女優の多部未華子が主演を務める映画『空に住む』より、多部をはじめ岸井ゆきの、美村里江、岩田剛典ら、訳ありの難役に挑戦するキャストらの姿を捉えた劇中写真が一挙解禁された。

【写真】多部未華子、岩田剛典、大森南朋ら『空に住む』場面カット

 青山真治監督の7年ぶりの長編新作となる本作は、主人公の人生を主軸にしながら、異なる境遇で悩みを抱える20~30代女性たちの姿を映し出す。両親との死別、妊娠、出産など、現代女性の人生のターニングポイントに迫るさまざまなドラマと、彼女たちを支える人々の感情の機微や葛藤が、エチュードの様に丁寧に描かれる。ストーリーの原点となったのは、作詞家・小竹正人が手掛けた同名小説(講談社)。

 多部は両親の急死により、叔父夫婦の住むタワーマンションの高層階で暮らすことになった直実役。長年の相棒黒猫のハルと共に住み慣れない場所に突然連れてこられた直実は、現実を受け止めきれないまま、浮遊しているかのように毎日を過ごす。多部があまり感情を表に出すことが得意ではないキャラクターを丁寧に演じている。

 直実を取り巻くキャラクターも、いろいろ訳ありばかり。郊外の小さな出版社に勤める直実の後輩で妊婦の愛子(岸井)は天真らんまんさの裏に複雑な問題を抱え、信頼できるのは直実だけ。直実の叔母・明日子(美村)も誰もがうらやむセレブ生活を送るも虚無感は消えることはなく、直実の生活への干渉が激しく若干空気の読めないキャラクター。しかしその裏には誰にも言えない、かなえられない望みがあった。

 さらに直実の前に突如現れた日本を代表するスター俳優、時戸森則(岩田)も実態がつかめない、空気のような存在。エレベーターで偶然出会うというあり得ない展開も、多部と岩田の演技力で不自然に感じることはなく、むしろどこかおとぎ話のよう。ただこの夢のような展開も、青山監督の手腕によって、単なる夢物語になることはなく、直実は心の内が見えない時戸に次第に複雑な感情を抱え始めることになる。

 一見するとドロドロした世界に見える本作の中で、ひときわ輝き、見る者に優しい癒やしを与えてくれるのは、鶴見辰吾、大森南朋、永瀬正敏らイケおじたち。天涯孤独となり困っていた直実に手を差し伸べ、自身が持つ高級マンションへ呼び寄せた叔父・雅博(鶴見)はとにかく直実の味方で優しく明るいキャラクター。大森は、過去に直実が担当した小説家・吉田を演じ、ぼさっとしたビジュアルにぼそぼそと話す独特な空気感でドラマの雰囲気を一新している。さらに、年々渋さが増し本作でも謎の男というミステリアスな演技を見せる永瀬正敏や、直実の上司で良き理解者である編集長・柏木役の高橋洋と、脇を固めるベテラン俳優たちの演技も見どころだ。

 解禁された劇中写真では、マンションの室内で物思いにふけっているかのような直実(多部)、マンションの廊下に花束を持って座り込んでいる時戸(岩田)、和室で机に向かい、ICレコーダーを聞いている吉田(大森)、ワインの瓶を抱えて笑顔を見せる明日子(美村)らの姿が捉えられている。

 映画『空に住む』は10月23日より全国公開。

映画『空に住む』小早川直実役の多部未華子 (C)2020 HIGH BROW CINEMA