社の方から「アニメ好きなんだったらカバーをやってみない?」というお話があったんです。で、私たちもガチなので、そこで「万人受けする曲ばかり選ぶのは嫌ですからね!」と言ったりして(笑)。メンバーそれぞれ意見を出し合って曲を決めていきました。

SAKI 選曲としては、まずはバンドが演っているアニソンでそれぞれ好きな曲を選ぼうというところから始めていきました。私は聖飢魔IIの「信者」なので、「荒涼たる新世界」(TVアニメ『テラフォーマーズ リベンジ』OPテーマ)を。これ、「虚空の迷宮」(TVアニメ『MAZE☆爆熱時空』OPテーマ)と迷ったんですけど。ベースのRIOちゃんは「unravel」(TVアニメ『東京喰種 トーキョーグール』OPテーマ)と「INVOKE」(TVアニメ『機動戦士ガンダムSEED』OPテーマ)を。MARIちゃんはX JAPANをリスペクトしているので「Forever Love」(映画『X』主題歌)を絶対に演りたいと言って、そうやって決めていった感じです。『まどマギ』は先ほどのフェスの前に私がハマってRIOちゃんに薦めて、その後バンド内に伝染していった感じですね。「MAGIA」は一昨年のライブでもおどろおどろしさを演出するためにSEとして使って、リフも格好いいので今回入れてみようと。歌モノアニメからは水樹奈々さんの「Exterminate」(TVアニメ『戦姫絶唱シンフォギアGX』OPテーマ)を選ばせてもらいました。

EYE 「Exterminate」はこれまでカバーされている方がいらっしゃらなかったそうなんです。実際に歌ってみたらもう、息継ぎが足りなくて、「奈々様は何であんなに余裕で歌われているのだろう?」と思いました。上松(範康)さんの曲も、最近になればなるほど息継ぎの場所が減っているし、レンジも広がっている。カバーという形を通じて、あのお二人の“戦い”を実感しましたね(笑)。

――メタルバンドから見て、上松さんの曲を演奏するうえでの難しさはどんなところに?

SAKI まず、転調の多さに驚きました。「Exterminate」はその最たるもので、しかもアニメの劇中にも流れるから、一般的なバンドの曲ではしないような転調や盛り上がり方をするんです。そういう点においてもでも演奏するのが難しかったですね。

EYE 覚えるのが大変という意味ではプログレに近い。そのうえ、テンポも速いから。

――メタルのボーカリストとして、声優アーティストである水樹奈々さんの歌をカバーする上で感じられたことは?

EYE 奈々様の場合、声優とかボーカリストといった域を超えている感じがしますね。聴いていて舞台が見えるというか。ライブ映像も見ましたが、演技というレベルではなく、表現者としてオリジナリティがあって、演じながら歌うよりも、もっと先に行っている感じがします。今回はカバーですから、真似をするわけではありませんが、もしコピーしようと思ってもできないというレベルのものだと、研究してみて改めて感じました。

――ではそのカバーについて、EYEさんはどのようにご自身らしさを表現していきましたか?

EYE 奈々様は圧があって、艶もあって、でもクリアな感じもあって羽ばたいているようなキラキラ感をお持ちなのですが、私の場合は伴奏の音像に合わせて滑って踊るという感じです。そこでサラサラとして耳あたりの良い声で歌おうと考えました。

――ご自身の声とMary’s Bloodの演奏の持ち味を活かしつつ。

EYE そうですね。メンバーの演奏に差し替わったときに噛み合うように。これはコスプレイヤーとしての考え方なのかもしれませんが、似た方向は目指すけれども、自分のフィルターを通したうえで、愛情を表現するというのがあります。アニメ好きだからこそ、やはり原曲へのリスペクトが一番にあって、その良さは残しつつ、個性をちょっとプラスするという、絶妙なところを攻めていく感じでしたね。

――演奏のアレンジについては、バンドとしてどのように構築されましたか?

SAKI アレンジャー兼プロデューサーのSinさんを含め、全員で事前のミーティングをして大枠の方向性を詰めていきました。その後、各メンバーが細かくアレンジを加えていくという進め方でした。

EYE 4曲目の「終曲:BATTLER(「悪魔組曲作品666番ニ短調」より)~荒涼たる新世界」は、ほぼ100%SAKIちゃんがアレンジしていましたね。

――この「荒涼たる新世界」の前に「終曲:BATTLER」を付け加えたのはどんな理由から?

SAKI 「荒涼たる新世界」は2016年の復活のときにダミアン浜田陛下が作曲された曲でして、せっかくだからイントロにも浜田陛下の曲を付け加えたいなと思って、地球デビューの大経典(アルバム『聖飢魔II悪魔が来たりてヘヴィメタる』)の「終曲:BATTLER」を合わせました。ほかにもアレンジとして「THE END OF THE CENTURY」(作曲:ダミアン浜田)のBメロのバッキングをこの曲の2番のBメロに入れたりしています。ギターソロではメジャーデビュー以降の3人のギタリストのモデルを全部使って、それぞれのソロのフレーズから持ってきてテンポとキーを合わせて入れ込んだりしています。

――マニアックなこだわりがすごい!

