2020年9月4日(金)から東京・PARCO劇場にてPARCO劇場オープニングシリーズゲルニカが開幕する。初日の前日となる3日には同劇場にて稽古の一部が公開され、主演の上白石萌歌、中山優馬らが本番さながらの熱のこもった演技をみせた。

本作は、国内外問わず幅広く活躍し、2018年読売演劇大賞及び最優秀演出家賞に輝いた演出家・栗山民也が、スペイン内戦時のゲルニカ無差別爆撃を描いた画家パブロ・ピカソの「ゲルニカ」と出会い、以来20年以上、あたためてきた構想をもとにした作品。2018年に鶴屋南北戯曲賞など数々の賞を受賞、筆力に定評のある、劇作家・長田育恵がゲルニカ生きる人々の人間ドラマフォーカスして物語をつむぐ。

上白石が演じたのはヒロインの少女サラ。そしてヒロインの相手である兵士イグナシオ役には中山優馬、ゲルニカ生きる人々を取材する海外特派員のクリフ役に勝地涼、彼に同行する女性特派員記者のレイチェル役に早霧せいな、そして玉置玲央、松島庄汰、林田一高、後藤剛範、谷川昭一朗、石村みか、谷田歩、さらにヒロインの母マリア役にキムラ緑子といういずれも芯の太い実力派俳優が集結した。

フォトコールで披露されたのは一幕の後半部分。ゲルニカの元領主の娘として何不自由なく生きてきたサラが、街の人々や兵士たちと接するなかで各地で激戦が行われている事を知り、やがて己の思うままに自立の道を進もうとする場面だった。

思うに、上白石は「目で語る女優」ではないだろうか。民衆の憤りに怯える目。母の言葉に疑問を抱く目。そして自身の想いが固まっていく段階で徐々に目が強い光を放つのだ。目ヂカラという言葉では語りつくせない、底知れぬ力を持った目の光でその場を圧倒する。若干20歳にして既に大女優の片鱗を見せていた。

そして兵士イグナシオ役の中山も目がものを言う役者。恐れを抱いた瞬間の感情、何かを悟った瞬間の心境など、その目の動きひとつで我々に大事な事を伝えようとする。今回披露された場面にはまだなかったが、やがて彼が己の内面をさらけ出す場面がくるに違いない。今回の場面から早くも続きを観たいと思わせていた。

勝地と早霧が演じる特派員の姿には、ジャーナリストとしての姿勢が描かれている。現場の状況がより読み手に伝わるよう、時には今後の予測や私見も込みで書き綴るタイプと、感情に流されずひたすらに事実を正確に読み手に伝えようとするタイプゴールは同じであってもそこに向かうルートが正反対な二人の意見のぶつかり合いは、同じ物書きの一人として、胸に刺さるものがあった。

そして、サラの母役のキムラの存在感は必見。支配階級にありがちな強さでこれまで周囲の者たちを虐げてきたのだろうが、やがて愛する娘が自我を持ち、自分から離れようとする姿に母としての苦悩を垣間見せる。その演技は観る者の心をも揺るがせるものだった。

フォトコールの後、ステージ上で行われた会見では、さきほどまでの息を飲むようなシリアスな空気とは一転、時に笑いが起きるなごやかな会見だった。

上白石は演出の栗山と一緒に仕事をするのが長年の夢だったと語る。「大学のレポートの題材も栗山さんにした事があるくらい尊敬しています。いつか一緒に仕事をしたいと願っていましたがまだ先だろうな、とも思っていたので、声をかけていただいて嬉しく思っています」とはにかむような笑顔を見せる。栗山の印象については「思っていた以上にやわらかい人。稽古中におせんべいを半分いただいた事も(笑)。そのやわらかい人柄に鋭い視線を持っていて、こうしたらもっと良くなるという事を分かりやすく説明してくれる。稽古初日から栗山さんの言葉だけを信じて必死にしがみついて稽古をしていた」と振り返っていた。

