新型コロナ禍での巣ごもり需要に加え、安価にある程度のクオリティのVR体験ができる「Oculus Quest」などの普及も手伝って、いよいよ身近な存在になりつつあるVRゲーム。まだまだ従来のゲームに比べると規模こそ小さいものの、2019年には100万ドル以上の売り上げを突破するタイトル100本を超えるなど、様々な人気作品が生まれつつある。

(参考:PSVRと“相性最高”のVRゲーム決定版『マーベルアイアンマン VR』ついに発売

 VRゲームの最大の特徴は、自分の体の動きがそのままプレイに反映されること。たとえば、銃の照準を合わせる動作やグレネード手榴弾)を投げる方向&飛距離などは、自分の手の微妙なさじ加減で決まることが多いため、画面内に登場するキャラクターコントローラーで操作するのではなく、自分の体の動きがそのままゲームに紐づくような体験になる。

 そして、もうひとつの特徴は、ぐるっと360°見渡せるVRならではの、ゲームの世界に入り込むような体験ができること。こうした没入感を演出する技術は日々進化していて、近年は映像表現のクオリティ以上の工夫が加わりつつある。その代表例として、2019年末発売の『BONEWORKS』では、VRゲームの世界に「重さ」の概念を導入。物体それぞれに軽いものは軽く、重いものは重く感じられる工夫がなされ、圧倒的なリアリティが加わった。

 2020年は遂に「VRゲームの歴史を変えた」と言われる作品も登場している。1年の後半に差し掛かったこのタイミングで、今年の重要作や楽しみな作品をまとめてみたい。

 まずは今年3月に発売され、「VRゲームゲームチェンジャー」とも言えるヒット作となったのが、高価格帯VRヘッドセットValve Index の開発元・Valveが手掛ける名作FPSシリーズの最新作『Half-Life: Alyx』。この作品は、1998年に発売され「その後のFPSのあり方を変えた」と言われる1作目『Half-Life』と、その続編として高度な物理エンジンで進化を遂げた2004年の2作目『Half-Life 2』の間の物語を描いた作品。初代『Half-Life』からかかわる開発者も協力し、16年ぶりのシリーズ新作&初のVRゲームとして制作された。

 『Half-Life: Alyx』が素晴らしいのは、VRゲームならではの没入感を最大限に追求していること。プレイヤー主人公のアリックス・バンスとなって、『Half-Life2』にも登場する都市・シティ17の謎を解きながら、地球外生命体や兵士と戦う。その際、作品内のほぼすべての物体は実際に触れられるものとして用意されていて、『BONEWORKS』同様重量が感じられる形で存在するため、ゲーム内を現実と錯覚するほどのリアリティが感じられる。

 このゲームの中では、投げたものは現実と同じ軌道で飛ぶし、すべての物事が現実と同じ物理法則を持っている。だからこそ、「キッチンの戸棚を開けて中のものを掴む」「引き出しを次々にひっくり返してアイテムを探す」「しゃがんで遮蔽物に隠れながら、隙を突いて敵に銃弾を撃ち込む」「敵がまき散らす有毒な胞子を吸わないよう口を押さえる」「飛び掛かってくる敵を、その勢いを利用して遠くに飛ばす」――。こうした動作が、まるで自分の実際の手や体の動きとシームレスに繋がっているような感覚でゲームプレイに反映されていく。そもそも、アリックスが持っている武器=銃のリロードも、弾が切れるたびに手で行なう必要があり、本当にゲームの世界に自分が存在していて、その中を進んでいくような感覚がある。

 とはいえ、同時にゲームらしい現実離れした要素も大きな魅力になっている。そのひとつが、バーナクルやヘッドクラブなどお馴染みの面々も登場する敵モンスターや、異世界のようなステージの数々。そしてもうひとつが、「ラッセルズ」と呼ばれるグラビティグローブだ。

 物語の時系列的には『Half-Life2』に登場するグラビティガンのプロトタイプとも言えそうなこのグローブによって、プレイヤーは遠くにある物体を手元に引き寄せることができる。この操作が、現実のようなリアリティと、現実では決してできないゲーム独自の体験が融合する『Half-Life: Alyx』の雰囲気を決定づけていて、荒廃した近未来的な都市と、細菌などに侵された奇妙な地下通路や建物内、そして時おり見える青空や街の風景など、ひとつひとつのシーンが魅力的なSFアドベンチャーFPSに不思議な魅力を加えている。細部までリアリティを追求しているからこそ、非現実的な要素がきちんと非現実なものとして感じられるのだ。

