是枝裕和監督の映画『誰も知らない』(2004)で、第57回カンヌ国際映画祭にて史上最年少かつ、日本人初となる最優秀主演男優賞を受賞してから今年で15年。2020年3月26日に満30歳を迎えた俳優の柳楽優弥アニバーサリーブック『やぎら本』を9月20日(日)に発売する。出身地である東京都東大和市、語学留学のために滞在していたニューヨーク、プライベートで度々訪れるという台湾での撮り下ろしカットに加えて、自身の半生を振り返ったロングインタビューや、是枝監督、カンヌ国際映画祭の審査員を務めていたクエンティン・タランティーノ監督との対談のほか、ドラマ共演をきっかけに親交のある松坂桃李岡田将生との鼎談など貴重なインタビューも収録。自身初となるパーソナルブックには彼のどんな姿や思いが詰め込まれているのか。30歳を迎えた誕生日当日にインタビューをお願いした。

取材・文 / 永堀アツオ 撮影 / 増永彩子

◆焦りがあった20歳。30歳を迎え、強くなった「俳優としてレベルアップしたい」という思い。

ーー まず、本日、30歳の誕生日を迎えた心境から聞かせてください。

やっぱり新しいスタート地点に立った感じですかね。俳優としてレベルアップしたいという思いが強くなったというか、もっといい俳優になれるように帯を締め直そうっていう感覚がありますね。

ーー 30代を迎える直前はどんなことを考えてました?

先輩方によく聞いてはいたんですよ。「20代はこう過ごした方がいい」とか、「30代はこういう意識でいるんだ」とか。正直、今日、30歳になったばかりなので、まだまだ上手く言えないんですけど……なんていうんでしょうね。行動が変わってくるんだろうなとは考えてましたね。ちょっとずつ意識が高くなっていくというか、自分を律していくんだろうなっていうことをひしひしと感じてはいましたね。

ーー 焦りはなかったですか。男性はよく30歳になるまでに成し遂げておきたいっていう目標を掲げていたりしますけど。

僕は20歳の時にありました。20歳の段階でハリウッドスターになってる予定だったんですよ(笑)。でも、ハリウッドスターにはなっていなかったし、20代かけても難しかった。だから、僕の場合は20歳を迎えるときの方が焦りは強かったですね。僕は19歳で結婚して、子どももいるので、家族に対しても意識を向けないといけないですし、今は当時のように焦る気持ちはなく、落ち着いてきたという感じですね。

ーー 柳楽さんは、いわゆる男性の平均よりも10歳くらい早いペースで人生が進んでるんですよね。役者としてお仕事を始めたのも12歳という若さでしたし。

そうですね。自分の中ではそれでよかったなと思うことの方が多くて。だから、いろんなことが少しずつ前よりも落ち着いてきた感じですかね。もちろん、少しの焦りはありますよ。英語がもっと上達してるはずだったのに、とか。

ーー 10代の時に目標にしていたハリウッドへの思いは?

10代の時はとてつもなく強かったですけど、最近は日本で演技できて、日本の方に楽しんでもらえるエンターテインメント作品に参加できることが、とても楽しいんですよね。もちろん、ハリウッドでそういう機会があったらいいなとは常に思ってます。僕の場合、海外の映画祭を狙うようなインディペンデント作品に出させていただく機会も多いですし。でも、国内とか海外とか、インディペンデントとかメジャーとか、どれか1つと決めつけずに、いろんなジャンルでフレキシブルにやっていきたいなと思ってますね。

◆30歳という節目に実現した、念願のパーソナルブック。「シャボン玉感…出せたんじゃないかな」

ーー では、ここからアニバーサリーブックについてお伺いしたいと思います。初のパーソナルブックを出すことになったのはどんな経緯ですか。

今まで写真集みたいなものを出していなくて。僕は『いちごいちえ』というファンミーティングを毎年、開催しているんですが、以前からファンの方に「写真集を出さないんですか?」「パーソナルブックを出してほしいです」と、言っていただくことが多くて。30歳という節目だし、何か作品を作れたらと思っていたところで事務所のスタッフからも提案があり、ちょうどタイミングが一致して作ることになりました。今回は、本当に贅沢なことに、いろいろなカメラマンさんに、いろいろなシチュエーションで撮影していただきました。ベッドシチュエーションでの撮影は、あまりやったことがなかったんですが(笑)。

