新型コロナウイルスの影響で落ち込んだバス需要、その再起への期待がかかっていた「Go Toトラベル」キャンペーンも、「東京除外」の終了でいよいよ本格化します。この間、事業者や自治体も試行錯誤を重ね、状況は変化しています。

「Go To」活かせなかった8月も繁盛していた高速バス路線も

2020年7月に開始が急きょ前倒しされ、当初は混乱がみられた「Go Toトラベル」キャンペーン。しかし新型コロナウイルスの感染ペース鈍化を受け、10月出発分から、東京都民の旅行や東京を目的地とする旅行を対象外とする「東京除外」の終了や、現地で使える「地域共通クーポン」の利用開始も決まり、ようやく本格的に事業開始となりそうです。

そして、需要が大きく落ち込んでいた高速バス業界も、試行錯誤を重ねて本キャンペーンを活用しようとしています。

最近では医学的知見も蓄積され、マスクや消毒を徹底する限り、公共交通機関による移動そのものの感染リスクは小さいことが報道されています。「お出かけ需要」も、まずは大都市近郊の観光地から回復する動きがみられます。

東京都神奈川県各地から御殿場プレミアム・アウトレットへの高速バスは、一部が運休しているものの、運行中の便については、週末には続行便(2号車)もみられるようになりました。関西でも、西日本ジェイアールバスが、大阪や神戸から有馬温泉までの高速バス乗車券と、現地の入浴券をセットにした割引乗車券を設定し、需要回復に努めています。

ただ、これら日帰りの個人旅行は、バス事業者への直接予約で、旅行会社を経由しないため、「Go Toトラベル」対象になりません。そこで、次は、宿泊付きのパッケージを充実させ、キャンペーンによるお得感を打ち出すことが望まれます。

「東京除外」終了でようやく機能するお得商品たち

実は、1席単位で座席管理する高速バスと、1部屋単位の宿泊とを旅行会社がセットにして販売するには、ITシステムに相応の準備が必要です。

鉄道や航空と異なり、高速バスに関して対応できていたのは、一部のバス事業者系旅行会社などに限られます。また、JTBなど大手を除くと、多くの旅行会社は、全国の宿泊施設と契約し客室を在庫としてキープしていません。得意な地域に限って宿泊施設と契約し、システム連携して販売するとともに、それ以外は大手のプランを代売しているのです。

したがって、高速バス事業者とも、その沿線の宿泊施設とも契約があって、システムが連携しており、かつ両者をセット販売できるようシステム改修済み、という条件が揃わなければ、旅行会社は「高速バス+宿泊」商品を販売することができません。

バスタ新宿から中央道方面への高速バスは、それが実現していた数少ない例でした。しかし、「東京除外」によって、代表者の住所確認のため追加のシステム改修が必要となりました。新宿発ゆえに利用の多くが東京都民と考えられ、追加改修を見送らざるを得ませんでした。

今回、「東京除外」が終了することで、山梨県の河口湖温泉、下部温泉、石和温泉や、長野県の昼神温泉(以上、販売元は京王観光)、上高地(同・アルピコ交通)、岐阜県飛騨高山(同・濃飛乗合自動車)への「新宿発の高速バス+宿泊」商品が、キャンペーン対象となると見込まれます。宿泊費だけでなく、往復のバス運賃も含めたパッケージ料金全体の35%が割引となるのです。このほか、富士急トラベルが販売元となる日帰り商品の「高速バス富士急ハイランドのフリーパス」も同じです。

他の方面では、新宿から群馬県草津温泉、伊香保温泉や、東京駅から群馬県の四万温泉や千葉県南房総方面への「高速バス+宿泊」(同・京王観光)も同様と見られます。

なお、「東京都民の場合は割引率上乗せを検討」という報道もあります。その場合、システムの追加改修が必要となり、結果として「Go Toトラベル」対象商品が増えない、ということも懸念されます。

九州ほぼフリーパスで全体35%引きのアイデア商品も

意外な方法で、システム改修の負担をクリアした旅行会社もあります。西鉄旅行は、自社で契約がある九州各地のホテルや旅館と、九州内の高速バス路線バスなどが乗り放題となる「SUNQ(サンキュー)パス」をセットにした商品を設定しました。

SUNQパス」で乗り放題となる高速バスには予約が必要な路線もありますが、旅行者自身が電話やウェブで予約することになっています。旅行会社がパッケージ商品の申し込みを受け付ける時点では、高速バスの座席確保まで行う必要がありません。さらに、旅行会社で「SUNQパス」を申し込んだ場合、旅行当日にバウチャー(引換券)や予約確認メールをバス事業者の窓口でパスに引き換えるオペレーションは、以前から確立済みです。

つまり、「SUNQパス+宿泊」であれば、システム改修することなく、パッケージ料金全体の35%引きが実現したのです。もちろん、旅行者は往復の高速バスに加え、旅先での路線バスや一部の航路なども「SUNQパス」を見せるだけで利用できるので便利です。目立ちませんが、アイデア商品といえるでしょう。

各地の自治体も観光客の誘致に乗り出していますが、「観光客=団体」と捉え、貸切バスを使うツアーへの補助金を設定する例が見られます。しかし、多くの学校は授業の遅れから遠足や修学旅行を縮小し、また旅行会社のバスツアーを好むシニア層は出控えを続けており、団体旅行の需要回復は遅れそうです。冬場のスキー合宿などターゲットを決め、戦略的に誘致に取り組むのでなければ、効果はいまひとつでしょう。

そうしたなか、県として、個人旅行に焦点を当てた助成を打ち出しているケースもあります。

当面は個人旅行が主流か

そのひとつが高知県です。「Go Toトラベル」を使えば宿泊が35%引きで予約できるのに加え、往復の交通費の一部、ひとり当たり最大5000円を県が助成する「高知観光リカバリーキャンペーン」を実施しています。クルマ旅行なら1台当たりで5000円(高速道路料金やレンタカー代などが対象)ですから、公共交通を利用した方がお得という設定も秀逸です。

個人で申請しキャッシュバックを受けることができるほか、旅行会社があらかじめ割引額を織り込んで「高速バス+宿泊」のセット商品を作ることができます。琴平バスの名古屋発や、神姫バスらの神戸発の高速バスと、高知県内の宿泊をセットにしたコースを、ホワイト・ベアーファミリーが設定しています。

なお、このような「Go Toトラベル」対象の「高速バス+宿」商品は、筆者(成定竜一・高速バスマーケティング研究所代表)が監修する「高速バスで行く!Go Toトラベル」特設サイトでリスト化して紹介しています。

新型コロナウイルスの感染拡大は、我が国の観光産業に大きな痛手を与えました。ただ、多くの観光地や宿泊施設が、団体旅行に依存する「昭和の旅行」モデルから抜け出せず、消費者に飽きられかけていたことも確かです。この危機を逆手にとり、ひとりひとりの興味関心に基づく自由な個人旅行を楽しんでもらえるよう変革が進むか、業界の力が問われているともいえるでしょう。

2020年8月は需要が大きく落ち込んだ高速バス。写真はイメージ(2020年8月、中島洋平撮影)。