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20年前に誕生した2台のホットハッチ

text:Ben Barry(ベン・バリー)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

 
21世紀が始まろうとしていた頃、ホットハッチは健在だった。保険料の高騰などが影を落としていたが、欧州ではマックスパワーという自動車雑誌が人気を集めていた。

日本でも知名度のあるトップ・ギア誌より、英国では部数を稼いでいたほど。カラフルな紙面は、DIYでのエンジン換装やワイドフェンダー化など、ホットハッチの情報で満載だった。

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ルノークリオ(ルーテシア)V6 フェイズ1/フォルクスワーゲンニュービートルRSI

実は筆者も20年ほど前、マックスパワー誌の編集に関わっていた。V6エンジンを載せたヴォグゾール・ノバの助手席で悲鳴をこらえ、ツイン・エンジン化された初代フォルクスワーゲンゴルフを、必死にドライブした。

当時の自動車メーカーが販売していたホットハッチは、ちょっと熱量が低かった。とても新鮮な体験だった。

マックスパワー誌が、どれだけ市場へ影響を与えたのかはわからない。でも、ミドシップルノークリオ(ルーテシア)V6と、四輪駆動フォルクスワーゲンニュービートルRSIという、異端児が誕生したのは確かだ。

リリースされたのは、どちらも2001年。重低音を響かせるV6エンジンを、小さなボディに押し込んでいた。ボディは派手にワイド化され、見違えたダッシュ力を秘めていた。

当時でも、並外れた存在だった。突然に姿を表した、モンスターマシンにも思えた。

ルノーフォルクスワーゲンも、ホットハッチを切り拓いたのは1976年。5ゴルディーニと、ゴルフGTIの登場から25年後、加熱されすぎたクリオV6とニュービートルRSIへとつながった。

クリオのボディを171mmもワイド化

ルノークリオV6は、血筋が確かだ。1980年代ラリーシーンでの活躍を目指して誕生した、ミドシップの5ターボへさかのぼれる。

1990年代には、ルノーウイリアムズと組み、F1で活躍。6度のマニュファクチャラーズ・タイトルを獲得した。その栄光を受け、1995年にはV10エンジンを搭載した1台限りのMPV、エスパスF1を生み出している。

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ルノークリオ(ルーテシア)V6 フェイズ1(英国仕様/20012003年

翌年には、車重930kgのロードスタールノー・スポールスパイダーを発表。ルノーポールのエンブレムを付けた、初めてのモデルとなった。そして、今回ご紹介するクリオV6が続く。

ルノーは、スポールスパイダー選手権に続くワンメイクレース用として、クリオV6を立案。1999年、少量生産のロードカーとして発売された。

開発はルノーとともに、英国のトム・ウォーキンショー・レーシング(TWR)が請け負った。スウェーデンのウッデバラ工場で、ボルボC70クーペの隣で、職人によって組み立てられた。

ご紹介するこのクリオV6は、フェーズ1と呼ばれる初期型。良好なオリジナル状態が保たれている。製造されたのは1516台で、現オーナーマーク・ケンプソン。専門ショップのSGモータースポーツ社が面倒を見ている。

ボディは171mmもワイド化され、エスパスF1のシルエットと重なって見える。F1マシンのようなサイドポンツーン風のエアインテークを備え、リアシートはない。

停まった状態でも、2.0Lの4気筒エンジンフロントに収まっていないことは明らか。ミドシップされたV6エンジンが、ドライバーの背後で、滑らかに目覚める。パワフルな、分厚い息遣いを感じ取れる。

心臓が口から飛び出るような運転体験

エンジンサウンドは洗練され、手頃なハッチバッククリオインテリアと奇妙な関係を生んでいる。当時の価格は2万5995ポンド。フロントエンジン最強だった、クリオ172より1万1000ポンドも高かった。広告では、ポルシェ・ボクスターと比較された。

ブルーグレーに着色された、プラスティック製部品が車内を飾る。シートの位置は高く、サイドサポートも甘い。広々とした前席回りは、基本的にクリオ172と共通。大幅に肉体改造された容姿とは裏腹でもある。

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ルノークリオ(ルーテシア)V6 フェイズ1(英国仕様/20012003年

シャシーはまったくの別物。リアのボックスセクションには、専用のマルチリンク・サスペンションを装備。フロント部分には、4気筒エンジンではなく、補強用のクロスメンバーが組まれた。