ーー 森 栄喜さんの写真ですね。

森さんのこと、すごく好きになってしまいましたね。なんで、僕でこんな透明感を出すことができるんだ? って。

ーー あはははは。「なんで僕で」ってことはないですけど。

自分で見ても「おぉ~」と思いました。単純に今までにないシチュエーションを楽しめたというのもあるんですけれど、フォトグラファーさんとしても、素敵だなと思いました。ほかの企画で撮影いただいた方もみなさん、色が違うんですが、本として全体のバランスがとれてるというのがすごいなと思いますね。楽しかったですね。

ーー 出身地である東大和市での撮影もありましたね。

正直、東大和ってそんなに画になる場所じゃないんですよ(笑)。

ーー 個人的な思い出はありますか。

プラネタリウムがあって、学生のデートコースだったりするんですよね。この土地ならではの楽しみ方があるんです。行ってみると、自分が育った場所なので、「懐かしいな。やっぱり好きだな」と、感じました。それと、今回の本を撮影するにあたって、スタッフさんから「柳楽さんのシャボン玉感を出したい」と言われたんです。「柳楽さんはナイフのようなイメージがある」と言われて(笑)。

ーー あはははは。難しくないですか。シャボン玉感って。

難しいですよ。ニューヨーク留学中の日記にも「どうやったらシャボン玉感を出せるのか?」と書いたりしてました(笑)。でも、面白いと思います、柳楽のシャボン玉感。かなり意識したし、出せたんじゃないかなと思います。

ーー (笑)。語学留学のために滞在していたニューヨークでの撮影は?

ニューヨークで活躍されているTAKAYさんという、カメラマンさんなんですが、普段は、ファッション雑誌などを撮られている方で。僕が「シャボン玉っぽい写真が撮りたいんです」と言ったら、「シャボン玉系じゃないでしょ」と言われました。TAKAYさんはバリバリのモード系ファッション雑誌などを海外で撮られている方なので、写真もクールでカッコいい感じなんです。それでも、「そんなに言うなら、俺もシャボン玉感、がんばってみるよ」と、シャボン玉感に興味を持ってくださって撮影してくれました(笑)。コニーアイランドという、ニューヨークの遊園地と海のシチュエーションで撮影していただきました。

ーー さらに台湾でも撮影されてますよね。台湾は何か縁があるんですか。

これまで仕事で度々訪れる機会があったのと、僕が台湾を好きだからですね。

ーー 好きな理由は?

小籠包がすごく好きなんです。人があったかくて、街の雰囲気もすごく好みなんです。食事が好きというのはすごく大きいですね。

◆“役者・柳楽優弥の生みの親”是枝裕和監督。そして、クエンティン・タランティーノ監督に聞きたかったこと。「主人公に求めるものはなんですか?」

ーー 撮り下ろしカットだけじゃなく、対談やインタビューも収録されてます。是枝監督との対談はいかがでしたか。

是枝さんと数時間、面と向かって対話をすることがあまりなかったので貴重な時間でしたね。個人的には、1つの作品に対してとか、演技やものづくりに対して、いろいろと僕も話せるようになったんだという発見というか、驚きというか、自分自身の成長も実感できて。12歳の頃から一緒に作品を作ってきた方とこうして話ができたことは新鮮でした。是枝さんとの対談は、とても勉強になりました。

ーー 役者としての柳楽さんの生みの親ともいえる是枝監督は、ご自身にとってはどんな存在ですか?

是枝さんは「親戚のおじさん」って言うんですよ。そう言われてたら、だんだん親戚のおじさんに見えてきて(笑)。すごい力を持った親戚のおじさんですね。是枝さんとは10代前半の僕のことを振り返ったりもしたし、今の僕のポジションについて意見をくださったり、今後のアドバイスもいただきました。だから、この本でのインタビューは、映画ファンの方にもぜひ見ていただきたい気持ちです。

ーー また、柳楽さんがカンヌ国際映画祭で最優秀主演男優賞を受賞したときの審査員長だったタランティーノ監督との対談もあったんですよね。

はい! 本当に最高でしたね。体も大きくて、オーラもすごいんですけど、優しいんですよね。(是枝監督と)共通の質問「主人公に求めるものはなんですか?」を聞いたら、お二人とも違う回答だったんですけれど、面白かったですね。これは、俳優の方が読んでも面白い内容になっています。

ーー どうしてその質問を投げかけたんでしょう。

来年公開される映画『HOKUSAI』やドラマ『二月の勝者-絶対合格の教室-』、映画『太陽の子』など、自分が主人公を任される場があるので、「主人公に何を求めるのか。主人公にはどんなイメージを抱いているのか」ということを世界で活躍する監督に今、聞いてみたかったんです。その答えの中には、まだわからないなと思うこともあるし、それでよかったんだっていうのもありました。『やぎら本』を読んでいただくときっとわかると思います。

ーー 主演作を中心にやっていきたいですか。

それは決めていません。主演は大変ですが、主演を任せていただけるというのはありがたいことですし、必死に頑張らないとなと思っています。けれど、どの役柄でも必死に向き合わないといけないという思いは、変わらずに持っていたいですね。

ーー ロングインタビューではこれまでの半生も振り返っているんですよね。詳しくは発売を待つとして、ご自身にとっての10代とはどんな日々でしたか?