中山優馬

中山優馬

中山は「実はスパイという役なんですが、稽古で自分の役と向き合った時、非常に人間性溢れる青年だなぁと感じました。そして若さが大事だな、とも。サラとの恋愛で心が動く点についても若さのパワーを自分の中で意識して演じています」と語る。自身の役の見せ場は? との質問には「ないです。ないというか全部が見せ場です」と恥ずかしそうに述べていた。

勝地は「ゲルニカという絵はピカソが描いたという知識しか持ってないんです。だからスペインの内戦なども勉強しましたが、そこに描かれているのは戦時中の日常で。そこには笑顔もあるんですが、ある日突然パツッと(空爆で)無くなってしまう。僕のように作品の背景を知らなくても楽しめる作品だと思います」とコメント。そして劇中の台詞で心に残る言葉にも触れる。「『沈黙は罪人(つみびと)だ。なぜなら沈黙は同意と同じだから』という台詞があるんですが、それは今の日本に重なる感があるので、今の人たちにこの芝居を観ていただけたら」と胸の内を語った。

早霧せいな

早霧せいな

早霧は「クリフレイチェルは記者だからこそ、正直な気持ちで記事を書くべきだという点で尊敬し合っているんです。だから稽古場から勝地くんに尊敬の念を重ねているんですけど」と言いながら立ち位置から一歩前に出て、反対側にいる勝地に目線を送り笑いを誘う。「舞台でさらに深めて一回一回大切に生きていきたい」と意気込みを見せた。

キムラは新しくなったPARCO劇場の感想を聞かれ「前は楽屋が畳張りだったのだが今は窓があって、そこから渋谷の街を見渡せる。すごいところで芝居をしているんだなと初めて楽屋に入った時に感じました」と言い「“渋谷の真ん中で愛を叫ぶ”じゃないですが……」と口にすると上白石や中山たちがたまらず笑い出す。続けてキムラは「作品を世の中に生み出していく……まさに『ゲルニカ』の様だと思うんです」と語っていた。「舞台はスペインだし。1930年代だし、内戦だし、カトリック教の領主だし、想像する事が多すぎてめまいがするんですが、行けるところまで行って、あとはお客様の想像力に委ねるしかないなと」と一気にまくし立て、「ごめんね、長く喋って」と最後に付け加えると皆大笑いとなっていた。

話が止まらないキムラさんから目が離せない上白石さんと中山さん

話が止まらないキムラさんから目が離せない上白石さんと中山さん

最後に「公演に向けて短めのコメントを~」と司会が話を振ると、中山がすかさず「それって(キムラさんへの)当てつけですか(笑)?」と突っ込み、笑いが起きる。

改めてキムラは「私たち何回PCR検査やった?(上白石が3回と指で示す)公演中も検査をするそうですが、毎日、手指の消毒して、検温して、足の裏も除菌して楽屋入りしています。万全の体勢でお客様をお迎えしようとしていますので、安心して劇場にお越しください」と早口で話し、早霧は「人と人との距離はソーシャルディスタンスで近づけませんが、中身は濃密にやっていますので楽日までよろしくお願いします」と宝塚の元トップスターらしい安定感ある挨拶。
勝地は「稽古場でいろんなことを感じています。観る方にも何かを持って帰っていける作品だと思いますので、劇場まで来て下さったら嬉しいです」と訴えるように述べ、中山は「素晴らしい作品だと思っています。希望や運命など科学的には分析できないものが描かれていると思います。そんな想いを科学的な兵器で壊される。そこにどんな人達が生きていたのか。是非目撃していただきたいです」と想いを込める。

最後に上白石は「80年前に実際にあったゲルニカ爆撃と今、コロナ禍の日本では目に見えない敵と戦うという点でどこか通じるものがあると思っています。ゲルニカという4文字がイメージする事は悲痛さ、苦しさと思うんですが、苦しさにあらがおうとしていたり、そのなかで希望を見つけようとする眼差しなどが丁寧に描かれている作品だと思います。どうぞ劇場にお越しください!」と会見を締めくくった。

(左から)早霧せいな、中山優馬、キムラ緑子、上白石萌歌、勝地涼

(左から)早霧せいな、中山優馬、キムラ緑子上白石萌歌勝地涼

取材・文・撮影=こむらさき

『ゲルニカ』ゲネプロより