EYE この1曲のためにアルバム2枚分くらいの労力をかけているんですよ(笑)。

SAKI ギターソロは私にとってはめちゃくちゃ重要なんです。最初、エンジニアさんから送られてきたミックスを聞いたら1本になっていて、「そうじゃなくて3本なのが重要なんです!」と。「このギター何秒から何秒まではこの位置にいてほしい」と立ち位置まで指定するという、とても面倒くさいことをしています(笑)。

EYE 今回、私が歌いやすいキーに変えてもらっちゃったから、弾きにくかったんじゃないかなぁと。

SAKI この曲だと2音半くらい上がっているね。上がったぶんは7弦ギターを持ってきて、下の帯域に当てています。今回のアレンジはほぼ7弦ですね。

EYE 音が軽くならなかったから、さすがだなと思って。

SAKI キーで言えば「ペガサス幻想」は原曲の時点で高めなのに、さらに1音上げの状態でNoBさん(山田信夫)さんが歌ってくれて、そこで大変さをまったく感じさせないのがすごいです。

――NoBさんは「ペガサス幻想」の原曲を歌われた、いわば本家の方なわけですが、参加の経緯はどのようなものだったのでしょうか?

EYE 元々、私のボーカルの師匠なんです。以前、師匠がされているDAIDA LAIDAというバンドにゲストで呼ばれた際に、Mary’s Bloodの方にも出ていただけませんかとお願いして、その流れでこのアルバムにも参加していただけることになりました。

――オリジナルのボーカリストとしての存在も大きいですが、EYEさんの今回の場合、師匠との共演音源という形になるわけですね。どんなお気持ちですか?

EYE 教わっていた頃から、「いつかこの先生と肩を並べて歌っても遜色ないぐらい上手くなろう」と思っていたので、10年越しの夢が叶って感慨深いですね。NoBさんのレコーディングの際にも当然自分も立ち会ったわけですが、前日に広島でライブを行なったにもかかわらず、朝からウォーミングアップもそこそこに始めて、ほぼ一発録りでこのクオリティですよ? その際にハモリも含めてMVを撮ったのですが、そのときもお茶目に快くやっていただきました。



――メタルやハードロックのボーカリストって実年齢を感じさせませんよね。

EYE フェスで大御所の方を見たりすると、パワーが落ちないどころか、オーラや余裕さ含めてパワーアップして行きますよね。それが不思議でしょうがない。NoBさんだって年齢を重ねているわけですから、キーが落ちてもおかしくないのに、ここで1音上げても余裕だということに驚きます。私もそうなりたいなと思いますね。

好きすぎる故の試行錯誤「やりたいこと全部詰めている」
――ゲストアーティストを迎えている曲としては「魂のルフラン」でLynne Hobday(リン・ホブデイ)さんがコーラス参加をされていますね。

EYE リンさんとは「World’s End」(アルバム『Revenant』収録)という曲で共同作詞をして、その流れでライブでも歌っていただいたことがありました。リンさんの歌声はとても素敵で、いつか音源でも一緒に歌いたいという話をしていたところ、レコード会社の方がこの曲でリンさんを薦めてくださって、頼めるならぜひという流れで中盤のクワイアの部分をお願いをしました。これは頼む際まで知らなかったことなのですが、リンさんは本家の「魂のルフラン」の英語版でもコーラスをされていた方なんです。つまりこちらも“本物”なんですよ(笑)。「魂のルフラン」って、めぐり合わせの曲ですから、まさに引き寄せたねとビックリしました。今回の音源のクワイアの部分は何十人分にも聞こえますが、実際にはリンさんがご自宅の設備を使ってお一人で何十回も重ねて録ってくださっているものなんです。

――ボーカリストから見てこの歌の魅力はどんな所にありますか?

EYE 今回、研究してみて改めて思ったのは、原曲はダンスビートというか跳ねたちょっと怪しげな感じの音に、高橋洋子さんによる天の声のような響きが噛み合って心地良いからずっと聴いていられるんだなと。それを私たちのバンドサウンドで演るときはテンポ感リズム感を重視して、縦のラインを大事に歌った記憶があります。レコーディングでもあまり悩みませんでしたね。

――では、「Driver’s High」はいかがでしたか?

EYE これは選曲の時点で悩みましたね~!(笑)。

――L’Arc~en~Cielを敬愛されているEYEさんですから。

EYE はい。ラルクもアニメの曲をたくさん歌われているので1曲絞るのが大変でした。今回、Mary’s Bloodのアルバムの中の曲として、私たちがどういうふうにアレンジしたのかを念頭に聴いていただける曲はどれかを考えたときに、メタルファンの方も確実に耳にしたことがあるであろうこの曲かなと思って。かつ、P’UNK~EN~CIELというご自身によるセルフカバーバンドも存在するので、そういうマニアックな面に通ずるエッセンスも入れたいなということで、「Driver’s High」に決まりました。

――パンクのエッセンスとは?

