GORE-TEXの価値はどこにあるのか?

ボクらがアウトドアのウエア選びをする際に、気になることって何だろう? デザイン、ブランド、機能性、価格?

それらの優先順位やバランスは人それぞれだけど、機能性の分野で言えば、GORE-TEX(ゴアテックス)と聞いて、知らない人はほぼ居ないのではないか。

先日、新しいゴアテックス プロが発表されたばかりで話題となっているが、「ゴアだから防水性◎」、「ゴアだから高価でも仕方ない」― 何となく、そう感じてしまっている部分も少なくないはず。正直言って、機能の差なんてよくわからないが、とかく有名でブランド力が高い。そんなイメージだろう。

だけど、何でみんなそんなにゴア、ゴア言うの?と。

アウトドアウエアにおいて、その素材は機能性を左右するもっとも重要なファクターであることは事実だが、防水透湿素材ひとつとっても、ゴアテックス以外にごまんとあるのだから。

ただし、認めざるを得ないのは、やはりそのブランド力。ゴア=高品質なブランドであることを、アウトドアをやらない一般人にまで認知させているのだ。

そんな矢先、日本ゴア社からプレスツアー参加の打診があった。何でもアメリカ・ゴア社を見学できるという。なぜそんなにブランド力を高めることに成功したのか。その秘密が分かるかもしれない。

アメリカ・ゴア社訪問。

アメリカにおけるゴア社のファブリクス部門の拠点は、NYから約1時間のデラウェア州、ニューアークにある。ドーンとでっかいビルを想像していたが(日本の感覚)、さすがはアメリカ、土地が広い。

役割の異なる施設が街中に点在しているようで、とにかくバス移動が長い。どこに何棟あるのか聞くと、軍事機密の観点から公表できないそうだ。それこそアメリカっぽい。また、それだけの企業だということも肌でわかった。

2020年2月に行われたプレスツアーには、日本、韓国、アメリカ、ドイツフランスなどからメディアやインフルエンサーが参加。この頃、日本でもマスクやトイレットペーパーが入手困難になってきていたが、世界的パンデミックに発展するとは誰も想像していなかった時期だった。

ゴア製品はウエアだけにあらず。

そもそもゴア社は1958年に立ち上がり、合成ポリマーPTFEを絶縁ケーブルに使用し電子機器製品市場で成功をおさめた。そして1969年に創始者の息子であるボブ・ゴアが発見した、新しいポリマー延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)が今のゴア社のベースともいえる。

ゴアテックスをはじめとするゴア製品は、PTFEと呼ばれるフッ素樹脂を原材料とし、独自の技術で延伸加工することで(ePTFE)、ファブリック用だったりフィルター用だったり医療用など、多様な用途に使われているのだ。

上がPTFEとポリウレタンポリマーを複合して作られた生のメンブレン。ファブリックに使われるフィルム状のものから、ファイバー状のものまであり、たとえば、胸部大動脈用のデバイスや、釣り糸、ギターの弦、配線ケーブルスピーカーなど、用途に応じてあらゆる製品に使用されている。

血管内治療に使用される大動脈用ステントグラフト。人工血管にワイヤー状の金属を縫い付けてある。人命に関わる重要製品なだけに、ゴア社のePTFE製品の信頼性が伺える。
ゴア社のファイバー製品は、強度が問われる釣り糸の素材としても使用される。ePTFE素材のゴアファイバーは、厳しい環境への耐性などの特性を持ち、工業用途、マリン用途、宇宙用途などで幅広く使用されている。
広々としたケイパビリティセンターのホール一角。ありとあらゆるゴア製品が展示されていた。

アーカイブルームはお宝の山。

1976年にゴアテックス ウエアが誕生して以降、各メーカーから数々のプロダクトが世に送り出されてきたが、それらを保存しているアーカイブルームにも入ることができた。

2008年の創立50周年をキッカケに設立されたというアーカイブルームはお宝の山。室内は湿温度の管理が徹底されていた。
ウエアにおいて世界で初めてゴアテックスが採用されたマーモットジャケット1976年)。この頃はまだシーム処理が施されていない。
70年代から90年代の各種ハングタグ。

いよいよラボへ。

前半では、ゴア社のプロダクトやヒストリーについて軽く触れたが、ここからが本番。ゴアテックス製品の開発に欠かせない、テストラボへと足を踏み入れた。

ここでは、防水テスト、耐摩耗テスト、洗濯テストなど、製品カテゴリーに応じて驚くほど多くの品質基準テストが行われている。それらすべてをクリアしたプロダクトだけがボクらの手元に届くというわけだ。

レインテストでは、1時間に150mm相当の雨量を体験。着用ウエアが左右で色が違うのは耐久撥水(DWR)加工済と未加工の生地を貼り合わせているため。どちらもゴアテックス ファブリクスなのでもちろん内部まで浸透することはないが、未加工は肌に張り付くような濡れた感覚に。撥水性の違いによって快適性や体感温度が大きく変わることがわかった。
フットウエアの防水テスト。ゴアテックス ファブリクスで足を包み込むように組み込むシューズは、空気で膨らませて穴空きをチェックする。
ちなみに、左がブーツなどに今でも用いられている従来の仕様(上記のような袋型)。右が、アッパーとメンブレンが一体化しているゴアテックス インビジブルフィット。しわや折り目がなくなりフィット感が向上。一般的なランニングシューズと同様の履き心地ながら防水透湿性も備える。
ラボの一角には無数の洗濯機が。洗濯と乾燥を繰り返し、レイヤーやラミネートの剥がれがないか、または撥水性が保たれているかをチェックする場所だという。

あらゆる方法で生地の耐摩耗テストが行われていた。これらのテストを開発する研究室では、テストを経た生地の表面を顕微鏡でチェックしている場面も。
気温や湿度、風速などを変更して、世界中の気候を再現できる環境ルーム。中央のマネキンにセンサーを仕込み、体感温度などを計測する。ちなみに気温は−50℃から+50℃調整できるそう。

ゴアテックス=高品質は間違いじゃない。

このアメリカ・ゴア社ツアーを通じて分かったことは3つ。

ひとつは、ゴアテックスというブランドが、無二のオリジナルであること。

ePTFEの加工技術を応用して、アウトドア分野のみならず、医療や航空分野まで進出して社会的価値をもたらしていることも、ブランディングに大きく寄与していると考えられる。

2つめは、真似できない品質管理を徹底しながら、パートナー企業と切磋琢磨して製品開発を行っていること。

ゴアテックス ファブリクスはどんな企業でも扱える素材ではない。メーカー側にもその品質を最大限に発揮させる努力が必要で、結果的にその努力が出来る企業のブランド価値をも引き上げていると思われる。

そして3つめ。冒頭でも触れた、ブランド名からの何となくの信頼感とか、ゴアだから高い値段を払ってもいい、という感覚はあながち間違いではなかったということ。

なぜ高品質なのか、なぜ支持され続けているのか、これまで何となく抱えていたモヤモヤが晴れるツアーとなった。

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