フロント・トレッド110mm拡幅。リアは138mmも広い。フロントフェンダーは切り取られ、幅広の17インチホイールを収める、専用のフェンダーが溶接されている。クリオ172は、15インチだった。

ブレーキは、APレーシング社製の4ポッド・キャリパー。かなりハードコアなモディファイだといえる。

ところがルノーは、グランドアラー指向の強い、しなやかな乗り心地のスポーツカーとして売り出した。その柔らかさが、心臓が口から飛び出るような、チャレンジングなドライビング体験を生んでいる。

クリオV6は穏やかにボデイをロールさせ、橋桁の継ぎ目も滑らかにこなす。だがコーナリング時は、リアタイヤは外へ流れようとする。攻め込まずとも、ボディの重心移動がダイナミクスへ大きな影響を与えているのがわかる。

短い全長、軽いフロントと重いリア

普通に運転している限り、悠々と走れる。ステアリングは重さを増し、精度が高められている。長いシフトレバーが、通常のクリオより高い位置に伸びる。鋭く噛み付くAPレーシングブレーキとは好対照だ。

V6エンジンは、低回転域からエネルギッシュにボディを進める。ラグーナから持ってきたエンジンに、圧縮比を高めた専用ピストンと、最適化された給排気システムが組まれている。フライホイールも軽量化された。

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ルノークリオ(ルーテシア)V6 フェイズ1(英国仕様/20012003年

レブリミットは500rpm高め、7100rpmへ設定。最高出力は20psをプラスし、233psを獲得した。

小さなボディに大きなエンジン。ところが、アクセルを踏み倒しても、期待ほど初めの勢いはない。V6エンジンを搭載したことで、車重はクリオ172より300kg以上重い、1355kgになっていた。

回転の上昇とともに、加速は激しさを増す。7000rpm目がけて、怒ったように威勢よく吹け上がる。必死にならずとも、ハイペースで走るのに不足ないパンチ力がある。

ABSの設定は素晴らしく、フロントタイヤロックするギリギリまで制動力を発生。ブレーキペダルを踏むと、勢いよく速度を殺せる。

アクセルペダルを放し、フロントノーズをコーナーへ向ける時は注意が必要。前が軽く、フロントタイヤは外へ滑ろうとする。デリケートでシンプルな、物理の法則が存在する。

クリオV6は、ミドシップスポーツカーとしては全長が短く、足まわりは柔らかい。リア寄りの重たいエンジンは、コーナリング時に外側のリアタイヤへ、荷重を載せる。サスペンションは圧縮され、エンジンは振り子のように振る舞う。

魅了されるほどチャレンジングな体験

クリオV6は、アクセルでの姿勢制御はしやすい。バランスに優れ、足まわりの柔らかさが、漸進的な挙動を生んでくれる。

ただし、急にアクセルペダルを離すと、一気に姿勢が乱れる。リアは弾かれるように動き、ステアリングでの対応に追われてしまう。

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ルノークリオ(ルーテシア)V6 フェイズ1(英国仕様/20012003年

ミドシップとして、甘美な操縦性を味わえる領域はとても狭い。危険なほどに。狭い隙間を見つけても、テールスライドに持ち込むための、LSDは付いていない。

走り慣れない道のコーナーを、速くすり抜けられるクルマではない。結果として、クリオ172の方が親しみやすく、速く走れる。

それでも、クリオV6のドライビング体験は素晴らしい。魅了されるほどチャレンジングな体験だ。

フェイズ2のクリオV6が登場したのは、2003年。フェーズ1の弱点を補っていた。サスペンションは引き締められ、見た目もスマートになり、バランスも改善されている。現在の取引価格にも反映している。

一方で、フォルクスワーゲンニュービートルRSIが作られたのは250台のみ。ボディ色はすべてシルバーだった。ちなみに、青色に塗られたフェルディナント・ピエヒ用のRSIが、別にもう1台あった。

今回ご登場いただいたクルマは、最近ノルウェーから英国へやって来た。オークションで3万3750ポンド(459万円)で落札したという。

同年代に誕生した、似たコンセプトを備えるモデルだが、クリオV6と比べると遥かに保守的。パフォーマンスとしては近い位置にあるが、経済性でもだいぶ優れている。

この続きは後編にて。


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