EYE P’UNK~EN~CIELって、音楽ジャンルで言うところのパンクというよりも精神的なもので、この曲の場合は音で言えばハードコアに近い感じで、重くて構成がシンプルで騒いで楽しめるというのが根本にあります。さっきSAKIちゃんが「荒涼たる新世界」にいろんな曲のギターを足していったように、この曲でも別の曲からコーラスを採り入れたりと、やりたいこと全部詰めている感じです。

――歌入れはいかがでしたか?

EYE 好きすぎるが故にモノマネにならないようにするのが大変でした(笑)。アレンジで劇的にテンポを上げているので、hydeさんっぽい歌い方をしようと思っても、そのニュアンスが出ないなとなったところで、ようやくふっ切れました(笑)。この曲をリリースした頃のhydeさんはシャウトはあまりしてないのですが、このアレンジでなら思い切りやってみようと。私はオリジナル曲ではシャウトの多い歌い方をしているのですが、それを交えつつ、hydeさんのちょっと妖艶なかっこ良さや低音の響きは残しつつという、良い落とし所を探りつつ攻めていった感じです。

――先ほどの聖飢魔IIのケースと逆で、SAKIさんはこの熱量のボーカリストに対して演奏面ではどのようなアプローチを?

SAKI ラルクはRIOちゃんもすごい好きですから、もうドキドキですよ(笑)。キーが上がっているのでフレットが足りなくて、同じようには弾けないので、最後のところは最初、オクターブ下で弾いていたんのですが、やっぱり上がいいよねということで、ものすごいチョーキングをして対応しました。この曲を含め、バンド曲のソロは原曲と同じように弾きたくて、それと音像の違いにどういうふうにしようかといろいろ考えました。

――アレンジが特に大変だった曲は?

EYE 「unravel」ですね。RIOちゃんが『東京喰種 トーキョーグール』にガチハマりしているくらい好きで、この曲が良いと言い出したのですが、いざアレンジのリクエストを聞いたら「完璧すぎて思い浮かばない!」と(笑)。作り込まれている原曲だからこそ、崩すのが難しい感じだったようでした。そこで土台をアレンジャー兼プロデューサーのSinさんが作ってくれて、メンバーがそれを持ち帰って案を出していくなかで、リズム隊の2人からリズムで遊んでみようかとか話が出てきました。原曲はシャリッとした爽やかでお洒落な感じなのですが、私たちが演奏するだけで結構重くなって、リズムも含め、結果的に自分たちから見ても予想外なほど劇的に変わっていきました。

――曲順を含めたアルバム全体の構成意図について教えてください。

EYE 大枠の曲順としては、メンバー発信にするよりも客観的な意見がほしくて、レコード会社のA&Rの方やプロデューサーの意見を聞きつつ並べていきました。歌始まりの曲が今回3曲あるので、フェードアウトして歌始まりになるという繋がりが綺麗にいったと思います。この間、ある方からこのアルバムについて、「ディスコグラフィ的にオリジナル(アルバム)と照らし合わせても馴染んでいるよね」と、言っていただいて、驚きました。確かにリード曲が1曲目2曲目に来て、最後は明るく終わるウチの王道の作りだなと思って。

――作り込みを含め、Mary’s Bloodのキャリアにしっかりと刻まれたアルバムになったわけですね。これをぜひライブで聴きたいところではありますが……。

EYE 私たちもそう思っているのですが、まだコロナ禍に対して安全が確保できないうちにお客さんを危険に晒すわけには行きませんので、ひとまずは配信ライブをお楽しみください。そして、いつかツアーを回れるようになった際にはぜひともいらしていただけたらと思っています。

INTERVIEW & TEXT BY 日詰明嘉



●リリース情報
『Re>Animator
8月26日発売

【限定盤(CD+フォットブック)】

価格:¥3,364(+税)
品番:TKCA-74894

【通常盤(CD)】

価格:¥2,818(+税)
品番:TKCA-74895

01. ペガサス幻想(TVアニメ『聖闘士星矢』OPカバー)
02. 甲賀忍法帖(TVアニメ『バジリスク甲賀忍法帖〜』OPカバー)
03. Magia(TVアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』EDカバー)
04. 終曲:BATTLER(「悪魔組曲作品666番二短調」より)~荒涼たる新世界(TVアニメ 『テラフォーマーズ リべンジ』OPカバー)
05. unravel(TVアニメ『東京喰種トーキョーグール』OPカバー)
06. Forever Loveアニメ映画『X』主題歌カバー)
07. 魂のルフランアニメ映画新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生』主題歌カバー)
08. INVOKE(TVアニメ『機動戦士ガンダムSEED』OPカバー)
09. Driver’s High(TVアニメ『GTO』OPカバー)
10. Exterminate(TVアニメ『戦姫絶唱シンフォギアGX』OPカバー)
11. ウィーアー!(TVアニメ『ONE PIECE』OPカバー)

関連リンク
Mary’s Blood 公式サイトMary’s Blood 公式Twitter
リスアニ!

掲載:M-ON! Press