白痴(C)手塚プロダクション

 稲垣吾郎らが、公開20周年を記念してデジタルリマスタリングされ、劇場公開される、手塚眞監督の代表作『白痴』(10月31日公開)へコメントを寄せた。

 坂口安吾氏の同名小説を映画化。浅野忠信草刈正雄らの主演で話題になった作品。第二次大戦中の秘められた男女の同棲と逃避行を描く文学は、希代のヴィジュアリスト手塚眞氏のイマジネーション溢れる演出によって驚くべきアート・シネマに変容。

 99年の初公開時にはヴェネチア国際映画祭にてデジタル・アワードを受賞したほか、カメリマージュ国際映画祭・シルバーフロッグ賞、レイクアローヘッド映画祭ベスト・フィーチャーフィルム賞など各国の映画祭で絶賛された。

 しかしバブルの余韻残る当時の日本では「戦争」や「生きる覚悟」といったテーマは理解されにくいものだったという。早すぎた傑作は、様々な自然災害や世界的なテロの危機に見舞われた20年を経て、やっと真価が理解される時代が訪れる。

 作家自らのデジタルリマスタリングによってさらに美しくなった本編は「劇場で観られるべき作品」として映画本来の力を感じさせる圧倒的なアート・シネマといえよう。

 10年をかけた制作期間、巨大なオープンセットを実際に炎上させた迫力。人気絶頂期の浅野忠信、ファッション界のアイコンであった甲田益也子を中心に、大きくイメージを変えて挑んだ草刈正雄、強力なキャラクターを体当たりで演じた橋本麗香ほか、原田芳雄、江波杏子、藤村俊二岡田真澄ら往年の名優が贅沢に顔を揃える様は圧巻。

 11月20日に公開される手塚眞監督最新作『ばるぼら』に繋がる手塚組スタッフ(音楽=橋本一子、美術=磯見俊裕、メイク=柘植伊佐夫)らによる美学と音楽も堪能できる。

 公開に先駆け手塚監督より最新コメントと、稲垣吾郎岩井俊二監督ら各界著名人から応援コメントが届いた。

手塚眞監督コメント

 これを作った時代はまだバブルの末期で、命の危機感や生活の困窮など無縁でした。その後ニューヨーク・テロが起き、大震災があり、今はまたコロナ・ウィルスの脅威に晒されて、20年前よりも切実にこの作品が身に迫ってくると思います。ネット動画全盛の今だからこそ、劇場のスクリーンにこだわった映画美を堪能してほしいと思います。

稲垣吾郎(俳優)コメント

 『白痴』で目にした色彩の世界はまるで原体験のように脳裏に焼き付き、いまではぼくの美意識の礎となっています。当時は背伸びをして観ていたけれど、今見ると、すとんと心に染みわたる。何年かおきに見返しては、自分自身を見つめることができる作品だと感じます。僕が出演する映画『ばるぼら』に続く道は『白痴』から始まっています。

岩井俊二(映画監督)コメント

 主人公の男と白痴の女。二人が接触するシーンはルネサンスの名画を直に触れるような美しさだった。帝国の歌姫は真の主役かも知れない。彼女の狂気、秘めた葛藤、そして溢れる涙に心奪われた。

スプツニ子!(アーティスト/東京藝術大学デザイン科准教授)

 虚構ではなく真実と共に生きることを選んだ時、人間は迷い、不安を抱え、行きつく場所が見えにくくなっていても、真実が安心のできる場所に導いてくれる。不和の広がっている現在、心に刺さります。

津田大介(ジャーナリスト/メディア・アクティビスト)

 退廃の空気色濃い世界観に散りばめられた「謎は謎のまま」が極めて贅沢な映画。人の世は、諦念と執念、そして狂気と正気ただその繰り返しなのかもしれないと思わせる怪作。