10代はずっと、どうやったら演技が上手くなるんだろうと考えていましたね。今も答えはわからないんですけれど、当時は全くわからなかった。デビュー作の演出も独特だったので。

ーー 台本なしでやってたんですよね。是枝監督はよく「子どもを演出するときは、『誰も知らない』以降は台本なしでやってる」とおっしゃってます。

そうですね。だから、その後、どういう風にして、俳優として進んでいけばいいのかわからなかったですね。徐々に道が見えてきたかなと。

ーー 20代で見えました?

いろんな現場に参加させていただいて、いろんな監督さんや先輩の俳優の方と会えたことで気づけたことはたくさんありました。

ーー 転機となったのは?

僕が一時期、俳優の仕事から少し離れていた時期があって。19歳か20歳の頃、社会勉強のためにもと思ってアルバイトをしていたんですけど、そのときに蜷川幸雄さんが舞台の主演のオファーをしてくださったんです。「この僕に?」と思いましたし、そのタイミングにも本当に感動して、頑張らないといけないと強く思ったし、あれが転機だったなと思います。

ーー 初舞台が蜷川幸雄さん演出の『海辺のカフカ』(2012)で、その後、『NINAGAWA・マクベス』(2015)にも出演されました。

正直、舞台は怖いですね。『海辺のカフカ』はゲネプロが中止になって、本番で初めて通すという、初舞台にして、結構、怖い状況だったんです。その後も『金閣寺』(2014)と『CITY』(2019)という舞台をやらせていただきましたけど、楽しいという感覚はまだわからないですね。映画は現場中は大変ですが、初号試写で、「この作品、面白い」と感じたときに初めて自分が面白い作品に参加させていただくことができたんだと思えます。やってる最中は今でも緊張するし、楽しいだけではないですよね。

◆役者として考えるこれからの未来。プライベートでの目標。

ーー 役者としてのこれからの未来はどう考えてますか。

監督や演出家、共演者の方々など、30代でどういう方達と出会えるのかが楽しみです。これからもオファーをいただいた作品、1つ1つに誠実に向き合っていきたいですね。それはこれから先もずっと変わらないことだと思います。

ーー 先ほどあった「ナイフのようなイメージ」があることにはどう感じてます?

作品の力ってすごいんだなと思います。でも、それを求められていることも1つの個性ですからね。いただいた役柄は、しっかり頑張っていきたいなと思いますが、30代は30代なりの色が出てくると思うので、どういう感じになっていくのか楽しみです。

ーー みんなが最初に思い浮かぶのは、やっぱり『誰も知らない』や『クローズEXPLOSE』(2014)、『ディストラクション・ベイビーズ』(2016)のような、殺気を感じる役柄なんですよね。だから、逆に『銀魂』(2017・2018)でのトッシー(=土方十四郎アニメオタク)への変身はいい意味で裏切られた思いがして新鮮でした。

そうですよね。福田(雄一)監督の作品に僕が出演させていただいたことにびっくりした方も多かったみたいです。これからもあまり頑なに決めつけずに、フレキシブルなところを持っていたいなと思いますし、繰り返しになってしまいますが、これからどういう人と出会えるのかというのが、今は楽しみで仕方がないですね。

ーー 最後に、役者という仕事を離れた部分での目標も1つお伺いできますか。

じゃあ、小籠包……いや、ラザニア作れるようになりたいです(笑)。最近、料理を始めたんですよ。パスタとか、いろいろな料理にトライしてるので、行き着くところはラザニアかなと思ってます。友達に「今日、ラザニア作ってるから」って言いたいし、料理のレパートリーを増やしたいですね。みんな、喜んでくれますからね。そして、料理だけじゃなく、洗い物もしっかりするっていうのを30代の目標にしたいです(笑)。

柳楽優弥、30歳。話題を呼んだ『誰も知らない』からこれまでを振り返る。そして、これから…。は、WHAT's IN? tokyoへ。
(WHAT's IN? tokyo)

掲載:M-ON! Press