 『Half-Life: Alyx』は発売前後から反響がものすごく、発売翌月に当たる2020年4月に月間の接続VRヘッドセット数が約95万台増加したことは、人々が『Half-Life: Alyx』をプレイするためだったとも言われている。VR機器に興味があるものの二の足を踏んでいるならば、この作品のために用意しても損はしない、2020年ベストゲームのひとつだと思う。

 2020年は他にも、様々なタイトルが発売されている。たとえば、執筆時点ではOculus Store独占タイトルとなっている『Phantom: Covert Ops』は、カヤックを漕ぎながら旧ソ連の海軍基地に潜入するVRステルスアクションゲーム。VRならではの身を隠す緊張感と、ステルスFPS要素の組み合わせが話題になり、発売から数週間で100万ドルを突破した。

 また、2018年の発売以降長く親しまれている大ヒットVRリズムゲームBeat Saber』の系譜にあり、「音楽に合わせて敵を撃つ」という音ゲーシューティングを組み合わせた『Pistol Whip』も話題だ。リズムゲームでありながら、敵の銃撃を避けて敵を撃つ順番や残弾数を考える必要があり、VRゲームならではの立体的な空間を生かしたステージ面白い

 今後VRゲームのトレンドになっていきそうなのは、対人戦形式のアクションFPSタイトルだろう。中でも今後楽しみなのは、2020年内に発売が予定されている、10人対10人のFPSタイトル『Frostpoint VR: Proving Grounds』。プレイヤーはそれぞれチームに分かれ、クリーチャーが徘徊する南極で、廃墟となった軍事訓練基地の制圧を目指す。戦う2チームとは別にエネミーも登場するPvPvE(プレイヤーvsプレイヤーvs環境)形式のため、ド迫力のVR空間で、複雑な駆け引きなども必要なバトルが楽しめそう。自宅にいながら南極を舞台にした臨場感たっぷりのサバゲーが楽しめるのなら、やらない手はないだろう。

 2019年サービスがはじまった『ソード・オブ・ガルガンチュア』も、この夏以降にPvPプレイヤーvsプレイヤーモードとなる対人戦「デュエル・オブ・ガルガンチュア」(仮)の実装を予定。このゲームの最大の魅力は、近距離戦ならではのド迫力な剣戟バトルが楽しめること。武器の持ち手が利き手であるかどうかや、腕を振り下ろす強さなど、様々な要素がダメージ量に反映されるため、戦略を練りながら相手を倒す必要がある。こうしたプレイヤープレイヤーのVRゲームは、通常のPvPとは一味違う体験になっていきそうだ。

 また、EA傘下のRespawn Entertainmentによる『Medal of Honor: Above and Beyond』や『Star Wars:スコードロン』といった人気シリーズの新作VR作品も続々登場予定。個人的には、2021年1月に発売予定の『HITMAN 3』のPSVR版が楽しみだ。この作品は「World of Assassination」3部作の完結編。既に公開されている映像を観る限り、「HITMANシリーズらしい「変装してターゲットを追尾する緊張感」などが、VRによって何倍にも増しそう。以降も、人気タイトルがVR化していく機会はますます増えそうだ。

 PSVRタイトルFate/Grand Order VR feat.マシュ・キリエライト』や、『アークナイツ』の公式生放送で公開されたアーミヤのバーチャルモデルを使った映像など、人気ソーシャルゲーム由来のキャラクターに焦点を当てた作品/宣伝にもバーチャルな技術が続々と使われはじめていて、この技術が今後どんなふうに活用されていくのかも気になる。

 タッチスクリーンの普及などによって指で直接的に情報を操作できるようになったのと同じように、コントローラーによって代用されていたプレイヤーの動きが、VRゲームではプレイヤーの挙動をそのまま反映する、人々のリアルな動作に紐づいた「体験」に変わる。これがVRゲームの世界で起こっていることであり、これから様々な形で、この仕組みを利用した新しいゲーム体験が生まれていくことだろう。近年はVRゲームをはじめる敷居も下がってきているため、気になる人は、この機会にぜひとも色々な作品に触れてみてほしい。

(杉山 仁)

『Half-Life:Alyx』