東京の地下鉄駅を利用する際、自分が今、地下何階にいるかを気にすることはあまりないでしょう。しかし案内を見ると、駅によっては階数表示が抜けている階が存在します。一般の旅客は立ち入れません。ここには何があるのでしょうか。

地下鉄駅 案内に記載がない階はいったい…

13本の路線が張り巡らされている東京の地下鉄。路線と路線が複雑に交差しており、また下水道やガス管、送電線や通信ケーブルなど様々な埋設物を避けるために、地下鉄は建設年代が新しいものほど地下深くなる傾向にあります。例えば最初期に開業した銀座線丸ノ内線の駅の平均的な深さは約9mですが、千代田線有楽町線では約17mになり、最も新しい副都心線では約27mにも達します。

副都心線のホームは、池袋駅では地下4階、東新宿駅では地下6階、明治神宮前駅では地下5階と非常に深い位置にあり、いくつもの階段やエスカレーターを降りなければ到達できないので、電車に乗るのもひと苦労です。ただ、商業ビルなど地上の建築物とは異なり、地下鉄の駅では地下何階に何があるといった案内はあまりされないため、利用の際は自分が地下何階にいるのか意識することは少ないかもしれません。しかし、駅構内図の階数表示を見てみると、不思議な駅があることに気づきます。

例えば東京メトロで最も地表から深い国会議事堂前駅は、地下1階に改札口があって、地下2階に丸ノ内線、地下6階に千代田線が走っています。ところが駅構内図を見ると、地下3階と地下5階には階段の踊り場がありますが、地下4階は記載されていません。こうした「謎の階」にはいったい何があるのでしょうか。

B4Fない国会議事堂前駅 B2Fない水天宮前駅

国会議事堂前駅は、1959(昭和34)年に丸ノ内線が開業し、1972(昭和47)年に千代田線が開業しています。千代田線国会議事堂前駅建設にあたっては、ホーム部は地中を横にくり抜いていくシールド工法が、駅端部は地表から掘り下げてく開削工法がそれぞれ使われました。これは国会議事堂周辺の地形が丘のように標高が高くなっているのと、丸ノ内線のトンネルを避けるためです。つまり、地下2階の丸ノ内線のトンネルと地下6階の千代田線のトンネルの間に構築物は何もなく、ただ「土」が存在しています。

では駅端部はどのようになっているのでしょうか。営団地下鉄(現在の東京メトロ)が発行した『千代田線建設史』によれば、霞ケ関駅方は地下6階層の構築となっており、そのうち地下4階には「換気室」が設置されているとの記載があります。地下3階の踊り場から地下5階の踊り場まで、4階を貫いて階段が設置されているため、利用者は見ることはできませんが、地下4階は業務用スペースとして存在していたのです。

このように、旅客向けには使われていない階層に駅の機器室を設置するケースは多く、例えば半蔵門線水天宮前駅は改札口が地下1階で、半蔵門線ホームが地下3階にありますが、駅構内図に記載のない地下2階は空調機器室、電気室、ポンプ室などが設置されています。

地下鉄にサンドされた高速道路 パズルのように組み合わさる設備

しかし、駅構内図に記載されていない階の中には、地下鉄とは関係がない、意外なものが存在しているケースもあります。大江戸線中井駅は地下1階に改札口、地下3階に階段踊り場があり、地下4階に大江戸線ホームがありますが、地下2階にはなんと首都高速道路中央環状線が走っているのです。

大江戸線は放射部(新宿~光が丘)13.9kmのうち、山手通りの地下を約3.3kmにわたって通過しています。この区間は1991(平成3)年に着工し、1997(平成9)年に開業していますが、山手通りには首都高中央環状線(2010年開通)の建設計画が存在していたため、東京都交通局高速道路地下鉄を一体構造として設計、施工しました。高速道路の上下線の間にスペースを設け、ここに階段やエスカレーターを通す構造となっています。

地下鉄整備時に地下道路や共同溝など、同じ区間に計画されている構築物を一体的に建設する手法は珍しくなく、古くは日比谷線日比谷駅付近の建設時にも、営団地下鉄東京都の地下自動車道路を一体的に建設したことがあります。

こうして見てきたように、限られた地下空間を有効に使うために、様々な設備がパズルのように組み合わさっていることがわかります。地下鉄利用時に、「存在しない階」を見つけたら、いったいどのように利用されているのか想像してみるのも面白いかもしれません。

東京の地下鉄路線図の一部(画像:PAKUTASO)。