JR東日本新幹線などの営業列車を使った物流を推進する構えです。これまで地方から東京へ食品や特産品などを試験的に運んでいましたが、今後はさらに、列車の「速さ」を活かした輸送を展開。そのビジョンを同社に聞きました。

旅客列車で「物流」 収益減を補うか

JR東日本新幹線などの営業列車を使った物流事業を強化します。同社は2017年以降、おもに地方から東京へ食材や地産品などを運ぶトライアル事業を行ってきましたが、2020年9月以降、次のような取り組みを行います。

・地方都市間「新幹線物流」と在来線「特急物流」の実現:たとえば函館のイベント会場へ新幹線で仙台から宮城県フルーツを輸送、静岡県から特急「踊り子」、茨城県から特急「ときわ」を活用し、東京駅品川駅のエキナカ商業施設へ鮮魚を輸送。

・定期輸送の拡大:荷主のニーズに応じて対象列車を増やし、定期的な輸送を可能に。将来的な輸送量の拡大を見据えた輸送方法を構築していく。

・JRグループ外の新規荷主の獲得:食材や地産品に加え、電子部品など列車の速達性を生かせる商品への拡大を図り、グループの枠を越えて、物流サービスとしての事業拡大を推進。

・利用者の「手元」まで商品を届けるサービスの実現:物流企業と連携のうえ、利用者の自宅や指定場所などでの受け取りを可能に。

JR東日本グループが運営するECモール「JRE MALL」との連携を通じたネットとリアルの融合の推進:野菜や果物、魚介などを、利用者からのオンライン注文に応じて新鮮な状態でスピーディーに届ける仕組みづくりを行う。

新型コロナの影響により、新幹線の旅客は大きく減っています。たとえば東北・上越・北陸新幹線は、7月の輸送人員がトータルで前年同月比72%減(国土交通省調べ)という状況です。果たして営業列車を活用した「物流」は、その収益を補えるのでしょうか。

旅客と一緒にどれくらい運べるのか?

JR東日本によると、今回の取り組みは旅客減少の影響を補う発想のものではないといいます。ただ、もともとトライアル事業を通じて検討していたそれぞれの取り組みを、「ポストコロナ」に向け強化するそうです。

たとえば新幹線では、1列車に1か所、車内販売アテンダント用の準備室を貨物スペースとして使うのが基本。現在は3辺の合計が120cmサイズの段ボール5、6箱が、1列車で運べる量だといいます。

これは終着駅に到着したのち、停車時間の範囲内で無理なく積み下ろしできる量だといいますが、10月以降、終着駅到着後の業務の一部見直しを検討しており、積み下ろし可能な量を増やすつもりだそう。前出の準備室を活用し、最大40箱程度になるといいます。

基本的には準備室のみを活用するため、今後、旅客需要が回復しても貨物量には影響しないとのこと。ただ、新幹線の1号車をまるまる貨物用にするトライアルもすでに実施しており、その拡大も検討していくとのことです。

また荷主の拡大については、生産者と消費者を直接つなぐアプリ「ポケットマルシェ」を運営する株式会社ポケットマルシェ(岩手県花巻市)との連携強化を、その一環として挙げました。

「ポケットマルシェ」と「JRE MALL」は10月下旬からシステム連携し、「ポケットマルシェ」での農水産物の購入で「JREポイント」が貯まる取り組みを行うとのこと。生産者とのつながりが深い同社のような企業から、荷主となる企業や生産者を紹介してもらう形が考えられるそうです。

ちなみに、新幹線だけでなく、高速バスなどでも旅客と貨物の「貨客混載」の取り組みが進んでいます。たとえば東京駅の「グランスタ東京」には8月に、新幹線高速バスで輸送された朝採れ鮮魚が届く回転寿司店などがオープンしています。

新幹線で運んだ海産品積み下ろしの様子(2019年6月、草町義和撮影)。