カネボウ化粧品が販売していた美白化粧品を使って、肌がまだらに白くなる「白斑」の症状が出たことが問題となったニュースを覚えているだろうか。また製薬会社ノバルティスファーマの降圧剤「ディオバン」では臨床試験データを操作した疑惑が生じるなど、最近は臨床研究に対する様々な問題が報道されている。

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 企業は新しい薬などを開発すると、製品として使うために「治験」を行う。これは医薬品や化粧品だけではなく、「トクホ」などの健康食品でも行われているという。動物実験などを経た新薬を人間に投与し、副作用などがないかを調べる「治療の臨床実験」の略が「治験」なのだ。「治験のバイトは儲かるらしい」という話を聞いたことがある人も多いだろうが、その治験を「パートタイム」ではなく「仕事にするプロ」がいるのはご存知だろうか?

 その特異な記録が『職業治験 治験で1000万円稼いだ男の病的な日々』(八雲星次/幻冬舎)だ。著者の八雲氏がこれまでに治験に参加したのは、C型肝炎の新薬、認知症に効果的とされる薬、新型麻酔薬、統合失調症の薬、サントリー健康食品セサミン、飲むだけで禁煙できてしまう薬などがあり、八雲氏によるとプロ治験者とは「平たく言うと、血を売って生活している者です。皆さんにより安全で良い薬を届けるために、『新薬の毒見』をしているともいえます」と説明している。

 八雲氏がプロ治験者となったのは、就職した一部上場企業で上司と衝突して2ヵ月で退職し、とにかく働きたくなかったためだそうだ。そして最初に参加したのが「C型肝炎の新型インターフェロン」の治験で、日数は20泊21日、報酬は53万円というもの(ちなみに治験は仕事やアルバイトではなく、あくまでボランティアという位置づけで、報酬は治験に対する「負担軽減費」として扱われる)。この新薬、これまで2000件の治験で重篤な健康被害は1件だけで、その確率は0.05%。この確率をリスクと思うか、自分には関係ないと思うかで、治験に参加するかしないか考え方が分かれるところだが、八雲氏は金の力に負け、治験者としての第一歩を踏み出すことになる。治験の詳しい流れは本書に譲るが、投薬後に何度も採血されて腕は腫れ上がり、食事は病院が用意するもののみ(メニューはかなり豪華)、しかも行動は制限され、治験中はほぼベッドの上で過ごすことになる。しかし治験者たちは漫画を読んだりゲームをしたり、無料のWi-Fiインターネットに接続したりなど、基本的には「三食ベッド付きでぐうたらし放題な時間」を過ごしている。

 これまでに八雲氏が治験で受け取った総額は、日数にして365日で1000万円……と聞くと「そんなにもらえるのか!」と思うが、実はこれ、八雲氏が治験に7年間参加したトータルの日数で、年収に換算すると160万円程度だという。しかし治験で入院中は一切金を使わないので、生きていくことはできそうだ。ところが一度治験に参加すると、次は4ヵ月経たないと治験に参加できないというルールがあったり、40歳以上になると参加できる治験が減るという問題もあるそうだ。それではプロは食っていけなさそうだが、ルールをかいくぐる「裏治験」というのもあるそうで、さらに八雲氏は日本だけに留まらず、海外での治験も体験していて、その顛末も本書に克明に書かれている。

 ネットで「治験」と検索してみると、多くの治験者を募るサイトが表示される。安全な薬を生み出すためには、多くの治験者を必要としているのだろう。しかし本書を読むと治験者たちの歪みっぷりに少々背筋が寒くなる思いがした。あなたは本書を読んで、治験に対して、そして治験者に対してどんな感想を持つだろうか?

文=成田全(ナリタタモツ)
ダ・ヴィンチ電子ナビより)

『職業治験 治験で1000万円稼いだ男の病的な日々』(八雲星次/幻冬舎)