量子材料・量子科学理論・量子生命科学・量子派生技術に関する出願済み特許に見る各国の技術動向

以下に「量子材料・量子派生技術全体」の特許出願動向について、関連特許56か国、WO、EPでの出願特許、5382件より集計した結果を、出願数上位の国および機関(グローバル)について示しました。出願人・譲受人の国としては、中国からの出願が圧倒的に多い状況で、量子技術でしのぎを削る米国、英国は比較して大きな優位性をとれてない状況です。また日本でも特に大手企業を中心に出願が先行していますが近年は横ばいから微増の傾向です。出願先の国としては、中国が圧倒的な中で米国も比較的多いが、中国を含め国内出願とWOへの出願が多いフェーズです。今後、具体的な市場が立ち上がる段階で、国際出願への移行が増えてくる可能性があります。自国ではない企業が出願する国際出願の件数としては、米国への場合が最も多く、中国への場合も拮抗しており、また同程度のWOへの出願があります。一方で、日本からの出願は量子コンピュータ技術同様に、2010年くらいまでは世界トップクラスの出願数でしたが、近年は中国、米国の出願増加に対して日本は出遅れている傾向にあります。

世界の特許出願状況

(56か国、WO、EP公報(5382件)対象出願年:2001-2020)


世界の特許出願動向

(譲受人国別/出願年:2001-2018)

特許件数としては、量子光学、量子センシングから量子通信にまで用いられる「光子検出器」に関する基盤技術・材料技術を数多く保有するSTMicroelectronicsが首位となっています。日本でも量子センシング・量子イメージング技術に関係するCT・MRI放射線治療機器の技術を持っている日立、東芝、がそれに続き、やはり同分野の技術を保有するPhilips、Siemens Healthineersといった世界の大手企業が近い件数で並ぶ形です。また、台湾の世界的な半導体製造ファウンドリであるTaiwan Semiconductor Manufacturingも、光子検出器や磁気検出やスピントロ二クスに関する技術を多数出願しており、本領域の応用分野として最も関連の深い半導体や磁気イメージングを扱う企業が量子デバイス開発を牽引している傾向が読み取れます。
また、研究所や大学からの出願としては、米国のMITが基盤技術から量子計算機を構成するハードの要素技術まで幅広く出願していることから件数が最も多く、次いでスイス最大の自然科学・工学の研究センターであるポール・シェラー研究所(PSI)が続くが、日本の科学技術振興機構東北大学、情報通信研究機構、産業技術総合研究所においても光子検出器、スピントロ二クスの要素技術や量子イメージングなどの技術で多くの出願があります。大学個別として欧米の大学が上位にランクインしていますが、各研究機関とも特定の要素技術に集中した出願が多いことから、日本が優位に立てる領域が十分あると考えられ、出願ポートフォリオ戦略を明確にしてある程度の束での出願をしていくことは、今後の本領域での主権を握るという点でも重要と考えられます。

「量子材料・量子派生技術技術全体」特許出願上位

(JP/US/EP/WO公報より集計)

また、そのうちの主要出願である、日本、米国、欧州(EP)、WO(PCT)、での特許公報2789件を対象に、特許の被引用履歴に基づいたアスタミューゼ独自のスコアリングを行いました。。出願件数上位群であったTaiwan Semiconductor Manufacturing、東芝に加え、米国の製薬・ヘルスケアカンパニーであるABBOTT LABORATORIESなどもスコアリング上位となり、量子センサー、量子イメージングの基盤技術であるスピントロ二クスに関する要素技術や量子技術全般につながる光子検出に関す素技術のスコアが全般的に高く、これらの技術領域で有望な特許を保有するプレイヤーが量子材料・量子派生技術領域においても中心的プレイヤーになる可能性が高いと考えられます。他にも、センサー用途で最近注目される窒素空孔(N-Vセンタ)ダイヤモンド材料の技術は、ダイヤモンドを扱う最大手企業のDeBeers傘下の合成ダイヤモンド企業であるelement sixが特許の質・量ともに高い水準にあり、センサー用途のダイヤモンド材料を提供する次期有力プレイヤーとなる可能性が高いと思われます。また、豪州のメルボルン大はこのダイヤモンドを用いた量子センサーを生体用途に適用する特許を2010年付近に出願しており、件数は少ないですが最有力特許を持つプレイヤーの一つです。量子材料分野は、トポロジカル材料や(N-Vセンタ)ダイヤモンド材料の様に、近年急速に進展しており、まだ今後も新たな発見が期待される分野です。これら量子材料の研究が進むのと並行して、量子センシング・量子センサー技術などの応用デバイスでも有望な特許を保有するプレイヤーが今後の中心的プレイヤーになる可能性が高いと考えられます。

量子材料・量子派生技術の領域は、量子コンピュータ・量子センサー・量子通信の領域への用途・応用のみならずこの量子物性から派生した新たな用途領域へと派生することも期待される、量子応用技術の根幹を支える領域であり、様々な成長産業における「ものづくり」の高付加価値化につながる有望な技術領域です。スピン流材料、ダイヤモンド材料やトポロジカル量子材料の進展が、センサー、イメージング、量子計算機のハードウェアや量子通信など幅広く量子応用・派生技術として発展していく可能性が期待できます。日本では長年にわたる基礎研究の積み重ねにより、世界的にも競争力をもつ領域であることから、量子基盤技術・応用の両面において、既に日本の企業が持つエレクトロニクスやものづくり全般にわたる技術の強みを生かし、産・官・学の連携を通じて応用面でより世界に先駆けた技術を生み出すべく、人と技術の交流を基にしたコミュニティを形成する積極的な研究開発投資を行うことにより、世界をリードする基礎・応用技術を有する研究開発連合として台頭することが期待できる領域です。
(アスタミューゼ(株)テクノロジーインテリジェンス部 川口伸明、米谷真人、*福永元)


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